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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
2章 魔王が遺した絆
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2章 16話 朱美璃紗VSギャラリー

 お詫び。

 昨日、朝1話に夜は予約投稿といった趣旨の発言をしましたが――やめました。

 理由:めんどい。

 そういうわけで、これが28日の『1話目』です!

 2話目は朝にでも。

「変わるわ。だって――」


「アタシが倒れるのは、戦ってお前たちを全員倒した後だから」


 ギャラリーは好戦的な笑みを浮かべた。

「そーかよ」

 彼女の気迫につられるようにして璃紗も獰猛な笑顔を見せる。

 璃紗は腰を落とし、一直線にギャラリーを刈り取ろうと構える。

 だが、それが悪手となることを悠乃は知っている。

(能力を……! 伝えなきゃ……!)

「璃紗ッ! 彼女の能力は空間転移と空間固定だッ!」

「ちッ! そーいうことかよッ!」

 駆けだしかけていた璃紗は無理やりに体勢を崩し、横へと跳ぶ。

 強靭な脚力によって床が砕け――()()()()()()()()()()()()()()()()

 あのあたりの空間が固定されたのだろう。

 あと一瞬でも璃紗の反応が遅れていれば、今頃あそこに縫い付けられていたのは彼女だった。

「あっぶねぇなッ」

 璃紗は転がるようにしてコンテナの陰に滑り込む。

 空間を操るギャラリーと戦う上での鉄則は、自分の位置を知らせないように立ち回ることだ。

 位置を知られていれば、どんなに障害物があろうとも意味をなさない。

 璃紗もそれを理解し、今頃はコンテナの裏を移動していることだろう。

「あのタイミングで、反応できるなんてまるで獣ね」

 先手必勝を狙っていたギャラリーは、璃紗が身を隠したことでわずかに苛立ちを見せる。

 余力のない彼女にとっては、戦いが長引くだけで痛手なのだ。

「まあ……いいわ」

 ギャラリーはその場で動かない。

 彼女の能力は基本的に自分が移動する必要性がない。

 体力が残り少ない以上、少しでも消耗を抑えるつもりなのだろう。

「どうせまだ二人目。じっくりやればいいわ」



「それにしても璃紗嬢。作戦はあるのかね」

「まずは背中に張り付いてやがる豚を外して、少しでも身軽になるとかか?」

 璃紗はコンテナを壁にして隠れつつ、背中から聞こえてきた声に答えた。

 現在、彼女の背中にはイワモンがくっついている。

 彼女の携帯電話に連絡が来た際、近くにイワモンがいたのでとりあえず連れてきたのだ。

「まあそれはともかく。アタシは頭良くねーからなぁ。結局、近づいてぶった斬る以外のやり方はねーな」

 そう璃紗はぼやく。

 彼女はあまり複雑な読み合いをするタイプではない。

 経験上、多少はそういうこともできるが、勘で補う部分も多い。

 理屈を詰める戦い方という意味では、悠乃や薫子に劣る自覚があった。

「しかし空間転移に空間固定か。これは厄介なのだよ璃紗嬢。転移はともかくとして、固定は一度食らえばそれで終わりだ。しかも、有効範囲も、発動条件も分からないのだからな」

「――いや。それはもう見切った」

 璃紗はそう断言する。

 結局のところ、戦う上で理解しておかなければならないものは、相手の能力の性質とそのリーチ。

 ゆえに璃紗は最初からギャラリーの能力を観察していた。

 そして、すでに本質へと至っている。

「あいつの空間固定は、()()()()()()()()()()。だから有効射程は、アイツの視界すべてだ」

「……なぜそう断じることができるのだね? 精度を上げるために対象を目視しているだけで、あらかじめ設定した範囲を固定する能力でも矛盾はないはずだが?」

 そうイワモンは問いかけてくる。

 璃紗もその可能性は考えていた。

 範囲を指定しておけば、固定する場所が視界に限られない可能性も。

 ギャラリーが悠乃から目を話しても空間固定は解けなかった。

 そこから、固定する範囲が見えている必要はないという考えが有力に思えるのも事実。

 しかし璃紗の読みにも根拠はあった。

「いいや矛盾はある。もし一定範囲を全部固定する能力なら――()()()()()()()()()()()()()

「生きているわけがない……?」

 イワモンは首をひねる。

「悠乃は喋れた。つまり、頭は少なくとも固定されていない」

 でなければ口が動かない。

「だが手足は拘束されている。そういう風に、体の一部分だけを固定するとどうなると思う?」

「…………」

「体が破裂して死ぬ。原理は悠乃の《大紅蓮》と似てる。もし指定範囲全体を固定する能力なら――空間ごと『血管』まで固定されたことで血流が止まり、固定されていない部位で流れ続けている血流は行き場を失って、血管を突き破って体を破裂させるはずだ」

