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猫誕生したぞ

 山岸は麻生にメールを飛ばす。

 彼の連絡はもっぱらテキストだ。音声による電話をすることは希だ。


 その内容。

 意見力だけは強いヨーロッパの環境団体が政府を動かし、世界の工場と呼ばれる国にとあるものを複数発注した。


 それは超大型オゾン発生装置。

 そしてそれを積む超大型船。当然船と装置の動力は原子力だ。

 更にはそれをサポートする船団。これも原子力発電と原子力電池。


 極点付近のオゾンホールを人類の力で補おうという大義名分。しかし、実際の派遣場所は極点ではなく磁極点付近。

 そう、地球の磁力の要の場所。そして地球の磁極はコアの動きに影響されよく移動する。そのため、磁極を追いかける為に、地上プラントではなく船という形態を取る。彼等の行動力には恐れ入る。

 作ったオゾンが果たして上空にたどり着けるかは疑問だが、オゾンの効果など彼等は求めていない。目的は発電と電力消費による大型乱磁気の発生。


 そしてオゾン自体は生物には毒物だ。

 オゾン発生船は人間が居るには危険。操作は離れたサポート船団からリモートで行われる。メンテナンスの駐在員の移動も電動車と電動船と電動ヘリが使用される。


 いくら原子力発電の乱発とはいえ、人間が作った乱磁気に威力はあるのか?

 地球の持つ磁気に比べれば少ない。

 だが、それでも価値は有った。残り4パーセントの生存率を0に近付けるだけなのだから。


 人類を全滅させる活動なのに、安全性を高める為にサポート船団を作るとは滑稽もいいところ。まあ、それすらも磁気発生に利用しているのだが。





 ーーーーーーーー




 神子とラララさんがウエアル城に来たのは、サクラ姫が来ると予告した日から3日も後だった。


 猫の棲みかは穀物倉庫の宿直室脇物置小屋。

 母猫は元は野良猫だけど、穀物の敵であるネズミを捕獲して食べるので、倉庫の人から可愛がられていた。という訳で母猫は人間には慣れている。


 猫の出産が近くなり、漸くラララさんにウエアル行きの許可が出た。許可したのは神子だ。

 なんせ、村の仕事の他に神候補生としての勉強もあったので忙しかったのだ。


 ラララさんがウエアルに来る代わりにコユキさんが村に戻る。

 おおう、ラーメン屋の店員が可愛いラララさんから怖いねーさんに交代か。

 まあ、コユキさんも美人なんだけどね。

 そして、ラーメン屋の客はコユキさんとラララさんが子持ちだとは知らない。

 ラーメン屋に通って口説けば付き合えるかもと思っている人が多いそうだ。

 でもなあ。無理だよなあ。



 猫の出産は夜中になったのだけれど、さすがに母猫が警戒しっぱなしだったので、流石のラララさんも猫の巣(積み上げた藁束の隙間)には近寄らなかった。


 だが、ラララさんは守護神の如く猫の巣のある小屋前に長い棒を持って立った。

 猫の出産は命がけだ。

 出産自体大変だし、天敵が来る。敵はイタチや野良犬、そして他の猫だ。

 皆、産まれたばかりの子猫を狙う。食料としてだ。出産中、あるいは出産したばかりの母親は弱い。


 ユキオさん曰く、

「あんな怖いラララを見たのは初めてだ」

 だそうだ。

 想像出来ないわ。


 猫の出産は無事済んだそうで、ラララさんの愛しのトムムの魂を受け取った猫は、四つ子のなかの三番目に生まれた♂。

 子猫の模様は全部茶トラ。親も茶トラ。

 可愛いいそうだけど、私はまだ見ていない。


 朝になって母猫が落ち着いて、子猫も母乳ポジションが決定した頃が一番カオスだったらしい。

 やたら手を出そうとするラララさんが神子に怒られ、巣穴の外からユキオさんが地面に頭擦り付けて、

「あの時はすまんかった!」

 と、子猫にひたすら謝ってるし。

 何故か猫の出産祝いで穀物問屋内では赤飯が振る舞われたし。問屋のおかみさんが初めて見る赤飯の味と見た目に感動してユキオさんに作り方と米の種類を教えろと詰めよってたそうだ。

 そういや、この町で食紅は見たことないわ。どうすんだろ。



 そして漸くラララさんが城にやって来た。

 神々しい姿で来るかと思ったけど、どこから見ても可愛い巨乳中学生で、何故かラーメン屋の制服の黒T着てるし、車運転してくるし、小学生くらいの男の子連れてるし。(ユキオさんは猫の番)


 神には見えないわ。


 そして何も知らない城の人達がラララさんを見て『可愛いねえ』なんて言ってるけど、その子は神に乗っ取られたユキオさんにさんざん絶頂させられて神子を3日で産んだ人だぞ!母乳でるんだぞ!飲ませてるんだぞ!そこのでっかい子供に!





