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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
4章 世界の重さを知る少女たち
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4章 エピローグ 嵐のような激闘の後

 悠乃サイドのエピローグです。

「そのようなことになっておったのか……」

 エレナは悔しげにそう呟いた。

 後日、裏切りの魔法少女たち――《逆十字魔女団》について悠乃たちは話し合いの場を設けていた。

 敵の魔法などの情報を共有するために。

「情けないのぅ……。散々迷うて覚悟を決めたかと思えば、今度は蚊帳の外で友を守ることもできぬとはの……」

 エレナは罪悪感に唇を噛んだ。

 今回、彼女のもとに襲撃者は現れなかったらしい。

 しかし悠乃たちは多くの怪我を負った。

 黒白姉妹に至ってはかなりの重傷だったと聞く。

 そんな中で戦いさえしなかった事実をエレナは自分で責めているようだ。

「それを言うのなら、わたくしも同じです。今回のわたくしは、魔法少女としても薫子でした。わたくしがあの場にいれば、すぐに治療できていたのに」

「……薫姉。自分の名前を役立たずの類義語みたいに言うのやめてくれないかなぁ?」

 ――とはいえ、あの場にいなかったエレナや薫子を責めることはできない。

 あの時、二人は自分の家でそれぞれ仕事をしていたのだから。

 ただ運悪く、悠乃たちが敵に出くわしてしまっただけで。

「薫ちゃんのおかげで、わたしもツッキーも助かったんだからありがとうだよー」

 明るくそう語る春陽。

 体調はおおむね回復しているようだ。


「現在の状況は――由々しき事態と評すべきなのだよ」


 そうイワモンが切り出した。

 彼は魔法少女の襲撃から、故郷へと一時帰還していた。

 ――《逆十字魔女団》について調べるために。

「調査の結果……我々の世界から魔法少女のクリスタルが5つ紛失していることが分かったのだよ」

「それが、彼女たちの手に渡ったというわけですか?」

 美月がそう尋ねると、イワモンは首肯する。

「誰がやったのー?」

「それが分からぬのだ。元来、あのクリスタルは上層部の許可なしに持ち出せるものではない」

 春陽の質問にイワモンは答えることができなかった。

「つーか、5つもなくなったら気付けよ普通」

「そうは言われてもだね」

 璃紗の指摘にイワモンは難色を示す。

 5つというのは確かに多い。

 本来なら気付く者が現れてもおかしくないのだが。

「魔法少女のクリスタルは――すべてで数千に及ぶのだよ。その中で5つが消えていても気付く自信があるかね?」

「え!? あれってそんなにあるの?」

 思わず悠乃は聞き返した。

 あれほどの代物がそんなにも大量に存在しているとは信じがたかったのだ。

「うむ。魔法少女とはあらゆる国、時代において存在していたのだからね。もっとも、呼び方は『巫女』『イタコ』『エクソシスト』『陰陽師』と時代に合わせて様々なものであったが」

「へ、へー……」

(そんなシステムだったんだ……)

