表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
未踏章 もしもの世界
305/305

未踏章 4話 この世界は僕が守るから

・世良マリア Normal END『この世界は僕が守るから』


解放条件

・6章開始時点で世良マリアの親愛度が最大

・8章終了時点で女神マリアの親愛度が最大

・9章までに悠乃が女神化している

・最終決戦においてマリアに敗北


本編との差異

・9章開始時点で《正十字騎士団》が合流



ラスボス

――女神マリア

(世界を救った彼女が消滅するまでの間(3ターン)以内に倒せたのならHappy END『二人の女神』へとルート変更)


総評

・要約すると『悠乃を女神としての運命に巻き込まないため、マリアが女神続投を決意する』END。

 恋愛は成就しないためバッドエンドともいえるが、ハッピーエンドとされる『二人の女神』ルートでは悠乃も女神システムに組み込まれてしまうためハッピーエンドかは意見が分かれる。

 ちなみにマリアが味方として加入するのは彼女のルートだけであり、彼女の規格外のステータスを存分に発揮できるルートとなる。

 もう雪は降らない。

 春が来た。

 もう、あの日のような雪が見られるのはずっと先のことだろう。

「………………」

 悠乃はベッドから上半身を起こしたまま外を見る。

 世界はいつも通りに回っている。

 ただ、彼を置き去りにして。

「マリア……」

 世良マリアが消滅してからすでに3ヶ月経っている。

 しかし、悠乃はまだ気持ちの整理をつけられずにいた。

 そうして部屋に閉じこもり、止まり続けている。

 この部屋に世良マリアの痕跡はない。

 マリアが消えた時、彼女の私物も消滅してしまった。

 ――二人で撮ったはずの写真は、右半分がぽっかりと空いてしまっていた。

 世良マリアの存在を証明できるのはもはや記憶しかない。

 思い出の品を持つことさえ許されない。

「ぁ――」

 ケータイが震えた。

 そこに映し出されているのは『朱美璃沙』の文字。

 彼女だけではない。

 憔悴した悠乃を心配して、友人たちは毎日のように電話をかけてくれている。

 最近は《正十字騎士団》の面々さえまれに自宅を訪れるようになった。

 ――多くの人が、悠乃のことを想ってくれている。

「…………」

(頑張らないと、いけないんだよね……)

 応えなければならない。

 みんなのためにも、元気な姿を見せなければならない。

 分かっている。

 分かっているのだ。

「でも――無理だよ」

 体に力が入らない。

 気力が湧かない。

 いっそこのまま――そんな気分にさえなってくる。

「もう……立てないよ」

 笑顔なんて取り戻せそうにない。

 彼女がいなければ悠乃は――

「…………?」

 音が聞こえた。

 コンコンというガラスを叩く音だ。

 悠乃が顔を向けるとそこにいたのは――


「悠乃嬢。ちょっといいかな?」


「…………イワモン」

 かつての相棒であり、かつての――恋敵だった。



「なんというか……これは悔しいというべきなのだろうか」

 イワモンに連れられたのは公園だった。

 そこで彼が真っ先に口にしたのはそんな言葉だった。

「……悔しい?」

「ああ。少し違うかもしれないが、今の僕の感情に一番近い言葉だよ」

 イワモンはベンチに腰掛けた。

「世界を滅ぼしてでも救いたいと思った女性は、君を好きになってしまった」

 イワモンは世良マリアを愛している。

 だからこそ、世界が滅ぶ可能性さえも踏み越えてマリアを呼び寄せた。

 だが、彼女と最終的に結ばれたのは悠乃だった。

 ある意味、悠乃よりも早い段階でイワモンは失恋していたのだ。

「…………ごめんなさい」

 気が付くと、悠乃は謝っていた。

 そこに込められていたのは――後悔。

 マリアをこの世界につなぎとめられなかった己への不甲斐なさだ。

「僕は、マリアを守れなかった」

 彼女を呪いのような運命から救えなかった。

 