 神子、ラララさん、サクラ姫の三人が並ぶ。


 出迎えるのは私とクラリス。クラリスは初めて神子とラララさんに会う。


 場を取り仕切ったのは神子だった。


「君がクラリスだね。私は神だよ。君の神ではないけれどね。そして今後はラララが君の神となる」


「私がラララです。貴方の声を聞きたいわ」


 クラリスは驚いてる。

 全員がクラリスの言葉を話しているんだから!

 と、思ったら、サクラ姫はニコニコしてるだけだわ。絶対解ってない。


「クラリスです」


「クラリス君。君は以前の世界の神からの支配から外れて68年以上年経っている。よって、他の神は君を自由に獲得する権利がある。これよりラララが君を迎え入れるが異論はないね?」


「はい」


 はい、そう答えたけれど、実際のところ、クラリスは何が何やらといったところで、解ってないと思う。私もよく理解できないし。

 そもそも生物は神の支配下だとか、今までも実感ないし。


 優しい聖母な声を発するラララさん。

「ククリ」

「分かっているよ」

 ククリって誰かと思ったら神子のことだった。


「クラリスよ。ラララは望んだ魂と出会えて大変機嫌が良い。君にはラララのサブルーチンとして働いてもらうけれど、その前に祝福を与えよう。何か欲しいものはあるかい?」


 ええとつまり、猫が産まれたお祝いに何かくれるってこと?

 倉庫のほうは赤飯が振る舞われたというし、クラリスも赤飯かな?いや、そうめんかも。いやいや、まんじゅうかもしれん。



「なんでも宜しいのですか?」


「勿論手に入らないものもある。一番欲しいであろう君の夫の魂は既に旅立った。ただ行く先はこの世界の内側だ。前の世界ではない。さあ、申してみよ」


「では・・・」


 そう言いかけてクラリスは止まった。

 遠慮したの?

 つまりはまんじゅうではない。そんなもんに遠慮はしないだろう。まんじゅうなら走ってお菓子やさんに取りに行けるし。



「当たり前の体が欲しいです」

 クラリスはそう言った。


 当たり前の体?

 100メートル20秒の体?

 Bカップの体?(個人の見解です)



「つまりは普通に成長して歳を取り果てる体ということだね」


「その通りで御座います」


 思ったのと違ったわ。

 そっちかよ。永遠の若さって憧れるけどなあ。いらないの?私にくんない?



「ラララよ、良い課題が来たよ。やってみるかい?」


「やります。私のものになるのです。私がするべきでしょう」


「クラリスよ、そなたの願いを叶えよう。少し時間はかかるけれど必ず与えるよ」


「えー!永遠の若さ捨てるの!勿体ない!」

 思わず言っちゃった。


「佳子よ。これは必要だ。実はクラリスの若さはとある術の副作用だったのだよ。体も成長しなければ脳も成長しない。

 クラリス、新しい事を覚えられなかっただろう?それは新たな能力が脳に書き込まれなかったからだ。そこにあるプロテクトがかかっていた。かけた人間はもうこの世に居ないが掛けろと言ったのはリョウタだ」


「どういうことでしょう?」


「クラリス。君の夫ジーヘイは学生時代に論文を書いたであろう。憶えているかい?」


「読んではいませんが概要は知ってます。それが?」


「それが原因だ。君達の世界の魔法は遅れている。術が短く複雑なものが組めない。そして魔法の分業化が進んでいる。だがジーヘイは法術の自己記憶以外の外部記憶方法の可能性を研究した。それが可能な筈だと。しかしそれは老人達の怒りに触れた。老人達は長い法術を高値で売ることを糧としていた。ジーヘイの研究が実ったならば100人分の法術を一人で使える。しかも使う為の準備は一人分だ。法術を教える作業の価値が下がるのはわかりきっている。それは老人達の収入源だから。今までもこのような事がある度に老人達は研究者を闇に葬ってきた。

