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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
4章 世界の重さを知る少女たち
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4章 エピローグanother お披露目会の終わり

 《逆十字魔女団》サイドのエピローグです。

 お披露目会の後。

 寧々子たちは《逆十字魔女団》の拠点である豪邸に集まっていた。

「はぁい。お終いよぉ」

 そう黒いドレスの女が寧々子に告げた。

「おー。ちゃんと治ってるね~」

 寧々子は着物の襟を広げ、腹の状態を確認する。

 キリエの攻撃により大穴が空いていた腹部。

 なんとかリリスの応急処置で体裁を整えていただけの状態だったのだが、今では他の部分と見分けがつかないほど自然な見た目だ。

 一見で彼女の腹の傷を見抜ける者はほとんどいないだろう。

 寧々子の表情が明るくなる。

「良かったわぁ。神経も通っているから、数日で普段通りの感覚に戻るはずよぉ」

 そんな彼女の様子を見て、黒ドレスの女――黒百合紫も喜んでいるようだった。

「いやー。お腹に穴が開いたときはヤバイかと思ったね~」

 治った肉体を見て、やっと寧々子は胸をなでおろす。

 明らかな致命傷だっただけに気が気ではなかったのだ。

 一方で、紫はすでに寧々子を見てはいなかった。

 彼女は妖艶な笑みを浮かべると、窓際にいる少女へと声をかける。


「そういえば――アナタも治して欲しいのかしらぁ? 腕」


 紫は窓際の壁に寄りかかっているリリスに問いかけた。

 リリスが腕を落とされた件は、すでに寧々子の口から紫に伝わっていたのだ。

 そのことに不愉快そうな表情を見せるリリス。

「――別にいらないんですケド」

 彼女はそう言い捨ててそっぽ向いた。

「あらぁ。でも、ちゃんとくっつけないと腐るわよぉ?」

 しかし紫は簡単には引き下がらない。

 色気さえ感じさせる甘い声音でリリスに治療を提案する。

「もうくっついてるカラ」

 とはいえ、リリスが強情なのも今に始まったことではないのだが。

 そんな頑なな彼女に、紫は目を細めた。

「――へぇ。細胞を強制的に分裂させての再生ねぇ。でも細胞分裂の回数には限界があるから、それを無理矢理に増やすと寿命縮むわよぉ?」

 リリスが操る殺人ウイルスには複数の種類がある。

 そのうちの一つであり、リリスが一番使うウイルス――細胞に変化を促すウイルスだ。

 普段の彼女はそれで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが、今回使ったのは魔法の本来の用途――自己治癒能力の促進だ。

 細胞分裂の回数を増やすことで、千切れた腕の断面同士を再びくっつけたのだ。

「ただ戻すだけじゃつまらないカラ。命をつなぐために未来を縮めてイク。それって破滅的だヨネ」

 それがリリスの主張だった。

「花は散るから美しい、って話かしら?」

 有限の美。

 紫はリリスの芸術観を自分なりに解釈して問う。

 しかし本人としては微妙にニュアンスが違うらしく、リリスは頭を掻いた。

「――100年以上生き続けた木が雷に撃たれて燃えるのって興奮するヨネって話」

 リリスはあえて紫の言葉になぞらえるような例え話をする。

「花が散るのなんて当然。なら、どれくらい理不尽に散らされるのかが見所なんだヨネ。積み重ねたものが多ければ多いほど、壊れた時に破滅的な気分になれるんだカラ」

 そう語る彼女の表情は恍惚としていた。

 自分の世界に陶酔しているのだろう。


「わたくしも行けばよかったわぁ」

 残念そうに紫は呟いた。

 当然のことだが、寧々子たちは魔法少女としての役目を終えてからは人間として生きてきた。

 特に、20歳を越えている寧々子と紫はすでに社会人として働いている。

 偶然にも都合がついた寧々子は『お披露目会』に参加したが、紫は不参加だったのだ。

 もしも彼女の職場が遠ければ、寧々子の治療は間に合わなかったかもしれない。

 そう考えれば危ない状況だったと後になって寧々子は冷や汗をかくのであった。

(まあ……相手にとっては紫が参加していなかったのは幸運なのかな?)