「それなのだよ」


「……?」

 イワモンの言葉の意味が分からない。

 だが、彼は待つことなく続きを話し始めた。

「僕が一番悔しいのはそこなんだ」


「女神の宿命を受け入れてしまうほどに、悠乃嬢が愛されていたという事実が悔しい」


「え……?」

「好きだからこそ一緒にいられない。一生会えなくても、好きな人を巻き込むくらいなら。その決意には、並々ならない覚悟が必要だっただろう」

 そもそも、マリアは女神の運命から逃れるために戦っていたのだ。

 それを諦め、終わらない地獄を生きるなど容易く選べる道ではない。

「でも、マリアは悠乃嬢のためならそれができた。悠乃嬢が生きる世界を守るためなら、地獄に堕ちる覚悟ができた」

 ――はたして僕は、そこまで彼女に思わせることができただろうか。

 イワモンはそうつぶやいた。

「共に地獄に堕ちることはできるかもしれない。だが、自分だけで地獄を背負うという覚悟をさせてしまうほど、僕はマリアに愛されることができただろうか。自信をもって肯定できないことが――悔しい」

 イワモンはそう笑う。

 泣きそうな表情で笑う。

「悠乃嬢。短い時間だったかもしれない。でも、君たちが育んだ愛は計り知れないほどに深かった。己の至らなさを痛感することこそあれ、羨む気にはなれないほどに」


「悠乃嬢。君は、これからの人生をどう生きる」


 イワモンはそう問いかけた。

 多分、それこそが今回悠乃を呼んだ理由だ。

 彼が、一番聞きたかったことなのだ。


「マリアがいない世界を受け入れるか――」


「それとも――拒絶するか」


 拒絶する。

 それは、イワモンがしたことの焼き直しだ。

 世界を危機に陥れ、女神を呼び寄せる。

 そして、マリアを女神システムから分離する。

 イワモンは選択を迫っている。

 このまま何事もなく生き続けるか、世界を壊してでも恋人を取り戻すか。


「それを選ぶ権利があるのは悠乃嬢だけだ。君が望むなら、僕も協力しよう」


 それは魅力的な提案だ。

 もう一度マリアに会えるかもしれない。

 そう思うだけで胸が疼く。

「イワモン……僕は」

 だけど、分かっていた。

 答えなら、決まっていた。

 だって蒼井悠乃は――


「僕は、このままの世界を生きていくよ」


 ――世良マリアを愛しているから。


「愛を、諦められるのかね?」

「それは違うよ」


「これが、僕がマリアに渡すことができる精一杯の愛なんだ」


 気が付くと、悠乃は微笑んでいた。

 もう一生取り戻せないと思っていた笑顔が、戻っていた。


「イワモン。僕はこの世界を守るよ」


 世界を守る。

 それは、言葉以上の意味がある。

 なぜなら――

「世界を君が守るということは、君は一生マリアに会えないということだと分かっているのかね」

「分かっているよ」

 世界の危機を悠乃が防ぎ続けるのなら、世界を救済する存在であるマリアは現れない。

 二人が再会する未来は――完膚なきまでに砕かれてしまう。


「僕は信じる。この世界を守ることで、マリアの苦しみを減らせるって」


「だから――マリアとは一生会えなくてもいい。それで、彼女の戦場を一つでも減らせるのなら」


「僕たちが会えないことこそが、二人が幸せな証明だって信じるよ」


 胸が痛い。

 平気なわけがない。

 それでも、無理に笑うと決めた。

 世良マリアを愛しているから。

 彼女に心配をかけたくないから。

 意地を張ると決めたのだ。

「なるほど――僕が勝てる相手じゃなかったか」

「え?」

「いや……。一生会えなくても、君たちの愛は本物だ。それを見せつけられただけだよ」

 イワモンは息を吐いた。

 そして、拳を悠乃に向かって突き出した。

「憎き恋敵め。僕にも協力させてくれ。選ばれないと分かっていても、僕はやっぱり彼女が好きなんだ」


「最愛の女性の幸せを守る役目。僕にも手伝わせてほしい」


「……うんっ」

(やっぱり、僕って駄目な奴だなぁ)

 ――笑うって決めたのに、もう涙が出てきてしまった。

 でも許してほしい。

 これは、悲しみの涙じゃないから。

 弱さから流れた涙ではないから。

 心強さから流れた涙だから。


「「僕たちは生きていこう」」


「「大好きな人の愛で包まれた、この世界を」」


 女神として覚醒したマリアとのルートとなります。

 悠乃自身もマリアを救うために戦うようになるため《正十字騎士団》との衝突がなくなり、本ルートのような三つ巴の戦いにはならず、魔法少女VS《怪画》という構図の最終章となります。


 お知らせ

 2020年12月4日より『転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル』の連載を開始いたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