未踏章 4話 この世界は僕が守るから
・世良マリア Normal END『この世界は僕が守るから』
解放条件
・6章開始時点で世良マリアの親愛度が最大
・8章終了時点で女神マリアの親愛度が最大
・9章までに悠乃が女神化している
・最終決戦においてマリアに敗北
本編との差異
・9章開始時点で《正十字騎士団》が合流
ラスボス
――女神マリア
(世界を救った彼女が消滅するまでの間(3ターン)以内に倒せたのならHappy END『二人の女神』へとルート変更)
総評
・要約すると『悠乃を女神としての運命に巻き込まないため、マリアが女神続投を決意する』END。
恋愛は成就しないためバッドエンドともいえるが、ハッピーエンドとされる『二人の女神』ルートでは悠乃も女神システムに組み込まれてしまうためハッピーエンドかは意見が分かれる。
ちなみにマリアが味方として加入するのは彼女のルートだけであり、彼女の規格外のステータスを存分に発揮できるルートとなる。
もう雪は降らない。
春が来た。
もう、あの日のような雪が見られるのはずっと先のことだろう。
「………………」
悠乃はベッドから上半身を起こしたまま外を見る。
世界はいつも通りに回っている。
ただ、彼を置き去りにして。
「マリア……」
世良マリアが消滅してからすでに3ヶ月経っている。
しかし、悠乃はまだ気持ちの整理をつけられずにいた。
そうして部屋に閉じこもり、止まり続けている。
この部屋に世良マリアの痕跡はない。
マリアが消えた時、彼女の私物も消滅してしまった。
――二人で撮ったはずの写真は、右半分がぽっかりと空いてしまっていた。
世良マリアの存在を証明できるのはもはや記憶しかない。
思い出の品を持つことさえ許されない。
「ぁ――」
ケータイが震えた。
そこに映し出されているのは『朱美璃沙』の文字。
彼女だけではない。
憔悴した悠乃を心配して、友人たちは毎日のように電話をかけてくれている。
最近は《正十字騎士団》の面々さえまれに自宅を訪れるようになった。
――多くの人が、悠乃のことを想ってくれている。
「…………」
(頑張らないと、いけないんだよね……)
応えなければならない。
みんなのためにも、元気な姿を見せなければならない。
分かっている。
分かっているのだ。
「でも――無理だよ」
体に力が入らない。
気力が湧かない。
いっそこのまま――そんな気分にさえなってくる。
「もう……立てないよ」
笑顔なんて取り戻せそうにない。
彼女がいなければ悠乃は――
「…………?」
音が聞こえた。
コンコンというガラスを叩く音だ。
悠乃が顔を向けるとそこにいたのは――
「悠乃嬢。ちょっといいかな?」
「…………イワモン」
かつての相棒であり、かつての――恋敵だった。
☆
「なんというか……これは悔しいというべきなのだろうか」
イワモンに連れられたのは公園だった。
そこで彼が真っ先に口にしたのはそんな言葉だった。
「……悔しい?」
「ああ。少し違うかもしれないが、今の僕の感情に一番近い言葉だよ」
イワモンはベンチに腰掛けた。
「世界を滅ぼしてでも救いたいと思った女性は、君を好きになってしまった」
イワモンは世良マリアを愛している。
だからこそ、世界が滅ぶ可能性さえも踏み越えてマリアを呼び寄せた。
だが、彼女と最終的に結ばれたのは悠乃だった。
ある意味、悠乃よりも早い段階でイワモンは失恋していたのだ。
「…………ごめんなさい」
気が付くと、悠乃は謝っていた。
そこに込められていたのは――後悔。
マリアをこの世界につなぎとめられなかった己への不甲斐なさだ。
「僕は、マリアを守れなかった」
彼女を呪いのような運命から救えなかった。
「それなのだよ」
「……?」
イワモンの言葉の意味が分からない。
だが、彼は待つことなく続きを話し始めた。
「僕が一番悔しいのはそこなんだ」
「女神の宿命を受け入れてしまうほどに、悠乃嬢が愛されていたという事実が悔しい」
「え……?」
「好きだからこそ一緒にいられない。一生会えなくても、好きな人を巻き込むくらいなら。その決意には、並々ならない覚悟が必要だっただろう」