 だが結果として、手足の一部しか固定されていない悠乃は無事だ。

「つまり、悠乃が無事である以上、空間固定は悠乃の体内にまで適用されていないってことだ。もし皮膚の表面だけが固定され、体内にある内臓や血管は固定されていないのなら、体の一部だけしか空間固定されていなくとも体が破裂して死ぬなんてことはねぇ。動けないだけで、体内の循環はスムーズに進み続けてるんだからな」

 ――そこまで考えると、だ。

 璃紗は説明を続ける。

「あいつの空間固定が及ぶ範囲は、目で見える表面までにとどまることが推測できる。目で見なければならないという制約ゆえに、人体の内部までは固定できないって推測がな。もし目視が必要ないとすると、アイツはわざわざ『悠乃の体の表面部分だけ』なんて繊細すぎる範囲設定をしてるってことになっちまう。あんまり現実的じゃねぇだろ」

 璃紗はそう締めくくった。

 別にギャラリー自身から聞いたわけではない憶測だ。

 しかし、現在出揃っている情報で描ける中ではそれらしい推論だ。

「だが、そうなると面倒だな」

「確かにな。アタシは基本インファイターだし」

 璃紗は自身の手にある大鎌を見つめる。

 彼女の戦い方は、大鎌を使った接近戦だ。

 遠距離の攻撃もあるが悠乃や薫子には及ばない。

 精々、接近のための牽制に使うオマケ能力くらいに璃紗は考えている。

「しっかし……見られずに近づくとか結構厳しいよな」

「それこそ、美月嬢のような暗殺スタイルであれば分からないが、璃紗嬢は向いていないだろう」

「同感だ」

 璃紗は得物の大きさもあって、隠密行動に向かない。

 むしろ周囲ごと敵を粉砕するタイプだ。

 相手に気付かれずに倒すことのできる能力ではない。

 あくまで正面突破が主体となる。

「ま、やるしかないわけだけどな」

 璃紗は天井を見上げる。

 するとそこにコンテナが出現した。

 ギャラリーの空間転移だ。

「結構……狙いが正確になってきたしなッ……!」

 璃紗は跳び退いてコンテナを躱す。

 破壊することもできるが、それではそこに自分がいると主張するのと同じだ。だからあえて回避を選択する。

 璃紗とイワモンが会話している間も周囲ではコンテナが落下し続けていた。

 おそらくコンテナの嵐に璃紗をさらすことで彼女の反応を引き出し、彼女がいる位置を割り出そうという魂胆だろう。

 最初は見当違いのエリアばかりを狙っていたが、候補が絞られてきたためかコンテナの落ちる位置が璃紗のいる位置へと近づいている。

「ッ……やっべ」

 何度もコンテナを避けていた璃紗だが、後ろに跳ぼうとしたところを他のコンテナに阻まれる。

 あまりにも障害物が増えていたせいで、璃紗も落下地点を把握できていないコンテナがあったのだ。

 結果として、意識の外にあった障害物に邪魔され、璃紗はコンテナの一つを避け損なってしまった。

 さすがにこのまま大重量に潰されては致命傷だ。

「しゃーねぇな」

 璃紗は覚悟を決めると、体を一回転させながら大鎌を振るう。

 遠心力を乗せた一閃。

 それは容易くコンテナを両断した。

 二つの塊となったそれは璃紗を避けるようにして落下する。

「ふむ。これで位置がバレたわけだな」

 イワモンが耳元でそう言った。

 どうやら、まだ璃紗の背中に張り付いていたらしい。

どうりで少し背中が重いと思った。

「とりあえず場所を移――」

「璃紗嬢!」

 捕捉されたままでいる義理もないと璃紗が動き始めた時、焦ったような声音でイワモンが叫んだ。

「ったく、耳元で叫んでんじゃ――」

「――捕まえたわ」

 璃紗とギャラリー。

 二人の視線が合う。

 璃紗が移動しようとした時、すでにギャラリーはゲートを開いていた。

 彼女は空間に門を開き、門を通して璃紗を見ていたのだ。

 ギャラリーがいるのは、ちょうど右斜め後方。

 彼女は顔だけをゲートから覗かせ、璃紗を見ている。

 それはつまり、空間固定の条件がそろったことを意味する。

「アタシの勝――」


「言うのが早ぇーよ」


 璃紗は鋭い眼光でギャラリーを射抜く。

 その目に込められているのは、すさまじいまでの覚悟。

 一瞬ではあるが、その気迫にギャラリーは硬直する。

 次の瞬間、璃紗は自ら大鎌を使って右手首を斬り裂いた。

「どーせ戦いじゃ使えねぇからな。目くらましにでも使わせてもらうさ」

 交通事故での後遺症で璃紗の右手は上手く動かない。

 繊細かつ大きな力が必要な戦いでは役に立たない。

 だから璃紗は右手を捨てた。

