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異世界転生モノ 日和幸華の場合  作者: むしやろう
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何気ない平和な日

8章「手綴魅美と申します」


珍しく部長が居た。なんていうかそれだけで珍しいのだが最近仲良くなってきてるらしい部長と我らが隊長日和さんとオレという3人組みだった。


まぁ他の部の部長は忙しいんだろう。いや、まぁうちの魔術研究部の部長も忙しいんだけどさ。


「錬金術とは『構造を理解し、組成を変換すること』を言います。一番ポピュラーで誰もが最初に知る錬金術は『魔法』そのものなのです。ってそこらの子供でも知ってることなんですけどね」


なんていうか猿にミサイルの発射ボタンを教えているような感覚なんだろう。というより状況はもっと危ない。オレなんか魔法の授業よくわかってなくて寝てるからね。たまにリーダー見てもちゃんとノート取ってるの見て、ほえーってなってるからね。


そういえば久々だからと名前から思い出してみる。魔術研究部部長、来栖・H・クリス。もう見た目はザ・文科系という感じだ。


三つ編みビン底メガネのセーターにネクタイとロングスカートで腰のベルトに試験官がふた付きで何本か刺さっているが革製のカバーで覆われており意外と丈夫そうだ。いつも思うが何で図書委員とかじゃないの?大きめの白衣はところどころ煤けている。


「当たり前でしょ。アナタ達の常識は私たちの非常識。アナタは常識を教えることで安全を得る。いい取引じゃない?」


「魔法を錬金術として考えるにはまず空間に溢れる魔力を魔法へと組成を変えることと理解しましょう。人体に電流が流れる感覚をイメージして呪文によって具現化させる感じです」


多少迷ったように見えたがすぐに切り替えて教えてくれる。発射ボタンの押し方をあらかじめ躾けておこうということだ。そうよね不安よね。猿軍団とか何であんな賢いんだろうね。自分より賢いんじゃない?ってたまに思うからね。


結局ちんぷんかんぷんなオレからしたら授業よりは多少わかりやすいくらいだ。そっとリーダーを横目で見るとリーダーもまるでわかってないというのがわかった。授業とは違って理解が追い付いてないのが表情でわかる。


「まず数式に例えましょう『1+1=2である』と覚える感じです。今そうすることで先に進めば理解できるようになります。大半の生徒はそこまで錬金術に興味がないのですっとばして呪文を覚えようとするんですが、基本を理解しましょう。空間の魔力を呪文により組成を変える。魔力が1で呪文が1で結果発動する魔法が2です。錬金術はプラス記号のようなものでしょうか。」


「なるほど。魔力を1とした時に『1+X=Y』が成り立てばこの式そのものが錬金術というわけね」


今ので分かったの?やっぱ頭いいのなオマエ。オレは実戦で覚えるタイプくさい。


「そう、そうなんです。錬金術は基礎であり、研究されつくされてる分野であるため蔑ろにされがちなんですが、てゆうかつまらない上に地味だとか爪弾きにされて今まで部活に私しか居なかったんですけど、でも面白いんですよ!」


そう幸せそうに語る来栖さんは仲間を見つけたとばかりに喜んでいる。きっと魔法に興味を持っても錬金術が基礎だと信じ続け、部活を見ては落胆していく見学希望者を残念そうに見送ることがここではいつものことだったのだろう。


それが部活の人数が3人に増え、さらにリーダーが3人も引っ張ってきたとなればうれしいんだろう。まぁあの3人忙しいのかあんま来ないけど。オレ運動部手伝ってる方が性にあってるかもしれない。頭より体動かしてる方が安心するよね。労働力として便利に使ってね?


「よし、じゃあオレから質問だ」


そんなに面白そうなのにオレが知らないのは不公平だ。断じてリーダーの気を引きたいとかそんな訳じゃあない。宝物を分かち合いたい。


一緒に知らないものを見に行きたい。だから少しでも頭を回す。こんなにキラキラした目をしているのだ。決して元が可愛いとか新知識にすごい食いつくとか、そんな下心は一切ないのだ。断じて。


「オレ達の神から与えられたもの。いわゆるチート、ありゃ何だ?魔法とか分類出来るものなのか?」


「たぶん魔法かそうでないかで答えるなら『NO』なんでしょうね。魔力によるもの全て魔法としたら私たちの体すら魔法となってしまいます。しかし何かの組成を変えること、ではあるんでしょうね。つまり魔法ではないけれど錬金術ではあるんじゃないでしょうか」


「私の運を操るっていうのは?何かを組み替えてるって感じはしないけど」

「日和さんのは自分の運を分解して分け与える、相手の運を分解して取り込む。これが錬金術でなくて何だと言うのですか?」


「ちょっと待て。それじゃ魔力を使わないことに説明がつかねぇ。明らかに分解や分け与えたり、取り込んだりってのには必要そうなもんだが」

「それがチートなんでしょうね」


なるほど。本来必要であるものをブッ飛ばす。形式上無いとおかしなもの。というより、魔力の部分に何か別のモノを代入して式が成立している?ん?待て。


オレ置いてかれてる?うわー久々だよこの感じ。具体的にいうと高校二年の数学以来だよ。


「では実際に二人ともどんな魔法が使いたいんですか?」


二人して目を合わせ首を傾げる。はて、今この子なんて言った?


