クラリスの能力測定
異世界人クラリス。
現在はサクラ姫預りで、生死与奪はコユキさんに任せられていて、所有はラララさん(神見習い)となっている。因みに戸籍はなく、ウエアル城の備品扱い。
で、通訳兼監察官が私なんだなあ。
因みに私は元難民扱い。
そしてクラリスの身体測定。場所はウエアル城内。
まずは体格。
身長168センチ
体重79キロ
Eカップ
体重が重いけれども太ってはいない。胸はあるし、しゅっとしてるからスタイルは良い。多分筋肉と骨の質が違うのだろうということだ。
なんせ100メートル7秒台だし。
ほっそい腕してんのに力持ち。私がぶら下がっても大丈夫。
腕にぶら下がってみたときに触った腕の筋肉がかっちかち。
凄すぎる!
ならばっ!
「これは検査だからっ!」
クラリスの服の中に両手を突っ込んで、中でぶらぶらしてるEカップ検査!
三枚も着てるのをかき分けかき分け背後からがっしり掴む!
生で!
「きゃ!」
「でかっ!半分寄越せ!」
普通に柔らかかった。癌もない健康乳。
いっそこれも筋肉なら私は救われたのに。
因みに夫以外に揉まれたのは初めてだそうだ。120歳越えなのに!
クラリスの容姿は?
美人だろうけど、絶世の美女と言うほどではない。化粧すれば凄いんだろうけれど、今はスッピンだ。つうか、80年間スッピンだ。
スッピンだと大したことはない。
強さは?
戦えば強いが、剣技は習ってないし、大したことはない。圧倒的な身体能力のお陰で強いのだ。あえて言うなら学生時代に受けた剣の初級者講習の技術だけで戦ってきた。うむ、基本は大事だ。
そして人殺しをしたのは夫を殺したのが唯一だそうだ。もっぱら剣の使い道は食料調達のための獣相手と、鬼相手。
鬼も元は人間だと言うことは知っていて、あまり殺さないようにしていたらしい。
それはこの世界に来たときに同僚二人が鬼になったのを見て知っていたから。
さて、気になる魔法。
加熱を用いた魔法。
電撃魔法。
精神安定の魔法を主に使っていたとさ。
他にも色々な魔法は存在するのだけれど、クラリスが使えるのはそれ。
向こうの世界の博士級の人達は複雑なプログラムのような魔法を使うんだそうだけど、クラリスは使ったことはないらしい。学生の時も専攻してなかったと。
因みに、
「通販とかヒールの魔法ある?」
と、聞いたら、
「なにそれ」
と、返された。
あれは神子オリジナルか。
因みにクラリスの世界には空間冷凍保存魔法なるものがある。それは地球の冷蔵庫のような便利なものらしいが、術が難しくて使えないという。
それを使うときは、
『我が魂力よ大いなる冷気をこの掌前に・・・』
という呪文というかお祈りを唱えるのだけれども、それははっきり言って形式的おまじないで、頭のなかで唱える術式は、
『0220//06006060006066660666:01011101111000010101:0333333003033333(以下290字は憶えてない)』
という長ったらしい術式を頭のなかで組むのだそうで、一人の人が使える複雑な魔法は一つが精一杯。魔法は魔力と暗記能力がモノをいう世界らしい。
じゃあ、これを紙に書き出して他の人が読めばできるかと言えばそううまくいかない。各数字列の最初に術ナンバー指定、文末には施工者の能力補正数が必ず入るので、その計算と書き換えが自分で出来る必要がある。体調によっても書き換える必要があるんだと。
ジーヘイパーティー5人組をこの世界に送り込み、リョウタだけが有利になる設定を仕込むなんてどれ程の術式が要るのか想像もつかない。それは誰も知らない筈の術式だし、できたとしてもとんでもなく長い。
それをリョウタがするのは無理があるんだよなあ。
リョウタは学園時代は馬鹿で底辺だったそうだしね。
すると神が一枚噛んでいるのかもしれない。そんなどでかい事を出来るのは神だけだ。
因みにファイアボールは簡単なんだと。
掌に熱源を発生させる術は火力調整省く単発式だと合計25文字。それにオプションつけるのもありだけれど、術起動させながら鉄とか石とか土とか握っておけば、それの蓄熱や膨張爆発で威力を足せるからだって。
電撃は19文字。
ただ電撃はすごく拡張性が高い。
クラリスの得意分野は人間の快楽や安らぎの感覚を電気信号として暗記して、再現する。それもアナログをデジタルに変換して暗記するという頭の良さ。
最期にジーヘイを安楽死させたときも、心臓を止める電撃と安らぎの疑似信号両方を同時に起動していたらしい。それに加えておまじないも唱える。
クラリスすげえ!
