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佳子の能力

 ここは穀物倉庫。


 いつものように子猫と遊ぶユキオ。そのユキオにシェルパスタを出してもらい、旨そうに食べる桃神様。

 桃神様がパスタをひとつまみ親猫に差し出すと親猫がパクりと食べる。もうひとつ差し出すとまたパクりと食べる。親猫はトマトの味付けは気にしないらしい。


「ユキオよ、佳子のことはどう思った?」


「異常に勘がいいですね。試しにテニスをしてみたら高確率、いえ、完全に先読みでコースを当ててます。だからといって返球出来る訳ではないですが。桃神様が何かしたんですか?」


「してない。あの勘の良さは魂の持つ性能が現れだしたといったとこだろう。時と時代が違えば救世主と呼ばれる存在になる」


「勇者・・・ですか」


「そうとも言う。だが、残念でならん。佳子は地球に戻るつもりだ。地球の生存確率は3パーセントを切る。悪い方に下がることは有っても上がる事はない。どんなに佳子が優れていてもどうにもならん。あの子は運を切り開く。だが、大局の前では無力だ。

 地球のCO2削減派は更に過激になっている。ゆくゆくは生存率0パーセントになるかもしれん。つまり全滅だ。だが佳子はそうなろうと地球に行くつもりだ。死ぬと判っていてもな」


「全滅・・・」


「ユキオは帰ってはならんぞ。米がわざわざ確保した遺伝子だからな。佳子にも此方に留まって欲しいところだが、あの子の魂の力は恋人への想いから来ておる。止められん」


 地球ではバッテリーの材料にするレアメタル採掘で大地と川が汚染され、山の木を切り太陽発電パネルが置かれ、老朽化したパネルが有る地域は放置され、新たな山が切り開かれまたパネルが置かれる。

 まるで太陽光パネルの焼き畑農業。

 それは人間の行動パターンではいつものこと。

 太陽光ブームの前も、人は農地を埋め立てて住宅地を作り住宅や会社を作る。それが老朽化しても更地にしてやり直すのではなく、新たな農地を住宅地の為に潰した。そして町の人口は変わらないのに住宅地だけが増えていった。同じ事を繰り返している。その住宅地に住む者がCO2の削減を訴えているのは滑稽だ。


「どうにかならないのですか」


「ならんな。そもそも太陽の動きなど我々にはどうにも出来ん。100年前、神々は気楽に構えておった。生き物は沢山死ぬがまた増える。昔はそうだった。地球の生物は何度も減ったがその度にまた増えた。

 だが、今回は違う。人間が地磁気に蓋をしはじめ、大気圏の外まで覆っていた地磁気は弱くなった。しかも、スーパーフレアが来れば、大気と水の何割かは失われるし電子機器が壊れる。33年後には現在の三倍以上に増えた原子力発電が一斉に暴走する。しかも地上の水の何割かが宇宙に放出されるのでは、緊急冷却すら出来ん。今回はダメかもしれん。いや、駄目だろう」


 地球は過去何度も異常事態に直面した。原因は様々だ。そして生き物が大量死した。

 だが復活した。

 しかし今度は・・





 ーーーーーーーー





 佳子 (3-4) クラリス

 こんな筈では!


 クラリスと1セットだけの試合をしているのだけれども、遂にポイントで抜かれた。

(1-0)

(2-0)

(3-0)

 と、ストーレートでリードしていたのにさ、


(3-1)

(3-2)

(3-3)

(3-4)

 と、遂に抜かれた。


 1インチ長いラケットをほぼ()()()で振るクラリス。アンダーサーブのクラリス。泥臭いローボレーやスライデインングはしないクラリス。弓なりの弾道で返球のクラリス。勝負を仕掛けないクラリス。


 だが、圧倒的な返球率。


 普段着で100メートル7秒台の女。同じ体格でも超人的な筋力と体力を持つ女。鋼鉄の平常心を持つ女。


 8ゲーム目(15-0)

 クラリスのアンダーサーブから始まったラリーは20打以上を費やしてやっと1ポイント。


 長すぎる!

 スタミナ負けする!


 いかん、うんざりしてきた。

 クラリスは強打もしないし左右の揺さぶりもしてこなない。そもそも攻め込んで来ない。クラリスのゲットしたポイントの八割はこちらの自爆点だ。


 お嬢様走りなのに全ての玉に追い付きつき返してくる。

 揺さぶりもを掛けてやろうと、クラリスを前に誘きだしても拾うだけ拾ったら下がってしまう。

 ならばとこちらがネットに張り付くと、ロブで定位置に返されて自分まで元の位置に下げさせられる。強打戦には付き合ってくれなくてポヨヨンされる。


 お、終わらない・・・

 そして、苛ついて強打するとミス。

 足で追い付かれまいと長く打つとアウト。



「頂き!」

 これは取れまいと強打したらネットした。

 あうう。


 佳子 (3-5) クラリス



 ヤバい、崖っぷち。

 どんな難玉も笑顔で返すクラリス。これは勝てない。


 しかし、地獄はここからだった。

 ゲームは(3-5)で(0-40)

 あと一球でクラリスの勝ち。



 なのだが。



 最後の一球が既に20打も続いている。

 全ての玉を綺麗にセンターに打ち返すクラリス。


 これは・・・

 遊ばれてる?

 終わる筈なのに終われない。

 私は最後はネットに引っ掻けてゲームセットとした。

 これはわざとだ。

 だってさあ、クラリスは明らかに私の失敗アウト玉を拾って返すんだもん。

 おわんねーよ。


 試合終了。

「有り難う御座いました」

「モウスコシウチマセンカ?」

「えええ・・・」





 エース交代の日であった。




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