幸運に恵まれた少女
4章「オレだって頑張って生きてるんだよ!」
時は4月も後半に差し掛かり新入生ならばクラスに何人か友達も出来て教師の名前も覚えて生意気にも5月病なんてものにかかったりする時期である。
前回の魔力おにごっこ?そんな名前だっけ?まぁそんなレクリエーションから一週間ほど時間が過ぎて日和幸華という人間もようやく理解出来てきたところだった。
「チア部部長、四谷冠。弓道部部長、服部弓弦。剣道部部長、佐々木刀貴。部長が3人もそろって何の用かしら?」
場所は魔術研究部、時間は日も暮れてきた春の放課後5時頃、部長だけなら4人もいる部室でウチの部長があわあわしている。大丈夫だぞ、ここはウチの部室だぞ、ドーンとしてろドーンと。というかオレを見習え。もう慣れたぞ。
「聞いたわよ。体験入部して期待させるだけさせて断っていく変人がどうやらこの部に入部したらしいじゃない」
と言ったこの金髪ツインテの小さなティアラをつけたテンプレな子はチア部部長。これで「べ、べつにアンタのためじゃ、ないんだからねッ!」とか言い出したら完璧なんだが。
「それに我らには招待状が届いておったのでゴザル」
このゴザルと言う口までマフラーで隠した赤と白の巫女のような恰好をしたコイツは弓道部部長。忍者っぽいのに目立つ服を着るんじゃあない。
「内容としては招待状というより果たし状だがな。来なければこの部に強制入部などという脅しも含まれていた」
和服で大きな牡丹柄の入った男女の見分けがつかないポニーテールのコイツは剣道部部長。竹刀より実剣を腰に下げている時間の方が長いという。というかそんな脅ししたのね。
「いやまさか全員律儀に来ると思ってなくて……」
まじかよ副部長。何でそんなに不思議そうな顔してんのさ。
「しかしメリットは全員にあった」
と侍が言う。ポニテ侍、君は今後ポニテ侍と呼ぼう。性別不明だし。
「この勝負に勝てばどうやらアナタに勝った部に入部してくれるらしいじゃない?」
とチアツンデレ。そういや短いスカートの下って競技用パンツとかだったりするんだろうか。
「まだまだ魔法は未熟と見える。これは我らにとってまたとないチャンスにゴザル」
ゴザルは巫女服なの?忍者なの?真っ赤なマフラーと緑の短髪を全部黒くしなさい。目立たないように。
「そうね。三対一でちょうどいいかしら」
と暫定リーダーが言うと詳細を聞いていた来栖さんが話を引き継ぐ。あ、説明がまだだった。
来栖さんはこの魔術研究部の部長で、メガネの似合う理知的な女性だ。性格はウチの司令塔を逆さまにした感じ。
白衣にシャツと緑のネクタイ灰色のスカートには短いスリットが入っていて、黒のストッキングが目を引く。カレーうどんとか食べづらそう。
でもこの子白黒でも立体感あるんだよね。主に胸部が。
「みなさんにはこの『魔力ターゲット』をつけてもらいます。授業でよく使うものなんですけど、いわゆる魔力に反応して白から赤へ色の変わるターゲットを体につけてもらいます」
そこに魔法を当てた方の勝ち。つまり安全な鬼ごっこのようなもんか。また鬼ごっこか。
「どこに付けてもいいの?」
とテンプレ金髪。とは言うものの半径10cmの円盤だ。どこにつけても目立つことこの上無い。
「見えるならばどこでも良いでゴザろう」
そうだぞゴザル。ていうかゴザルは応用効くのな。
「それより問題は順番だろう。早い者勝ちならば最初が有利過ぎる」
お前の服って浴衣に近くない?やっぱ女なの?