と、思ったけど、快楽信号を無詠唱で与えるサクラ姫という存在が居たんだったわ。
ひょっとして神子のテクノロジーは超進んでる?
そんでもって、クラリスは暗記が得意なのにこの世界の言葉がマスター出来なかった。おかしい。
やはり、能力を抑制する術がかけられている。
次の検査は食事。
「ずるずるずるずる」
「ぱくっ、ぱくっ」
夕方、私は呼びつけたユキオさんにざるそばを出して貰って食べているのだが、クラリスは見たことのない形のフォークとナイフを即興で作って、ざるそばを小さく切って食べている。
ナイフとフォークの使い方は私の知らない使い方だけれども判る。
こいつ、お嬢様だ!
確か商人の娘とか言ってたけど、きっと貴族級だ。
ざるそばの麺を綺麗に並べて均等に切り、細長いヘラのようなナイフで麺を口に運ぶ。
あんなほっそい麺をあんなめんどくさそうな方法で食べてるのに全く困ることなく完食。因みにつけ汁はドリンクと化していた。
どんな食べ物が好きなのかと調べるだけだったのにとんでもないものを見てしまった。
隣でずるずるすすっていた私がバカみたい。
さっきのはミニざるそば。
次に出したのはミニざるうどん。
これはユキオさんのリクエスト。
そしてこれは教えなければならない。めんつゆは飲み物ではない。
「ええと、クラリス。これはつけ汁といって、飲み物というよりは、麺につけて味をつける物ですよ」
「まあ、そうだったのですね」
あ、やっぱお嬢様だ。
クラリスは今度はうどんを均等に並べてそれぞれ10センチ以下に切り分け、さらにウナギを裁くかのようにうどんをヘラで縦に四分割した。
出来上がったのはタコさんうどん。いや、頭が繋がっているそうめんだ。
それをつけ汁に泳がせて、フォークで捕まえてナイフで口に運ぶ。
解せぬ。
隣ではユキオさんが何故か絶望している。折角のうどんをそうめんにされてしまったのだから。
じゃあとばかりにそうめんを出したら、これは気に入られた。ただし、食べる前に並べて切り揃えるのは一緒。
どうやら向こうの貴族の作法らしい。
そしてオカズで出した刺身は全て手元で焼いてから食べていた。山生活でも生食はしなかったそうだ。80年間もか!お嬢様恐るべし!
因みに食事でお嬢様モードになるのは、テーブルについた時だけのようだ。以前、道端でまんじゅう食べた時は手づかみで普通に食べてたし。
そして、むむむと何かを企んでいた、もとい、考えていたユキオさん。
クラリスに次なる料理を差し出した。
それは玉コンニャクと里芋とひき肉の煮物。
玉コンニャクと里芋が良い感じにつるつる滑る。箸でも掴みにくく、刺すかスプーンで掬うしかない。
ここまでクラリスはお手製のヘラと変なフォークで食事をしているが、フォークでぶすりと刺して持ち上げるということはしていない。それは彼女の世界の作法なんだろう。
一体ユキオさんはこんなもの出して、何を意地になってるやら。
だがクラリスには通用しなかった。
なんとまっ平らなヘラの上にツルツルする里芋を二個も乗せて口に運ぶ。次は玉コンニャクだ。コンニャクも里芋の滑りでよく滑るのに。
なんという業師!
しかも困ってる様子が全くない。80年も山に籠ってたのに!
「なんて器用なの・・・」
驚きは素直に私の口から出る。
しかし、クラリスは忘れていたことを思い出させてくれた。
「私からすれば、その棒二本で物を掴む方が難しいと思いますよ」
そういやそうだった。
箸マジック!
ビバ日本!
「よっしゃあ」
なんか調子に乗ったユキオさんが箸で里芋タワー作り始めたぞ。あ、芋が転けた。
「ユキオさん、食べ物で遊ばない!」
もー、何やってんだか。
と、いうことで、クラリスの食事は普通で良いとわかった。作法が違うけど。
因みに貧乏を80年間もしていたので好き嫌いはない。
あ、生肉食わないわ。
そして、夕食後、サクラ姫が訪ねてきた。
そして私達にこう言った。
「明日、神子とラララさんがウエアルに来ますわ」
「つまり、ついにだな」
「ええ、遂に産まれます」
猫の出産予告だった。