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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
5章 悪魔の花が咲く頃に
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5章 5話 《黒百合の庭園》

 VS紫戦です。

「貴女を――花瓶にしてあげたいわぁ」


 妖艶に紫が微笑む。

 彼女の手に握られているのは、掌に隠せそうな大きさの拳銃。

 だが魔力を込めた弾丸だ。

 このまま額へと撃ち込まれたのなら――死ぬ。

 銃口との距離は約50センチ。

 弾丸が――放たれる。

「《氷天華(アブソリュートゼロ)》!」

 空気中の水分を凍らせて盾にする。

 しかし――間に合わない。

 今日は別段湿度が高いわけでもない。

 こんな状況では、氷結速度が足りていないのだ。

(威力は大したことない……ただ……()()()()()()……!)

 見れば分かる。

 あの弾丸に魔力はたいして込められていない。

 人体は貫く。しかし、魔法で容易く防げる威力だ。

(水があれば――)

 水があれば氷結のスピードも増す。

 そうすればあの弾丸を止められるのだ。

 そんなことを考えているうちに弾丸は悠乃へとヒットした。


「がッ……!?」


 衝撃で倒れ込む悠乃。

 彼女は地面に体を投げ出した。

 ぴくりとも悠乃は動かない。

 ――しかし、紫は警戒を解かなかった。

「さすがねぇ」

 彼女は感心した様子でそう漏らした。

「まさか――眼球の水分で氷の盾を作るだなんて」

「――見えてたんだ」

 悠乃はむくりと立ち上がる。

 彼女の眼球には――弾丸が張り付いていた。

 彼女の右目あたりが凍りついている。

 眼球に含まれた水分を利用して作られた氷は、迫る弾丸を受け止めていたのだ。

「――おかげでドライアイだ」

 彼女の目から氷の膜が剥がれ落ちてゆく。

 ようやく外気に触れた彼女の目は――無事だった。

「……ふぅ」

 悠乃はゆっくりと立ち上がる。

「まさか、こんなところで出会うだなんて思わなかったよ」

 悠乃は氷銃を顕現させ、紫へと向けた。

 だが紫は微笑みを崩さない。

「あら……。わたくしも思っていなかったわぁ」

 優美な笑みで紫はささやく。


「こんなところで――またアオイちゃんに会えるだなんて」


 紫はハイヒールの踵でコツンと小気味良い音を立てた。

「?」

 その意図が読めずに悠乃は眉を寄せた。

 しかし――

(足元……?)

 下から奇妙な音が聞こえてくる。

 ピキピキと……()()()()()()()()()

「ッ!」

 反射的に悠乃は跳びあがる。

 直後、彼女の足元から大量の茨が湧き出した。

 噴水のように茨が立ち上る。

「うわわッ……!」

 茨が方向転換して悠乃へと殺到する。

 躱し切れる規模ではない。

「せいやッ……!」

 悠乃は氷剣を精製すると、横一線に振るう。

 軌道に沿って氷撃が放たれる。

 冷気が茨に触れ――凍りつかせる。

「凄い物量だ……」

 悠乃は一気に距離を取る。

 離れたことで、紫が放った魔法の規模がよく分かる。

 あのまま凍結させていなければ、全方位を茨に囲まれて圧殺されていただろう。

「遠距離型。それも物量で攻めるタイプか……」

 ある意味、悠乃と近い能力だ。

 悠乃は接近戦もできるが、チームとして戦う際は規模の大きな魔法で相手の動きを止める戦法をとる。

 紫の戦い方はそれに近い。

「運が良いのは――」

 さらに茨が悠乃を襲う。

 しかし彼女は焦ることなく氷弾でそれを凍らせる。


「僕の魔法と相性が良い」


 黒百合紫の魔法は植物。

 対して、蒼井悠乃の魔法は――凍結。

 植物の成長を阻害する冷気は、最高の相性といって良い。

(とはいえ……一人ではキツいなぁ)