 初めて知る事実に内心で驚愕している悠乃であった。

 自分たち以外に魔法少女がいるという話は聞いていたが、悠乃が思っている以上に途方もない数の先人たちがいるのかもしれない。

「ともかくだ、我々の世界からクリスタルを持ち出した以上、あちらにも我々と同じ魔法生物がサポートをしている可能性がある」

 悠乃たちはイワモンたちが住むという世界――魔法界の事について彼から聞いたことしか知らない。

 イワモンが魔法界を行き来することはあった。

 しかし悠乃たちは一度も踏み入れたことがないのだ。

 彼が言うには、よほどの事態に陥らない限りは魔法少女を魔法界に連れてゆくことはないらしい。

 つまり、魔法界とこの世界を自由に移動できるのはイワモンたち魔法生物くらいしかいないということだ。

 だからこそイワモンは、同族が《逆十字魔女団》に加担している可能性を考えているのだろう。

「でも、彼女たちは世界を滅ぼすって言っているんだよね? そんな目的のために力を貸す奴がいるの?」

 ――世界を滅ぼす。

 そう敵の一人――天美リリスがそう語っていたと璃紗から聞いている。

 であれば、悠乃が抱いた疑問もそう的外れではないだろう。

 イワモンは世界を守るために派遣された。

 そのような種族がなぜ、世界を滅ぼすことを考えるのか。

 そこに何のメリットが発生するというのか。

 そんな気持ちからの問いかけだったのだが、どうやらイワモンの意見は悠乃の期待に添うものではないようだった。

「いない――とは言えんな。事実、去年魔法少女システムを悪用した奴が現れたことだしな」

 意味深なイワモンの言葉。

 思わず悠乃は聞き返す。

「去年?」

「『バトル・オブ・マギ』――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして優勝した者の願いを叶えるという狂った儀式が去年行われた。それが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言えば分かるかね?」

 議会。

 その単語はイワモンの口から何度か聞いた覚えがある。

 推測するに、魔法界における最高意思決定機関のようなもののようだった。

 そんな議会を支配する――つまり魔法界を意のままにするということだろう。

 イワモンは世界を救った功績により議会での発言権を得たという。

 言い換えれば、議会での影響力を得るためには多大な功績か、周囲が無視できない力が必要だということだ。

 その力として――魔法少女を利用した者がいたのだとイワモンは言ったのだ。

「なんですか……それは……人の命を何だと……!」

 真っ先に怒りをあらわにしたのは美月だった。

 真面目な彼女だからこそ、人道を外れた理不尽に怒りを禁じえなかったのであろう。

 そして、非道な行いに不快感を感じているのは悠乃たちも同じだった。

「まあ、そう憤ることができるのは正常な証拠なのだろう。――ちなみに()()()()()()()()()()()()()()()()()

「?」

 イワモンが口にした事実。

 それに美月は怪訝そうな表情となる。

 心当たりがないのだろう。

 そんな彼女に向け、イワモンは再び口を開いた。


「――星宮雲母。彼女が『バトル・オブ・マギ』の優勝者なのだよ」


「ッ……!」

 イワモンの言葉を理解し、美月は口を押えた。

 星宮雲母。

 確か、美月を追跡してきた魔法少女の名前だっただろうか。

 人形のようで、何よりも『不吉』な魔法少女だったと聞いている。

「だから……『世界を救わなかった魔法少女』なんですね……」

 美月は苦々しげな表情でそう呟いた。

「そうだな。彼女は権力闘争のために魔法少女に『され』、世界の危機とではなく同族と殺し合いをさせられた。最初から『救うべき世界などない魔法少女』だったのだよ」

 ――世界を救わなかった。

 ――救うべき脅威などいなかったのだから。

 ――もっとも救われるべきは、魔法少女たち自身だったのだ。

「他にも《百鬼夜行》から人間界を救った美珠倫世。《悪魔》から人間界を救った天美リリス。《魔獣》から人間界と聖獣界を救った三毛寧々子。《魔界樹》から魔法界を救った黒百合紫。誰もが伝説級の力を持った魔法少女なのだよ」