 画して老人達はジーヘイを葬る事を選んだ。だがジーヘイは強い。簡単に命を落とすような間抜けではない。そこで老人達が仕掛けたのは時空の落とし穴だ。ターゲットはジーヘイとマリアとベッキー。マリアとベッキーも協同研究者だったからな。そして、何か受け継いでるかもしれない君もターゲットに含まれた。何しろ君はジーヘイの恋人だ。情報を貰ってると思われても仕方ない。だが、時空の落とし穴には現場で実行する者が必要だった。老人達の術では遠隔では上手く動作しないし狙いが逸れる。その現場での役目がリョウタだ。彼は取引した。リョウタはクラリス、君が欲しいと。例え穴に自分も落ちようとも。老人達はそれを飲んだ。ジーヘイは防御が強くて攻撃しても死なない。だが弱体化させるにはどうしたらいいか。しかも、協力者のリョウタには恩恵を与えたい。そこで老人達は君達の能力、細胞の成長に上限をつけた。原理を説明すると長くなるが、頭の良い者はもう良くはならない。頭の悪い者はまだ能力が上がるといった具合だ。新たな反撃の術を作らせない目的だ。副作用として成長と老化がなくなる。

ジーヘイは能力が既に高すぎた。80年後には押さえ付けに耐えきれなくなり壊れた。だが良く持ちこたえた方だ。頭が良かったからこその悲劇だ。君はそこまでではなかったから助かったが、新たな物を覚えられない。ここの言葉とかね。

 マリアとベッキーも能力が高く精神を破壊された。マリアとベッキーは助手だが能力が高すぎた。そしてこの世界に来た衝撃で体も壊れて完全な鬼に墜ちた。呆れるのはリョウタだ。努力すれば君と同等の強さを得られた筈なのに弱いままだった。能力の上限には達していないので色々向上出来たのにしなかった。覚えたのは現地語だけ。駄目なヤツは駄目なんだね」


「ジーヘイ・・・」


 クラリスの脳裏にはやはり夫が浮かぶのだろう。


「夫はあんな研究をしなければよかったのでしょうか?」


「何を言うんだい。僕から言わせれば技術が遅れすぎだよ。君の夫の理想が全て叶ったとしても、僕の1千分の1程度だよ。あの罠を仕掛ける為に老人30人同時に動いたというから、逆の意味で驚きだよ。しかも術は穴だらけ、間違いだらけ、未完成だし」


「そんな・・・」


 時代遅れな技術利権を守る為に陥れられた自分達。

 やりきれない。


「ちょっとだけ()()のレベルを見せてあげよう」


 そういうと神子は机の上に米粒をひとつ置いた。

 籾ではなく、殻は剥かれている。でも胚芽はあるみたい。


「目で見えるようにしよう」


 神子が右を向くとサクラ姫の向こう側に変なウインドウが20枚以上現れる。おおう、ステータスウインドウ!

 すると突如その全てのウインドウに数字が流れ始める。しかもスクロール速い!

 ステータスウインドウではなかった。


 それと同時に机の上の米粒がざわっと増える。一合はあるぞ!

 と、思ったらその一合に増えた米の中からひとつの米粒が持ち上がり、空中でまたどっと増えた!

 そしてその米はざらざらと落ち、最初の米の少し横に山を作った。


「何をしたか解るかい?」


「ええと、検証まではなんとなく分かったのですが後は何が何やら・・・」


 うむ。

 私もわからん。

 さっぱりだ。


「今のは、最初の一粒を解析、休眠遺伝子を使った変異種の生産、選別、再検証、量産だよ。自然界で300年は掛かる進化を10秒に圧縮した。これが世界のレベルだ」


「凄すぎます!」


 いや、マジ凄いわ。

 だって、クラリスの使ってた術って20文字とか30文字だよ?気持ちを落ち着かせる術だって三桁程度らしいし。

 あのウインドウ見てたけど、世界が違いすぎる。

 つうか、ラララさん、こんなの覚えるの?覚えられんの?

 マジ、神の領域だわ。


「さて。君の能力に掛かってたプロテクトはラララが外す。これにより君には寿命も訪れるが、進歩も手に入る。楽しみにしておきたまえ」


 つまりは勉強すれば頭が良くなるということか。この世界の言葉が喋れるようになるということだね。あ、勉強しないと喋れないのか。サービスで最初から喋れればいいのに。

 神子のケチ。






 そして私へのお土産は赤飯一パックだった。

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