「その心配は必要ないわ。全部の部活に入ってローテーション組んで活躍してあげる。と、言うより三対一でいいって言ったわよね?私」
あぁ、こういう所が嫌われるんだろうなぁ。常に勝ちしか眼中に無い所が。オレは嫌いじゃあないけどな。
「だからアンタと、そこの女の子とそこの冴えない男で三対一でしょう?」
「私は審判なので参加出来ません。それに部長をヘッドハンティングするというやり方はあまり好きになれませんので」
「オレも今回のコイツのやり方には賛成しかねる。んな一気に部員増やすこたぁねぇだろ。無理やりじゃなくて気の合うヤツを誘ってきゃあその内増えんだろ。」
「ほら、三対一。まとめてかかってきなさい」
明らかに三人の纏う気配が変わった。スイッチが入ったというべきか。
「ずいぶんと舐められたモノでゴザル。弓道部部長、服部弓弦いざ参る!」
服部っていうからには伊賀流なんだろうか。でもアレ忍者だったの初代だけじゃないっけ。そもそも服部半蔵までが苗字じゃなかった?
「あとから言い訳など出来ぬよう徹底的に勝つ」
腰を落とし深く居合の形をとる。1m近い刀はやっぱり佐々木だし物干し竿とか名前付いてたりするんだろうか。というかオレの剣も実際そんくらい伸び縮みするんだけどさ。
「ま、話にならないんだけど」
分かりやすくおでこに魔力ターゲットを付けた魔術研究部副部長が飛んできた矢を避ける。そしてついでとばかりに掴んで居合で突っ込んできたポニテ侍の肩にポンとタッチする。
服部の矢で佐々木のターゲットを反応させる。そしてチア部の独特のあのポンポンを片方掴みとって服部の足に向かって投げそのまま反応させる。
「うそぉ……」
「さ、て私魔法の使い方わかんないんだけどアナタのターゲットもどこにあるかわかんないなぁ?」
ウソだ。さっき腰の後ろにあるのチラッと確認してたの見たぞ。てゆうか部室なのにこんなに暴れまわって傷一つ付けないのはちゃんと部長を気遣ってるんだな。
「これは冠ちゃんの全身をくまなく撫でまわしてどこで魔力が反応するか確かめないとなぁ。ぐへへ」
「ちょ、降参!降参!今このポンポン腰に当てるからちょっと待って!」
ピッ!っと最後の一枚が反応して来栖部長が止めに入る。「チッ……」本気で舌打ちしたよあの副部長。
「納得いかない。魔法で負けるならまだしも今のなんてほぼ不意打ちじゃない」
「不意打ち闇討ち敵討ち、なんでもござれよ。真正面から正々堂々よーいドンなんてありえない。正論を言いたいなら勝ちなさい。敗者の言葉に力は無いわよ。」
いつも勝者の立場に居るから言えるセリフだな。
「無念。剣士が速さで負けるとは。しかし道理というものもある」
「で、ゴザルな。しからば軍門に下るというのが道理にゴザル」
「どうすんのよ部長が負けたら部員になんて言えばいいかわかんないわよ」
「辞める必要はありませんよ?」
「「「へ?」」」
あ、来栖さん知ってたんスね。オレはリーダーがそれやりたそうだったんで詳しく知ってたんですけど。
「ウチの学校は学力上位三分の一以上には文化系と運動系のかけもちが認められているというか推奨すらされていますよ。確か特殊単位がもらえたハズです」
「付け足すと結果を残した場合さらに追加単位ももらえるんだ。どこかのオレのリーダーみたいにな」
ほんとこの人何が出来ないの?
「私もそこまで興味があったわけじゃあないわ。ただこの学校全体のパワーバランスを見ておきたかったのよ。ま、これで正式に部活として活動出来るわね。これで6人。これまで通り部長として部活をしながらたまにここに顔出して。この部の部長は来栖だからあとはそっちに聞いて」
「あ、えっとぉ……助けて下さい!柊さん!」
「やだよ!こっち振るなよ!オレだって頑張って生きてるんだよ!」
これは幸運に恵まれた少女の話。
次回予告!!
日和幸華です。いや、私普段「です。ます。」でしゃべんないんだけどさ。
この小説登場人物多くない?管理しきれる?しかも次回も登場人物多いらしいわ。
次回はいろんな部活を回ってその部長と交流を図るそうよ。
そんなわけで次回「何気ない平和な日」
最後の方にちょろっと重要人物出るらしいわよ。楽しみね。