 手首からの血飛沫で、ギャラリーの視界から身を隠すため。

「なッ……!」

 赤い飛沫が空中で停止する。

 ギャラリーの空間固定が発動し固定されたのだ。

 当然、本来は璃紗を狙っていたのであろう空間固定。

 しかしキャンセルできないギリギリのタイミングで血飛沫が割り込んできたせいで、璃紗の血液が空間ごと固定されることとなったのだ。

 ある意味、ギャラリーが固定できる対象が『目視したものだけ』である事が証明できた瞬間でもあった。

「らァッ!」

 大概の人間なら、璃紗の立場になった時まずは距離を取る。

 ギャラリーが対応するよりも早く、もう一度姿を隠すだろう。

 しかし璃紗は違った。

 彼女は力いっぱい大鎌を振り抜いた。

 空中で固定された自身の血に向かって。

 その向こう側に何があるかを理解しているから。

「大鎌ってよ、重くて使いにくいんだよな。でも、慣れれば剣よりも使える」

 ザクリ。

 そんな手応えがあった。

「だって、障害物を回り込むようにして攻撃だなんて普通の武器にはできないだろ?」

 大鎌の最大の特徴は、その独創的な形状だ。

 長い柄の先には月のような刃がついている。

 その性質上、まっすぐな棒状の武器では届かない場所に攻撃が当たるのだ。

 今、璃紗が振るった大鎌が空間固定された血液を回り込み、血液の壁の奥に展開されたゲートの先にいるギャラリーの顔面を斬りつけたように。

「……浅かったな」

「っくぁ!」

 手応えの悪さからして、ギャラリーは軽い切り傷を負っただけだろう。

 大鎌がゲートを跨った状態で門をいきなり閉じられても困るので、璃紗は大鎌を引き戻して今度こそ身を隠す。

「肝が冷えたぞ璃紗嬢。さすがにリスキーじゃないかね?」

「それでも、反撃が来るかもって教えてやっといたほうが良いだろ?」

「まあ、今ので向こうも不用意にゲートで覗き見はしないだろう」

璃紗の背中でイワモンはそう言った。

 彼が言う通り、カウンターの可能性を見せたことで、ギャラリーは安心してゲートを璃紗の近くに開くことができなくなった。

 そしてゲートなくして物陰にいる璃紗を捉えることはできない。

 ギャラリーは先程の攻防で、自身が優位に戦いを進めるための手札を一つ自重せねばならなくなったのだ。

 あのまま逃げていればギャラリーが調子づいて門を連続展開していた可能性を考えると、璃紗の牽制は成功したといえる。

「後は近づくだけだ」

「で、どうするのかね?」

 イワモンの問いに璃紗は笑みで答える。

 そして彼女は腰を落として大鎌を構える。

「――これくらいデカい倉庫ならあんだろ。多分さ」

「はて?」

 イワモンが首をかしげると、突如として璃紗の大鎌が燃える。

「《炎月》!」

 璃紗は大鎌を振り上げる。

 すると刃を纏っていた炎は赤い斬撃となり天井へと飛んだ。

 《炎月》。

 璃紗が持つ唯一の遠距離攻撃だ。

 威力はさすがの一言だが、狙いが雑になりがちでどうにも当たりにくい。

 とはいえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので問題がない。

 予定通り、炎の斬撃が倉庫の天井を焼く。

 倉庫が燃えればどうなるか。答えは決まっている。

「ビンゴ」

「――そういうことか」

 璃紗が放った魔法の熱に反応したのだろう。

 倉庫の天井に仕掛けられていたスプリンクラーが作動し、屋内に雨が降る。

 それこそが璃紗が望んだものであった。

「っらァッ!」

 璃紗は腰を軸にして大鎌を横に薙ぐ。

 するとその軌跡を起点にして火炎が放射される。

 炎の波は倉庫内へと広がり、降り注いでいたスプリンクラーの水を一気に蒸発させた。

 水が蒸発すると水蒸気となる。

 そして――水蒸気は人の視界を塞ぐ。

 倉庫内に濃霧が蔓延し、その場にいる者すべてから視覚情報を奪い去る。

「あとは一発勝負ってわけだな」

 そう口にすると、璃紗は地を蹴った。


 ある意味、ギャラリーの能力解説回となりました。

 

☆裏設定

 5年前の璃紗は大鎌を上手く扱えず、得意な野球のバットに見たてて振るうことが多かった。そのため刃の部分をきちんと敵に当てられずに、序盤で出会った《怪画》の多くは柄の部分で撲殺されている。

 そんな雑な戦い方をするところも、当時の薫子と衝突が多かった原因の一つ。

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