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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
4章 世界の重さを知る少女たち
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4章 15話 二人四脚

 ついに《逆十字魔女団》側のMariageが書けて嬉しいです。

 他の子のも書きたいなぁ。

「アタシたちはかつて、魔獣から世界を救ったにゃん」

 寧々子はそう語った。

「アタシたちはみんな、形は違えど世界を救った魔法少女」

 彼女の体が黒い魔力に包まれる。

「そんなアタシたちがMariageに目覚めるのは、ある意味で当然の事にゃん」


「――――――――――《黒猫は死人(キャッツアイ)の影踏まず(・デスサイト)》」


 直後、寧々子が黒い瘴気を放つ。

 黒い風が璃紗たちの傍らを駆け抜けた。

「なんだよッ……これはッ……!」

 璃紗は腕で顔を庇いながら苛立ち紛れにそう口にした。

 《花嫁戦形(Mariage)》。

 その力は璃紗も知っている。

 基本性能の飛躍的向上。

 そして、強力な固有能力。

 戦闘力は通常状態の数倍に跳ね上がる。

 寧々子が発動したのは、そういう技術なのだ。


「………………にゃん♪」


 鈴の鳴るような声で寧々子が鳴く。

 彼女が纏っているのは和装の花嫁衣裳――白無垢だ。

 純白にして潔白の衣装。

 一方で、禍々しくも妖しく魅了する黒き怪異。

 矛盾するような二つの要素が調和している異常な姿。

 それを寧々子は体現していた。

「――――!」

 彼女の姿に脅威を感じたのだろう。

 キリエが最高速で寧々子を襲う。

 振り抜かれる鉤爪。

 寧々子はそれを――()()()()()()()()()()

「見えてるにゃん」

 これまでの拮抗した戦いではない。

「ふざけるなァッ!」

 キリエはもう片方の手を振りかぶり、そのまま叩きつける。

 怒りに任せた不用意な一撃。

 そんなものでは寧々子を打倒することはできない。

「チッ……!」

 キリエが舌打ちする。

 彼女の両手は、寧々子によって止められている。

「これで逃げられないにゃん」

 寧々子はキリエの両手首を掴む。

 これでキリエは逃げられない。


「《猫撫で声》」


 それを確信した寧々子は大きく息を吸い込んだ。

 そして――鳴く。

「にゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 一定の波長で発せられる鳴き声。

 それを直に受けたキリエは――

「ぁ……ぐぅ……!」

 キリエが脱力してその場に膝をつく。

 そんな彼女を見下ろして寧々子は妖しく笑う。

「魔王の娘も、脳味噌が揺れたらよわよわにゃん」

 寧々子は両腕でキリエの体を引き上げる。

 そして尖った歯を彼女の首筋に突き立て――

「油断しすぎだぜッ――」

「うん……。アタシも同感だ――……!」

 璃紗とキリエ。

 二人の声がその場に響いた。

 璃紗は高速で寧々子の背後に回り込む。

 それに対応しようとする寧々子を妨害するように、キリエは彼女の手首を強く握り返した。

「ッ!」

 キリエはダメージで足を震わせながらも寧々子の身体を縫い止める。

 今、()()()()()()()使()()()()。そして()()()()()()()()

 ――だから、璃紗が大火力の一撃を背後から叩き込んでやるのだ。

「《大焦熱――――――》ッ!」

 璃紗は大鎌を振り上げる。

 柄から大量の灼炎が巻き上がる。

 火柱は二重螺旋を描いて天へと昇る。

 暴力的な熱量。

 伝われる熱だけで腕の皮膚が焼け溶ける。

 超速再生が発動している《花嫁戦形》状態でなければ一生両腕が使い物にならなくなるであろう自爆技。

 それほどの威力を込めた一撃を振り下ろす!

「《――――――炎月》ッッッ!」

 炎の嵐が吹き荒れる。

 熱の暴力は周囲の建物をも巻き込んでゆく。

 道路のアスファルトがマグマのように溶けてゆく。

「どーだ……!」

「……うん。あれは危ないね」

 璃紗の隣にキリエが飛び降りてきた。

 どうやら彼女が攻撃を放った直後に離脱してきたらしい。

「オイ。死ぬまでしがみついとけよ。逃げられたらどーすんだよ」

「うるさいなァ。アタシが死ぬギリギリまで粘ったんだ。アタシより遅いアイツじゃ()()()()()()()()()()()()()()()()

 単純なスピードではキリエが上だ。

 そんな彼女が死の直前になるまで逃げなかったのだ。

 出遅れたはずの寧々子が逃げ切れるはずがない。

 なのに――


「――危なかったにゃぁ」


 なのになぜ――

「なんで生きてんだよマジで……!」

 璃紗は動揺の声を漏らす。

 炎の滝の中――寧々子が歩み出てきた。

 無論、無傷というわけではない。

 今の寧々子は半裸になっていた。

 腕は火傷を負い、白無垢は焦げて黒くなっている。

 しかし、それでも彼女は五体満足で生きていた。

「アタシの《黒猫は死人の影踏まず》の能力――それは《猫踏まず》の未来予知よりもさらに指向性を持って特化した力――()()()()()()()()()()()

