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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
5章 悪魔の花が咲く頃に
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5章 4話 黒百合は咲いて

 早くも今章のラスボス登場です。

「――いつ見ても、大きいお屋敷だなぁ」

 悠乃は感嘆していた。

 今、彼は友人たちとの待ち合わせ場所を目指している。

 そんな彼の目の前に現れたのは大きなお屋敷だった。

「確か、今の大臣が建てたんだっけ……?」

 悠乃はそれほどニュースを見ているわけではない。

 だから具体的な名前は思い出せないが、近所の噂で聞いたことがある。

 この邸宅は、有力な大臣の別荘なのだと。

 少し住宅地から離れた場所にある大きな建物。

 彼の視線が吸い寄せられるのも自然なことだろう。

「薫姉の家と同じくらい大きいや」

 やはり政治家――それも大臣となるとお金持ちなのだろうか。

 別荘ということはあの家以外にも――おそらく同規模の自宅があるのだろう。

 悠乃には想像もつかない世界だ。


「あら。どうしたのかしらぁ」


「ッ!」

 そんなことを考えていたからだろうか。

 女性に声をかけられるまで、目の前に人がいることに気がつかなかった。

「うふふ。この家が気になるのかしらぁ」

 そこにいたのは紫髪の女性だった。

 ニット生地の服をしたから押し上げる果実。

 どこか妖しげな雰囲気を演出する泣きぼくろ。

 まるで絵に描いたような大人のお姉さんだった。

「い、い、いえッ! 全然気になってないですぅッ……!」

 慌てて否定する悠乃。

 もしかすると、女性がこの家の住人だったのだろうか。

 だとすると、悠乃の不躾な視線が彼女を不快にさせてしまった可能性もある。

 そう思い動揺する彼だが、女性はそんな素振りをまったく見せない。

 むしろ微笑ましげに彼を見ていた。

「別にそんなにビックリしなくても良いのよぉ。わたくしも、お仕事でここに来ただけなんだから」

「……お仕事、ですか?」

「そう。――あ・れ」

 女性は道の脇に停められている車を指で示した。

 車はワンボックスカー。その中には――

「――お花?」

「そうよ。わたくし。フラワーデザイナーなのよぉ」

 女性は妖艶に微笑んだ。

(び、美人さんだぁ……)

 それだけで心臓が跳ね、悠乃の頬が熱くなる。

 それほどに彼女は美しかった。

 魔性とさえいえるほどに。

「ここの娘さんと知り合いでねぇ。わたくしの作品を贔屓にしてもらっているのよ」

「そ、そうなんですか……」

(そういえば、この人テレビで見たかも……)

 悠乃は彼女の事を思い出し始めていた。

 確か――黒百合紫。

 一時期流行った『美人過ぎる○○』のような紹介をされた女性。

 ただ、誇張なく美人過ぎたことで、ブームとは関係なく有名になった美女。

 詳しくは知らないが、今での女性誌に載ることがあるという。

(実物でここまで美人って凄いかも……)

 身近に美少女が多くいる悠乃だが、それでも驚いてしまう。

 ――ああいうのは色々な()()()()()で美人度を底上げしてるのよ。

 そんなことを言っていたのは環だったか。

 記者の彼女が言うのだから遠からずなのだろう。

 しかし、目の前の女性は誤魔化しなく美しい。

「本当にわたくし好みだわぁ……名前も、体も。ねぇ……()()()()()()()

「!」

 名前を呼ばれた。

 その事実に悠乃は身を固くした。

 まだ名乗っていない。そして彼女と知り合いでもない。

 ならなぜ、彼女が悠乃を『一方的に』知っているのか。

 それはあまりに不気味だ。

「あらあらぁ。ビックリさせちゃったかしらぁ?」

 紫は指先で唇をなぞる。

「別に、そんなに難しい話じゃないわよぉ」

 彼女が微笑んだ。

 それは妖艶にして妖美。


「わたくしが《逆十字魔女団》の一員ってだけの話よぉ?」


 彼女が発した言葉を理解するのにわずかな時間を要する。

 《逆十字魔女団》。

 それは、かつて世界を救った魔法少女によって構成されている組織だ。

 悠乃も詳しい目的は知らない。

 だが彼女たちの目的は――世界を壊すことだという。

 唐突過ぎる遭遇。

 数瞬間だけ思考だ停止する。

 だが悠乃とて激戦をくぐり抜けた魔法少女だ。

 混乱から立ち直るのに数瞬あれば充分だった。


「ッ――――変身……!」

「変――身――――」


 二人が変身したのはほぼ同時。

 悠乃が戦闘衣を纏う頃には、彼女もまた魔法少女としての姿を見せている。

 舞踏会から抜け出してきたかのような黒いドレス。

 花の咲いたドレスは人を惹きつけ――そのまま獲物を食い殺しそうな危険な魅力を放っていた。

 二人の距離は一メートル以内。

 一瞬あれば互いの攻撃が届く距離。

 自然と悠乃は緊張してゆく。

 だが、正面にいる紫は自然体のままで――

「うふふ……それにしても奇遇ねぇ」

「ひぅ……!?」

 突然、女性――紫が手を伸ばし、悠乃の顎を撫でた。

 緊張で固まる彼に、彼女は言う。


「貴女も……()()()()()()()()()()()


 そう笑みながら紫は――悠乃にキスをした。

「!?!?!?」

 いきなりの出来事に悠乃は目を白黒させる。

「うふふ……本当にかわいいわぁ」

 うっとりと悠乃を見つめる紫。

 彼女の瞳は、悠乃を見ているようで見ていない。

 彼女の姿を通して、いつの日かの他人を夢見ているように思えた。

「貴女だけは、誰にも渡せない」

 紫の手には――拳銃が握られていた。

 銃身が短く、手中におさまるほどコンパクトな拳銃。

 おそらく、暗器としての側面が強い銃だ。

 だから、彼女が悠乃の死角で銃を作りだしていたことに気付くのが遅れた。


「貴女を――花瓶にしてあげたいわぁ」


 紫はすでに引き金に指をかけている。

 銃口が狙っているのは――眉間。

(しまっ――――)

 対して、悠乃はまだ回避行動に移れていない。

 しかしそんな状態を紫が考慮するわけもなく。


 ――銃弾が放たれた。


 無意識に《逆十字魔女団》の本拠地を素通りしてしまう悠乃。

 しかも、名前が昔の想い人と同じというだけで紫に目をつけられてしまうという悲劇。


 ちなみに《逆十字魔女団》内での戦闘力は

 1位、美珠倫世

 2位、天美リリス

 3位、星宮雲母

 4位、黒百合紫

 5位、三毛寧々子

 となっております。厳密にいえば

『1位』>>>『2位』≧『3位』>(常識の壁)>『4位』>『5位』くらいです。

 まあ、相性差やその場の状況で勝敗は変わるので何とも言えませんが。


 次回は『《黒百合の庭園》』です。

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