 そう寧々子は考える。

 彼女は紫の本質を知っているから。

「可愛い女の子ばかりだものねぇ」

 ウットリと紫は天井を見上げる。

(味方としては優秀なんだけどにゃぁ)

 寧々子はそう思わずにはいられなかった。

 ――黒百合紫。

 職業:フラワーデザイナー。

 功績:世界を救った魔法少女であり、魔法界へと足を踏み入れた唯一の人間。

 趣味――――


「早く……花瓶にしてあげたいわぁ」


 ――気に入った少女を、()()()()()()()()()()()()



 邸宅の玄関。

 そこにいた金髪をハーフアップにした少女――美珠倫世は入口へと向かう紫の姿を見かけた。

 どうやら紫はもう帰るつもりらしい。

「あら。もう帰ってしまうのかしら?」

 倫世は紫を呼び止める。

 すると彼女はゆっくりと振り返り優雅に微笑んだ。

「ええ。こう見えて、わたくし有名フラワーデザイナーですもの。こんな――現役の大臣が建てた別荘に出入りしているのを見られたら困るわ」

「学校に通う私のために建てた家です。ここに入り浸っても、お父様と仲良くはなれませんよ?」

「それでも勘繰るのが――人間でしょう?」

 そう紫は言い返す。

 穏やかな表情を張りつけて。

「紫さん」

 倫世は紫にそう声をかける。

「……どうしたのかしら?」

「勝手な真似をしてはダメよ」

 そう倫世は釘を刺すのであった。

 すると紫は笑みを浮かべて。

「…………分かっているわよぉ。もしものことがあったら、困るのはわたくしたちですものねぇ」

「そういうことよ」

 若干の間があったものの、紫は特に違和感のある仕草もなくそう言った。

「それじゃぁ、仕事に戻るわねぇ」

「ええ。いってらっしゃい」

 紫の背中を見つめ、倫世はそう言葉を送った。

 そして紫が外へと出ると、屋敷の中に静寂が満ちた。


「……嘘」


 倫世の背後から声が聞こえた。

 声の主は人形のような可愛らしさと奈落の底のような不気味さを持つ少女――星宮雲母だった。

「紫さんは……騒動を起こす。《表無し裏(フェイトロット)無い(・タロット)》がそう言っている……」

 雲母の魔法は占いだ。

 百発百中ではない。

 しかし、信頼性の高い占いである事は倫世も知っている。

「そうね」

 だから倫世は雲母の意見を否定しない。

 紫が穏便に済ませる気がないことなど分かっていた。

 しかし倫世が紫を止めることはなかった。

「もうお披露目会が終わったんですもの――」


「今度は本番。魁としてはちょうど良いでしょう?」


 そう倫世は微笑むのであった。


~《逆十字魔女団》結成時~

倫世「《逆十字魔女団》。良い名前でしょう?」

リリス「言っとくけど、逆十字に邪悪な意味合いとかないカラ」

倫世「…………………………」

雲母「――格好良い」

倫世「そ、そうよね……!?」

雲母「――中学生のお姉さんみたい」

倫世「…………ふぇ……ぇぐっ……。みんな考えてくれないから……必死に考えたのにぃ……ぐす……」

雲母「?」

リリス「いや、完全にトドメ刺したのアンタだカラ」



 これにて4章終了です。

 5章は黒百合紫を中心に引き起こされる事件となります。

 プロット的には第2部は6章までとなっております。

 そのため5章は、第2部最終章へと向けた接続章といえるでしょう。

 新たな《花嫁戦形》。

 補充された《前衛将軍》。

 マリアの秘密の断片。

 など、新たな動きのある章となる予定です。


 それでは『6章 悪魔の花が咲く頃に』お楽しみに!

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