「使えますよ魔法。あなた達の体にも当然魔力は流せます。あとは呪文さえ使えれば」


「待て待て、いや、待ってくれ。魔法が使える?オレ達にか?魔力ってのは世代ごとに増えてく魔力回路が必要ってのを習ったぞ。オレ達に血統なんてあると思うか?まして異世界人だぜ?」


「逆なんですよ。そもそも魔法を確立させたのが異世界人であるとするなら魔力に適応するために血統を重んじたり、体を作り替えたりっていうのが自然なんです。つまり、もともと魔法は異世界人のモノなんですよ」


じゃあ何か?魔力を扱うために人体をいじくり回したり、血統を繋ぐための政略結婚だったりしてたってのか?異世界人が?別の世界の人間を使って?そんなんアリかよ。


「新しいエネルギー系が広がって私たちの体から宝の山が出てきたようなものです。それこそ競うようにありったけ、こぞってバラバラにするでしょうね」


軽いセリフだった。開拓時代のゴールドラッシュを人体で起こす。人間の体が一山いくらで取引される時代。そんな技術を軽々しく使う気持ちになれない。B級スプラッタ映画って言うのはフィクションだから見れるのだ。現実で起こされたらたまったものではない。


倫理観のブレーキが壊れてしまっている。そこでちらりとリーダーの顔を盗み見る。自分だけでは精一杯だ。


「ようするに、新しい武器が手に入るってわけね。いくらライフルが人殺しの道具でも使わなきゃ死ぬとなったら使うしかない。でも慣れておけば加減が効く。急所を外したりね。私たちは目の前の武器を取らずにいられるほど余裕があるの?」


「そもそも昔の話です。溢れかえるほどの魔法があっていくら人が死んだと言っても必要な犠牲だと思いませんか?魔法で効率よく人を殺すため、というより、魔法で誰かを守るため、と考えられませんか?」


理解は出来る。好き嫌いを言っている場合でもないと言えばそうなる。しかし、納得できない。たとえ目の前で銃口を向けられて、手元に自分の銃があると仮定してもパニックせずに相手を撃てるか?と聞かれたら「NO」としか言えない。


「なら私のために使いなさい。限界まで温存して、限界まで使わない。それは私のため。人に向けるのは私が命令した時だけ。もちろん自分に向ける魔法もあるんでしょう?」


「もちろんです。魔法にも得手不得手があり、人によって得意不得意があります。それは成績のように目でみえるものであったり反復練習で手さぐりしたり、とりあえずそのあたりから始めるのが無難ですかね」


そこでガラリと部室の扉が開かれ来訪者が現れる。


「ごめんあそばせ!失礼いたしますわ!私手芸部部長であり、異世界人。名を手綴魅美と申します。気軽に『ミミちゃん』と呼んでくださいまし」


一目見てヤベーやつが来た。それもとびきりに。前回見たのは鬼ごっこの時だ。そうそうあのお嬢様の。スリットが入ったピンクのドレスの。


オレが名刺を渡されたあの人。前回と違うのは一回り小さい付き人を二人従えていることだ。しかし、我らがリーダーは一目見て見なかったことにしたらしく先ほど無言で来栖さんから渡された研究書を眺める作業に戻った。


絶対に言わないが研究書や教科書を眺めるときにだけ付けるアンダーリムの黒縁メガネが似合ってるぞ。その代わり考えてるときに変なポーズをするのをやめなさい。考える方に集中しすぎなんだよ。


というか、来栖さんに話を振ろうとして隠れてしまった。キミあんまり人見知りするタイプじゃないよね?


「あー、すまんねミミちゃんさま。今リーダーも部長も忙しいんだ。要件ならオレが聞くけど?」


「あらそうでしたの?異世界人同士交流を図ろうと思いましたのに。なんなら同学年ですし気軽に声をかけられると思いまして待っていたんですけれども。ですが多忙でしたら日を改めますわ。ごめんあそばせ」


くるりと身を返し後ろに居た付き人?と帰っていく。嵐のような人だった。もともと大した用事ではなかったのだろう。


見送りながらテキトーに「ごめんあそばせー」と手を振っておく。たぶん悪い人ではないんだろう。残りの異世界人はどうなんだろう。まともだといいなぁ。後ろ手に戸を閉めながらリーダーに問う。


「あんな簡単に返しちまってよかったのかよ」

「物事にはね、順序ってものがあんのよ。あんな強烈な奴最初に相手にしたくないわよ」


そしてこんな何気ない平和な日が続けばいいな。と心の底から思うのであった。そんなことはありえないのだと、ずっと感じていたから。

次回予告!!


手綴魅美ですわ。てつづり、みみと申しますわ!

私手芸部なんですけども手芸部は私一人なんですよ?

私のチートは『パッチワーク』と言うんですけども、実は応用が利きまして……


え?時間?まぁそうですの?もう少し話せません?

次回「王国の支配者」続きはゆっくりと時間のある時にでも。

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