何気ない平和な日
6章「男がチアってどうよ?」
指定された場所に行くまで珍しく二人きりになった。昔は、と言ってもさほど昔でもないが二人きりの時間が多かった。
最近は四谷、服部、佐々木の三人がひっきりなしに来るのだ。来栖は部長のくせにたいてい居ない。今日はいろいろあったように思う。いつも来栖はこんなことをして学校を回っているのだろうか。
「ねぇ何でテニスコートに行かなきゃいけないの?」
呼び出されたというのもあるが基本チア部はそれこそずっと他の部の応援で同じ場所には居ない。アレ?の割には四谷さんうちの部に入り浸ってない?
「今日テニス部が試合だからじゃねぇか?」
「ほへー」
興味ねぇなら聞くなよ。オレも適当な推論言ったの謝るからさ!お前が荒らしやってた部活だぞ。とか言い合っている間にテニスコートのある第二校庭にたどり着く。
ちなみに野球、サッカーが出来る第一と陸上競技用の第三校庭が他にある。まぁ校庭が三つもあって授業ごとにどこの校庭か迷うのもこの学校の風物詩らしい。
ちなみにもう試合は五戦目でこれまで2-2らしい。今はなんというか劣勢だ。明らかに余裕のある動きではない。この試合は勝てそうにないと思う。しかし
「ふれー!ふれー!千球!」
とどこかからチア部の声がする。というか応援団じゃねぇ?その服。チア服の短いスカートとポンポンではなくバンカラ服に下駄だった。
下駄はさらに違くない?しかし応援を受けて動きが変わる。さっきまで届かなかったボールを楽々返し相手を追い詰めるように左右に振る。
「魔力が流れてるわね」
「はぁ!?反則じゃねぇのそれ?」
「そもそもここをどこだと思ってるのよ。魔術の行使が認められた試合なんでしょ」
「それはあくまで本人が使う場合であって応援が魔術ってアリなのかよ」
「教師が止めないんだからアリなんでしょ」
それからあれよあれよと試合は流れあっというまに勝ってしまった。試合描写手抜きじゃねぇ?試合後の挨拶もそこそこに片付けが始まる。
とリーダーはチア部のほうへ行く。出口から客席の方へ逆流する形になるので自然と四谷も気が付く。
「遅いわよ。校内放送で呼ばれなかった?」
「マイクを新調したから調整に時間がかかったらしいわよ」
「どおりで放送が聞こえないと思った」
「いや、他の手を探せよ。重要なことじゃねぇのかよ」
「あなた呼んでないわよ柊君」
呼ばれなきゃオレは来ちゃいけないのかよ。「冠ー!私ら先帰るよー」と他のチア部から声をかけられる。四谷が大きく手を振って「おーお疲れー」と返す。とゆうか人呼ぶのに校内放送まで使うか?
「で何の用?」
「アナタに勝負を申し込むわ!日和幸華!」
「他をあたって」
「はやーい、早いわ日和さん!もう少しあるでしょ!?」
「私のメリットは?」
「私に勝てたという達成感が」
「他に用はないみたいだし帰りましょ」
「私が勝ったらチア部に入ってもらうわ!」
「やっぱり私のメリット少なくない?だからコイツいらなかったのね。男がチアってどうよ」
確かに男が男に応援されてもやる気でないわなぁ。パフォーマンスとしてならまだしも。いや、応援団って手もあるんだろうが、でかい太鼓持つとかオレそんな体力無いぜ。
「で?勝負の内容は?」
「応援勝負なんてどう?」
「なんてわかりづらい。応援した方が勝てばその勝負の勝ちってことならいいわよ」
そんな代理戦争みたいな。ていうか勝負受けるのかよ。こいつ割と血の気が多いというか、売られたケンカは買うタイプだよなぁ。
「明日歌唱君のライブがあるでしょ?それでどう?」
「ダメね。音楽なんて勝敗がわかりづらいもの。下手すりゃどっちも勝ちってことになるじゃない」
「他は……弓道部とか試合あったハズよ」
「いや、応援邪魔でしょ。あの競技。応援選手の集中乱してどうする」
「じゃあ美術コンクールが」
「完成品応援してどうすんのよ。おとなしくサッカーとか剣道にしときなさいよ」
「じゃあテニス部を応援してくれよ」
といつのまにか片付けの終わった千球がそこに居た。
「テニスなら邪魔にもならんし人数的にはタイマンだ。サッカーほど試合人数が多くないしいい話じゃないか?」
「そうね。試合日程は?」
「明日でいいだろ。歌唱のライブに行きたいならその次でも構わんが」
「どうせチケットないし明日で問題ないわ。四谷さんは?」
「オッケー!明日ほえ面かいても知らないわよ!」
と言うとピューン!と走って校舎へ帰って行った。なんかこう、すぐやられそうなセリフだなぁ。テニス部の千球も話は終わったと帰っていく。そしてまた二人で残ってしまった。
「帰りましょっか」
「明日急用が出来たんだが」
「ダメ」
「歌唱のライブに」
「ダメ」
「ぶっちゃけめんどくさ」
「それが本音かコラァ!」
明日は応援勝負か。休もうかな。