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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
4章 世界の重さを知る少女たち
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4章 16話 未来は変わらない

 VS寧々子がついに決着します。

 朱美璃紗とキリエ・カリカチュア。

 どうあがいても二人の息が合うことはないだろう。

 だから合わせない。

 無理に合わせて持ち味を殺すくらいなら、自分勝手に最大のパフォーマンスを。

 結果として、そのアプローチは間違っていなかったのだろう。

「そうらッ!」

 キリエは交互に鉤爪を振るう。

 明らかに遠すぎる間合い。

 当然だ、彼女に直接爪を当てる気など最初からないのだから。

 振るわれた爪は魔力の残像を残し、三日月形の刃となり寧々子へと飛来する。

「危ないにゃぁ」

 だが寧々子は余裕の態度を崩さない。

 彼女は迫る爪撃へと歩み寄り――通過した。

 障害物を避けるかのように軽々と爪同士の隙間を抜けてゆく。

 躱すスピード自体は大したことがない。

 ただの緩急と『目』だけですべての攻撃を捌いているのだ。

 爪撃の嵐も寧々子には傷一つ付けられない。

「なら……隙間もねーくらいに叩き込んでやればいいんだろうがッ!」

 躱されるのであれば躱せない広範囲攻撃を。

 そんな単純でありながら真理ともいえる理屈で璃紗は大鎌を振るう。

「《炎月》!」

 大量の炎が波となり寧々子を襲う。

 回避できるような攻撃ではない。

 だからだろう。

 寧々子が選択したのは――前進。

「熱ちちち……!」

 寧々子は両腕を交差させて顔面だけを守りながら駆け抜ける。

 そうすることで、一瞬でも炎に焼かれる時間を短くしたのだ。

 未来が見えるからといって回避に固執しない。

 必要と判断すれば多少のダメージは覚悟する。

 その思い切りの良さが寧々子の強みなのだろう。

「やっぱあの火力じゃ足りねーか」

「さっきみたいな大火力をなんで撃たなかったのかな?」

 璃紗の隣でキリエが聞いてくる。

 確かに、大火力で《炎月》を――《大焦熱炎月》放っていたのならば彼女を倒せていたかもしれない。

「無理だ。さすがにあそこまでやるには『溜め』がいる。初見ならともかく、二発目は向こうもそれなりの態度で来るはずだろ」

 さっき寧々子が正面から突っ込んできたのは――自分に害のない威力だと未来で知ったからだ。

 もしもあれが死に至る威力であったのなら、寧々子は全力で璃紗の攻撃を潰しにかかっていたはず。

 互いの間合いから逆算して、寧々子ならば璃紗が大技を放つよりも早く攻撃できたはずだ。

 だが自分の危機にならない威力、かつあの距離では妨害不能な『溜め無し』の攻撃だったため寧々子は無理に攻撃を止めようとしなかったのだ。

(こーいう地味なのは趣味じゃねーけどよ)

 璃紗は大鎌を構え直す。

(早撃ちできる技で少しずつ削っていくしかねーだろ)

 先程の攻撃は寧々子にほとんどダメージを与えていない。

 しかしダメージは蓄積してゆく。

 そうなれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 幸いにも璃紗の継戦能力は高い。

 だから彼女は『粘り合い』の勝負を挑んだのだ。

 それに――

「はぁぁぁッ!」

 キリエは両腕を広げ、横回転をしながら寧々子へと突撃する。

 絶対切断の鉤爪を活かした暴力の竜巻。

 あれに巻き込まれたのなら一瞬でミンチだろう。

(一撃で殺す役目はアイツがいるからな)