 つまるところ、戦闘とは死との追いかけっこだ。

 迫る死に捕まったものが敗北する。

 しかし寧々子は死の未来だけを予知する。

「本来『未来予知』は不確実にゃ。見えた未来を一つ避けるだけで、すぐに未知の未来が待っているのにゃ」

 寧々子は微笑む。

「だけど《黒猫は死人の影踏まず》は違うにゃ。死しか見えない。だけど『死のパターン』を『複数同時に見ることができる』のにゃ」

 単純に死を避けるという目的において、寧々子の《花嫁戦形》は通常時の未来を凌駕している。

「さっきの攻撃もそうにゃ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 寧々子のスピードでは完全な回避は不可能だった。

 だから彼女は、障害物や魔力の『ムラ』によって生まれた威力の低い部分だけを選んで逃げたのだ。

 だからこそ璃紗の攻撃は寧々子の命には届かなかった。

「なにより、この《黒猫は死人の影踏まず》の最大の能力は――」

 寧々子は膝を曲げて力を溜める。

 そして――一気に解き放った。


()()()()()()()()()()()


 肉薄する寧々子。

 反射的に大鎌を横薙ぎにする璃紗。

 しかし寧々子はその場で跳んで攻撃を躱した。

 彼女は空中で縦回転をする。

 それに合わせて黒い尻尾がしなりながら璃紗の脳天を打ち据えた。

 メシリ。

 頭蓋骨にヒビが入る。

 再生のおかげで致命傷にはならないが、普通であれば死に至るダメージ。

 璃紗の体がぐらりと前方に傾く。

 さらに寧々子は追撃へと移る。

 しかしその隙を突こうとキリエも動き始めていた。

 璃紗を狙った寧々子。その動作に合わせてキリエが寧々子を狙う。

 だが――

「がッ……!?」

 横薙ぎに振るわれた尻尾がキリエを薙ぎ払った。

 脇腹から骨の砕ける音を響かせながら彼女は離れた建物の壁を貫通する。

「おおおおおおおおおおおお!」

 その間にダメージから立ち直った璃紗が再び寧々子へと挑む。

 しかし彼女は璃紗の攻撃を軽くいなし、そのままカウンターで殴り抜く。

 璃紗の体は紙屑のように吹っ飛び、キリエのいる建物へと突っ込んだ。


「くそ……速ぇーな」

 

 璃紗はガレキの山から抜け出し、ため息をついた。

 確かに寧々子のスピードはキリエに劣っていた。

 しかしそれは通常状態での話。

 《花嫁戦形》状態の寧々子は、瞬発力だけならばキリエを越えている。

 ほんの数メートルという短距離限定とはいえ、彼女よりもさらに高い速力を持つ相手がいるとは完全な誤算である。

 あり余る速力を制御できていないキリエとは違い、最高速では劣るものの完全に己のスピードを操ることのできる寧々子。

 インファイトにもつれ込む以上、厄介さはキリエ以上だ。

「つーわけで、やっぱここは協力するしかねーんじゃねーか?」

 璃紗は隣にいるキリエへと問いかけた。

 彼女もまた不機嫌そうな表情でガレキに埋もれている。

 キリエは璃紗の提案に舌打ちで返した。

「ないね。うん。このアタシが魔法少女と二人三脚なんてありえないよ」

 ある意味で当然の意見だ。

 璃紗たちは本来敵対している関係だ。

 今回は寧々子たちが脅威であるからという利害の一致でここに立っているのだ。

 また別の場所で出会えば、これまで通り戦いになるだろう。

 そんな相手を信頼して、連携できるのか。

 それにノータイムで納得できるほど単純な性格ではない。

「別にアタシもそんなこと言ってねーよ」

 それくらい璃紗も分かっている。

 だがこのままでは状況を打開できないのもまた事実。

 清濁併せ呑む――そんな高尚な話ではない。

「連携不要。気遣い不要。二人三脚なんてダルいことしねーでよ」

 璃紗は獰猛な笑みを浮かべる。

 きっとこれがベストだと彼女は確信している。


「――二人四脚で大いに結構。『勝手にやろうぜ』!」


 自分の死を視れるから致命傷を負わない。

 他人の死を視れるから最高効率で敵を殺せる。

 それこそが寧々子の『未来予知』のチートポイントです。

 逆にいえば、彼女が《逆十字魔女団》最弱であるということは、未来予知だけで勝敗を覆されない何かを《逆十字魔女団》の皆は持っているということですね。

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