 イワモンが言うには、《逆十字魔女団》は魔法少女の中でも実力者揃いらしい。

 それは実際に戦った悠乃も痛感していた。

 美珠倫世。

 最強の魔法少女。

 彼女とは一対一では勝負にならなかった。

 《花嫁戦形》なしでは、通常状態の彼女とさえ拮抗できなかった。

 ギャラリーと協力してやっと一撃を加えることができただけ。

 それさえも倫世の命には届かない。

 しかも――おそらくだが美珠倫世は《花嫁戦形》を会得している。

 あの戦いの中で悠乃は、彼女の本気を引き出すこともできずに負けたというわけだ。

 それだけで彼我の実力差が分かってしまう。

「ともあれ、分かっていることはマリア嬢が狙われているということくらいか」

 イワモンの視線は部屋の隅で壁に寄りかかっているマリアへと移る。

 そもそも悠乃が倫世と戦うことになった原因が彼女だ。

 倫世はマリアを標的にしていた。

「元より出自の分からない魔法少女を放置するわけにもいかなかったのだが、今回の件でなおさらマリア嬢を手放せなくなったな」

 イワモンはそう唸る。

「理由は分からないけど、《逆十字魔女団》が狙っていたということは……相応の理由があると考えるべきだもんね」

 かつて世界を救った魔法少女たちが徒党を組んでまでマリアを狙うのだ。

 その根底にある理由が嫌でも気になってしまう。

「失われた記憶に何かがあるんでしょうか?」

 薫子がそう疑問を口にした。

 記憶喪失。

 自分のルーツさえ分からないマリア。

 そこに疑問の答えがあると考えるのは、ある意味で当然だった。

「知ってはいけないことを知ってしまったか。それとも、彼女たちが知りたいことを世良さんが知っているのか。どちらもありえますね」

 美月はそう推理していた。

 どちらにせよ、世良マリアという人間がキーパーソンとなることは間違いない。

「もしかしてだけどよー? 洗脳系の魔法で記憶を封印されてるってことはねーのか?」

 璃紗が懸念したのは、マリアの記憶喪失そのものが『秘密』を守るために仕組まれたものであった可能性だった。

 悠乃はこれまで洗脳の能力を持った者を見たことはない。

 しかしいないと断言もできない。

 もし洗脳の能力者がいたとすると、その人物があえてマリアの記憶を封印した可能性もあり得るのだ。

「その可能性は朕も考え、確かめたのだよ。しかし、彼女の記憶喪失に魔法的な処置は見られない。そして、記憶喪失であることが演技ということもなかった」

 どうやらイワモンもすでに同じ答えに至っていたらしく、そう答えた。

 ――若干気になることもあったが。

「……わたしの記憶を覗いたの?」

 ふとマリアが口を開いた。

 彼女の記憶喪失が嘘ではないことを断言したということは、彼女の記憶を確認する術がある事――そしてそれをイワモンが実行したことを示している。

 マリアは半眼でイワモンを睨んでいた。

 しかし彼が悪びれた様子を見せることはない。

「うむ。もしも重大な秘密を隠されていると困るからね。だが結果として潔白だったのだから構わないだろう? 無論、記憶に関しては他言しない」

 ――守秘義務は企業人の基本なのだよ。

 そうイワモンは続けた。

「そう……」

 マリアは特に追及をすることなく身を引いた。

 これ以上、何を言っても無意味だと思ったのだろう。

 マリアは静かに目を閉じた。


「私は……何者なの……?」


 そんな彼女の声が、部屋に響くのだった。


 《逆十字魔女団》の面々は《百鬼夜行》など、《怪画》とは違う『世界の脅威』を打倒した経験があります。

 ちなみに現時点での設定では彼女たちが世界を救った時のメンバーは――

 美珠倫世――1人。犠牲者0人。――評価S。

 天美リリス――2人。犠牲者1人(一般人の被害者は数知れず)――評価不能(魔法生物も死亡した)

 三毛寧々子――4人。犠牲者0人。――評価A+

 星宮雲母――2人。犠牲者1人。――評価不能(魔法生物は死亡?)

 黒百合紫――2人。犠牲者1人。――評価B

 という感じですね。

 ちなみに議会での発言権を得ようと思うと、『少ない人数』で『被害を最小限に抑えて』世界を救うことが必要となります。

 そのため、イワモンが議会で発言権を得たのは魔法少女の誰も死ななかったからといえます(死者0人はそこそこ評価が高い)。上記の世界救済ランクでいけばA相当です。議会での発言権を得られる最低ラインくらいの成績です。

 ちなみにそれを逆手に取り、『魔法少女一人で世界を救うRTA』をした変人魔法生物もいます。

 ……どこかに一人で世界を救わされた魔法少女がいたような……。

 


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