 絶対切断。

 一撃で相手を戦闘不能にできる攻撃力としては充分すぎるだろう。

 だから璃紗は寧々子の足を止めることに執心する。

 璃紗が足を止め、キリエが息の根を止める。

 それがベストだ。

「らあッ!」

 キリエの攻撃が躱され――寧々子がカウンターに移行するタイミング。

 そこを狙って璃紗は大鎌を振り下ろす。

 だがそれも読まれる。

 なら、突き立てた地面から大熱量を地中へと送り込み、地面をめくれ上がらせるように炎を噴き上がらせたのなら――

 しかし、それも読まれる。

 寧々子は最低限の動きで攻撃を躱しカウンターに移る。

 ――明らかに寧々子はカウンター主体の戦い方をしていた。

 積極的に攻撃をしてこないのだ。

 おそらく、これが本来の彼女の戦い方だ。

 未来予知で相手の隙を見つけ、最も隙をさらさない方法で攻撃する。

 かなり堅実な戦い方だ。

 未来予知という前提がある以上、打ち崩すのは容易ではない。

「っと……!」

 だが寧々子はインファイターだ。

 彼女の間合いは常に璃紗の間合いでもある。

 だから――攻撃された直後に寧々子の腕を掴むこともできる。

 璃紗は回避をあえてせず、深手を負いながらも寧々子の腕を抑え込む。

 寧々子の背後にはキリエがすでに迫っていた。

「知ってるにゃ!」

 寧々子は動揺することなく足を振り上げ、爪先で璃紗の股間を蹴り上げた。

「いっ……つぁぁッッ~~~~~~~~~~~~~~~!?」

 激痛に蝕まれ璃紗はその場にうずくまる。

 一方で解放された寧々子は体をくるりと反転させ――裏拳でキリエの鉤爪を側面から弾いた。

「絶対切断とはいっても()()()()()()()()()()()()()()()

 絶対切断とは言い換えれば切断力の異常な強化だ。

 つまり、刃でない部分にいくら触れても関係がない。

 その情報も未来で知ったのだろうか。

 寧々子は躊躇いなくそれを実行したのだ。

「なッ……!」

 側面からの攻撃でキリエの体が横に流れる。

 足踏みするキリエ。

 寧々子はその隙を逃さない。

 彼女はキリエの足を払う。

「っと……」

 体勢が崩れかけていたところへの追撃。

 キリエに抵抗できるはずもなく彼女はあっさりと地面に転がった。


「じゃあ……足を貰うにゃん」


 キリエは爪で寧々子を追い払おうとするが、少し遅かった。

 次の瞬間には、彼女の膝は横に曲がっていたのだから。

「ッッッ~~~~~~~~~~~~~!」

 キリエは声にならない絶叫を上げた。

 彼女が暴れたことで寧々子は去ってゆくが、足を折られたキリエは追撃できない。

 彼女の足が潰された以上、寧々子に追いつける者はここにいない。

「く……そ……」

 璃紗は緩慢な動きで立ち上がりながら悪態をついた。

 キリエも立とうとするも、折れた膝に体重がかかった瞬間にその場で崩れ落ちた。

 どうやら彼女は立ち上がることさえ困難なようだ。

(こりゃ……先に削り殺されるのはアタシたちのほうか……)

 たった一度の隙でこれだ。

 寧々子の動きが鈍るよりも、璃紗たちが動けなくなるほうが先だろう。

 嫌でもそう思い知らされた。

(次で決めねーとやられるな)

 まだ璃紗たちは戦えるかもしれない。

 だが次の攻防で決着しなかったのであれば、彼女たちにはもう逆転できるだけの力が残らないだろう。

 すぐに殺されるか、粘って殺されるかの違いだけだ。

 だから、逆転するなら次しかない。

(――これまでアタシたちは未来を打ち破ろうと戦ってきた)

 未来を支配するのは寧々子で、璃紗たちはそれに抗ってきた。

 だが今度は違うアプローチで寧々子を狙う。

(だけど次は――)


(――――()()()()()()()()()



(次が最後のポイントかにゃ?)

 寧々子はそう確信していた。

 朱美璃紗とキリエ・カリカチュアの余力を加味しての結論だ。

 おそらく次で彼女たちは勝負を仕掛ける。

 それが最後のチャンスであるからだ。

 仕掛けてこないのならばそれで良い。

 ただ『そんなことも見抜けないマヌケだった』というだけのことだ。

 だが彼女たちは理解しているだろう。

 そう寧々子は思っていた。

(評価は上方修正……っと)

 彼女たちの戦闘のデータを寧々子は見ていた。

 戦闘スタイルもその実力も。

 だから彼女たちを殺すのは容易いと考えていた。

 しかし、璃紗たちが見せた粘り強さは寧々子の想定を超えていた。

(これ以上いじめるのは可哀想だからね)

 どうせ今日はお披露目会だ。

 自分たちの存在を『脅威として刻み込んだ』のなら目的達成だ。

「じゃあ――来るにゃん」

 寧々子は指を曲げて璃紗たちを誘う。

 璃紗はそれに応えるように腰を落とし――

「それじゃあ……ぶっ飛ばしてやるよッ!」

 璃紗は大鎌を振るう。

 すさまじい風圧が寧々子を襲う。

 しかしそこに危険がないことを寧々子はあらかじめ知っていた。

 寧々子は髪をなびかせながら璃紗を迎え撃つ。

 迫る璃紗。

 横薙ぎのスイングを寧々子は軽く飛んで躱す。

(――――見える)