 攻撃の規模が大きすぎる。

 止めることはできても、反撃に移るチャンスがない。

 1対1で彼女を破るには、貫通力のある魔法が必要だろう。

 彼女の圧倒的物量を貫ける一撃が必須だ。

 そして、悠乃にはそれがない。

 これでは千日手だ。


「《黒百合の庭園(グリーンガウン)》」


 紫が悠乃へと向けて腕を伸ばす。

 すると、それに呼応するように茨の波が押し寄せてきた。

 それを悠乃は――躱さない。

 彼女の体が一瞬にして植物の濁流に呑み込まれる。


「――――《花嫁戦形(Mariage)》」


 茨の津波の中心で――悠乃は唱えた。

 自らの――最強の姿の名を。


「――《氷天華・凍(アブソリュートゼロ)結世界(・レクイエム)》」


 雪嵐が吹き荒れる。

 冷気が渦を成して立ち上り、一瞬で植物たちを凍らせた。

「……すごい魔力ねぇ」

 紫が吐く息も白くなる。

 風雪は周囲に薄い氷膜を作りだしてゆく。

 嵐が消える頃には視界は銀世界となっていた。

「――――――」

 舞い散る雪の中から現れた悠乃は――白かった。

 純白にして潔白の花嫁衣裳。

 純潔を纏う悠乃の魔力は――先程までの数倍。

 当然、攻撃の威力もこれまでの比にならない。

「――、一瞬で終わらせるよ」

 そう悠乃は宣言した。


「《大紅蓮二輪目・紅蓮葬送華》」


 悠乃は軽く氷剣を横に薙ぐ。

 それこそ撫でるように。

 だが、それにより引き起こされる現象はそんな貧弱なものではなかった。

「ッ!」

 紫が驚きに目を見開く。

 彼女へと向け――すさまじい魔力のこもった冷気が放たれたからだ。

 《紅蓮葬送華》。

 それは悠乃の基本的な魔法――氷撃をさらに洗練したものだ。

 闇雲に冷気をまき散らし、広範囲を凍らせるのではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 攻撃範囲は氷剣の軌道――その延長線上に縛られる。

 だが、津波のように拡散する氷撃とは違い、一点突破に優れている。

 本来の悠乃の戦闘スタイルは――サポートだ。

 冷気で相手の動きを妨げ、璃紗がトドメを刺す。

 チームで戦うことを前提とした戦法だった。

 一方で《紅蓮葬送華》は自分の手で敵を討ち取るための魔法。

 悠乃が持つ、最大威力の攻撃だ。

「ッ」

 紫は高速で植物のバリケードを築いてゆく。

 幾重にも重なる茨の壁。

 そこに三日月形の冷気が叩きこまれる。

「――そうなるわよねぇ」

 一瞬にして破壊される植物のバリア。

 当然だ。

 《花嫁戦形》状態での悠乃の《紅蓮葬送華》を通常状態で防ぎきれるわけがない。

 茨は氷の粒子となり霧散する。

 さらに紫は《紅蓮葬送華》の余波だけで左腕を凍らされている。

 どうやら左腕を盾にして深手を最小限の範囲にとどめたらしい。

 だが、彼女が大きな隙を晒したのは確実。

「終わりだ」

 事実として、悠乃は彼女の足元に潜り込んでいるのだから。

「はぁぁッ!」

 悠乃は氷剣を全力で振り抜いた。

 紫の腰辺りを狙った一撃。

 今から植物を盾にしようとも一緒に立ち切れるくらいの力強い踏み込み。

 しかし――


 パンッ……


「……え?」


 乾いた音が聞こえた。

 ――銃声だ。

 気が付くと、紫はこちらに拳銃を向けており――発砲していた。

「……言い忘れていたわぁ」

 涼しげな表情で紫は微笑む。

 対して、弾丸を撃ちこまれた悠乃の表情は苦々しい。

 なぜなら――


「わたくしの特技は――()()()()


 紫の特技は『早撃ち(意味深)』。

 実は、彼女って魔法名といい言動といい、かなりヤバかったのを急遽かなりマイルドにしているんですよね……。

 それでなお、これまでのキャラで随一のエロを背負う女。ヤバすぎです。

 多分、原案通りで彼女が動き続けたら余裕でR18になってしまう……。


 次回は『毒花の魔法少女』です。黒百合紫の《花嫁戦形》が登場します。

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