そもそも、マリアは女神の運命から逃れるために戦っていたのだ。
それを諦め、終わらない地獄を生きるなど容易く選べる道ではない。
「でも、マリアは悠乃嬢のためならそれができた。悠乃嬢が生きる世界を守るためなら、地獄に堕ちる覚悟ができた」
――はたして僕は、そこまで彼女に思わせることができただろうか。
イワモンはそうつぶやいた。
「共に地獄に堕ちることはできるかもしれない。だが、自分だけで地獄を背負うという覚悟をさせてしまうほど、僕はマリアに愛されることができただろうか。自信をもって肯定できないことが――悔しい」
イワモンはそう笑う。
泣きそうな表情で笑う。
「悠乃嬢。短い時間だったかもしれない。でも、君たちが育んだ愛は計り知れないほどに深かった。己の至らなさを痛感することこそあれ、羨む気にはなれないほどに」
「悠乃嬢。君は、これからの人生をどう生きる」
イワモンはそう問いかけた。
多分、それこそが今回悠乃を呼んだ理由だ。
彼が、一番聞きたかったことなのだ。
「マリアがいない世界を受け入れるか――」
「それとも――拒絶するか」
拒絶する。
それは、イワモンがしたことの焼き直しだ。
世界を危機に陥れ、女神を呼び寄せる。
そして、マリアを女神システムから分離する。
イワモンは選択を迫っている。
このまま何事もなく生き続けるか、世界を壊してでも恋人を取り戻すか。
「それを選ぶ権利があるのは悠乃嬢だけだ。君が望むなら、僕も協力しよう」
それは魅力的な提案だ。
もう一度マリアに会えるかもしれない。
そう思うだけで胸が疼く。
「イワモン……僕は」
だけど、分かっていた。
答えなら、決まっていた。
だって蒼井悠乃は――
「僕は、このままの世界を生きていくよ」
――世良マリアを愛しているから。
「愛を、諦められるのかね?」
「それは違うよ」
「これが、僕がマリアに渡すことができる精一杯の愛なんだ」
気が付くと、悠乃は微笑んでいた。
もう一生取り戻せないと思っていた笑顔が、戻っていた。
「イワモン。僕はこの世界を守るよ」
世界を守る。
それは、言葉以上の意味がある。
なぜなら――
「世界を君が守るということは、君は一生マリアに会えないということだと分かっているのかね」
「分かっているよ」
世界の危機を悠乃が防ぎ続けるのなら、世界を救済する存在であるマリアは現れない。
二人が再会する未来は――完膚なきまでに砕かれてしまう。
「僕は信じる。この世界を守ることで、マリアの苦しみを減らせるって」
「だから――マリアとは一生会えなくてもいい。それで、彼女の戦場を一つでも減らせるのなら」
「僕たちが会えないことこそが、二人が幸せな証明だって信じるよ」
胸が痛い。
平気なわけがない。
それでも、無理に笑うと決めた。
世良マリアを愛しているから。
彼女に心配をかけたくないから。
意地を張ると決めたのだ。
「なるほど――僕が勝てる相手じゃなかったか」
「え?」
「いや……。一生会えなくても、君たちの愛は本物だ。それを見せつけられただけだよ」
イワモンは息を吐いた。
そして、拳を悠乃に向かって突き出した。
「憎き恋敵め。僕にも協力させてくれ。選ばれないと分かっていても、僕はやっぱり彼女が好きなんだ」
「最愛の女性の幸せを守る役目。僕にも手伝わせてほしい」
「……うんっ」
(やっぱり、僕って駄目な奴だなぁ)
――笑うって決めたのに、もう涙が出てきてしまった。
でも許してほしい。
これは、悲しみの涙じゃないから。
弱さから流れた涙ではないから。
心強さから流れた涙だから。
「「僕たちは生きていこう」」
「「大好きな人の愛で包まれた、この世界を」」
女神として覚醒したマリアとのルートとなります。
悠乃自身もマリアを救うために戦うようになるため《正十字騎士団》との衝突がなくなり、本ルートのような三つ巴の戦いにはならず、魔法少女VS《怪画》という構図の最終章となります。
お知らせ
2020年12月4日より『転生したら赤髪ツインテールでした。しかもトップアイドル』の連載を開始いたしました。