 寧々子は未来を読み取ってゆく。

 璃紗が次に繰り出す攻撃。

 それを躱すためのルート。

 ただ寧々子はそれをなぞるだけ。

 たったそれだけで面白いように寧々子の爪は璃紗の脇腹を抉る。

「こいつで決めるッ!」

 だが璃紗の気迫は衰えない。

 むしろ闘志を燃え上がらせ、彼女は大きく大鎌を振り上げた。

(――来る)

 璃紗が勝負に出た。

 そう判断した寧々子は未来を注意深く見てゆく。

(どんな攻撃か)

 攻撃の種類を見極めねばならない。

(どんな軌道か)

 その攻撃範囲をも見極めたのならば寧々子に怖いものはない。

(すべてを見透かすだけで、アタシの勝利にゃ)

 あとは《黒猫は死人(キャッツアイ)の影踏まず(・デスサイト)》の予知に従って攻撃を回避する。

 これまで幾度となく繰り返されてきたルーティンワーク。

 そこに破綻など

 ()()()()()()()()()()()()――


「ぎにゃぁぁあああああああああああああああああああああああッ!?」


 唐突に寧々子の世界がホワイトアウトした。

 思わず彼女は両手で目を覆い、その場に倒れ込む。

(なにが起こったにゃっ……!?)

「目が見えないにゃぁッ……!」

 慌てて身を起こすもどこに誰がいるのかも分からない。

 未来を見ても、あらゆる未来が潰えている。

「――ちゃーんと見えたかよ?」

 潰された視界。

 璃紗の声が聞こえてきた。


()()()()()()()()()()()()()()()


(目潰しッ……!?)

 寧々子は璃紗の行動をすべて理解した。

 先程、璃紗は()()()()()()()()

 熱量ではなく、()()()()()()()()()

 例えば火花。

 溶接作業などの際に出る火花を直接目で見てはいけない、と注意されたことがあるだろう。

 それは強すぎる光が目に悪影響を及ぼすためだ。

 つまり、炎には人の目を潰すほどの光量を付与することもできるのだ。

 璃紗が放とうとしたのはそんな炎。

(未来を見たからにゃッ)

 寧々子は己の失策を悟った。

 己の魔法を逆手に取られたのだ。

(未来を見ていたから……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!)

 これは、致命的な隙だ。

 なぜなら璃紗たちの視点から見ると、寧々子は『まだ放たれてもいない目潰しに引っかかった』のだから。

「アタシは決めていたんだ」

 璃紗が語る。

「今から、例えなにが起こってもアンタの目を潰すってな」

 

「運命と呼べるほどの決意があったから――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 言葉通り、璃紗は何があっても閃光を放ったのだろう。

 だからあらゆる未来が見えない。

 ――あらゆる未来の先で『目を潰されている』のだ。

「目が……目がチカチカするにゃぁッ……!」

 目が焼かれ、視界が黒く塗り潰されている。

 未来も――現在さえ見えない。


「――恐怖かな?」


 声が聞こえた。

 この声は――キリエだ。

「でもすぐに見えるから安心しなよ」


「――君が死ぬ未来がさ」


 その声は、目の前から聞こえて来ていた。

「ごぼッ……!」

 キリエの鉤爪が寧々子の腹を貫いた。

 内臓ごと腹の肉が吹き飛び、彼女の体に大穴が開いた。

 衝撃で寧々子の体が飛ばされる。

 ――少しだけ視界が回復した。

 しかしそれも現実の閃光で再び潰される。

 未来が現実に追いついた瞬間だった。


「ぁ……ぁぁ……」


 受け身も取れずに寧々子は地面に落ちた。

 体から血液が逃げてゆく。

 命が漏れ出している。


(やっぱりアタシは――)


 寧々子は自嘲気味に笑う。

 

(――……一番弱い魔法少女だったにゃん)


リリス「(アレ……? お披露目会で死人が出そうなんだケド……?)」


 次話は『閉幕』です。そしてエピローグを挟み、ついに5章が始まります。

 5章では、4章において出番がほとんどなかった《逆十字魔女団》の黒百合紫が中心となった話になる予定です。

 実は《逆十字魔女団》のメンバーが現役の魔法少女だった頃のエピソードなんかも考えてあるので、少しずつ書いていけたらなぁと思っています。

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