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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
未踏章 もしもの世界
304/305

未踏章 3話 からっぽのわたしを満たしてくれた人

※こちらはIFエンドとなります。


世良マリア Another END『からっぽのわたしを満たしてくれた人』


解放条件

・6章開始時点で世良マリアの親愛度が最大

・6章開始時点でイワモンの親愛度が80/100に到達

・上記の条件を満たしていると、6章においてラフガとの戦闘で敗北した際に現れる『まだ終わりじゃない』を選択。


本編との差異

・6章において悠乃の女神化イベントが発生

・マリアが女神としての記憶を取り戻さない

・6章終了時点でエンディングを迎える



ラスボス

――ラフガ・カリカチュア


総評

・女神悠乃とラフガの一騎打ちという作中屈指のルナティックルート。

 女神関連のイベントを省略するため、他のルートを知らないとわりと困惑する構成となっており、すでに他のルートを攻略していること前提の内容&難易度。

 ちなみにイワモンの親愛度が低いと、彼の妨害によってラフガを倒すことができずにマリアは女神の権能を取り戻してしまいアナザールートへの道は閉ざされてしまう。


「ぅわ……!」

 さわやかな風が吹く。

 そのたびに草木が揺れ、悠乃の髪を舞い上げる。

「それにしても、良かったの? せっかくのデートなのに」

 悠乃は髪を押さえながら、隣にいる少女へと問いかける。

 そこにいたのは、彼とシンクロしたように髪を押さえている世良マリアだった。

 ピンク色をした彼女の髪が風に流れる。

「……悠乃は嫌だった?」

「そういうわけじゃないけど……」

 二人がいるのは何もない野原だ。

 少し町から外れていることもあり人通りがほとんどない静かな空間。

 ここを教えてくれた薫子には感謝せねばならないだろう。

 ……ここを見つけた経緯は悲しいものがあったが。

「せっかくの休みなんだし、遊園地とか行きたいところがあったんじゃないかなぁ……と思って」

「悠乃と生きたい」

「ぉふ……。少し違う響きに聞こえたんですがマリアさん……?」

 悠乃は思わぬマリアの言葉にたじろいでしまう。

 恋人にそんな事を言われて動揺しない人間のほうが少ないだろう。

「ええっと……つまり、ここで良かったという解釈で問題ないのかなぁ?」

「……少し違う。ここが良かった」

 そう言うと、マリアは体育座りをした。

 彼女の視線はどこか遠くへと向いている。

 その姿は儚げで、気が付くとどこかへ消えてしまいそうだ。

 だから悠乃は、彼女の髪を撫でる。

 間違いなくここにマリアはいる。

 それを感じるために。

「結局、記憶は戻らなかったんだよね」

「……うん」

 マリアは頷いた。

 ――世良マリアは記憶喪失だ。

 悠乃たちは彼女の記憶を取り戻そうと奮闘した。

 だが今でも彼女の記憶は戻らない。

「魔王ラフガは何かを知っていそうだったけど……」

 ラフガ・カリカチュアが復活した時、彼はマリアを見て反応を示していた。

 おそらく彼はマリアについて何かを知っていたのだと思う。

 だが彼を討った今、それを聞くことは叶わない。

 マリアの記憶へと通じる手がかりはもうなかった。

「……あの時の悠乃は、格好良かった」

「……唐突に褒められると照れます」

 一方で、マリアは特に気にした様子もない。

 彼女の中では、もうそれほど記憶への執着はないのかもしれない。

「――――平和」

 マリアはそう呟いた。


「こんな景色を、ずっと待っていた気がする」


「……マリア?」

 マリアの目からは一筋の涙がこぼれていた。

 目にゴミが入っただなんてベタな展開ではない。

 ただ彼女の中にある何かが、彼女の心から涙として流れ落ちたのだ。

あれはもしかしたら、記憶を失う前のマリアの涙なのかもしれない。

「この景色が――運命の終着点」

 マリアはそう言った。

「わたしはこの景色にたどり着くためにさまよってきた。なんとなくだけど、そう思った」

 マリアは涙を拭う。

 そして澄んだ瞳で空を仰いだ。

「なにもないこんな世界にたどり着きたくて、ずっと旅をしてきた。そんな気がする」

 彼女の言葉の真意は分からない。

 もしかすると、彼女自身でさえ正確には分かっていないのかもしれない。

 ただ言えることは――

「マリアの運命の終着点かぁ。それが僕の隣であってくれたなら、これほど幸せなことはないよ」

 悠乃は笑う。

 いつか消えてしまいそうだったマリア。

 そんな彼女をこの世界に繋ぎ止められた。

 それは途轍もない奇跡なのではないか。

 そう思ってしまう。

 現実的に考えて、記憶が戻ろうともマリアはマリアのままだというのに。

「ありがとう。悠乃」

「?」

 マリアの顔が迫る。

 鼻と鼻が触れ合った。

 彼女の吐息が頬を撫でる。

「わたしは――からっぽだった」

 マリアはまっすぐに悠乃を見つめている。

「記憶も、目的もない。あるのは漠然とした――原因さえ分からない不安だけだった」

 少しだけ彼女が笑む。


「それを、貴方が満たしてくれた」


「見えない過去ばかり探していたわたしを変えてくれた。貴方との未来を見てみたいと思わせてくれた」


「だから、わたしはもう――――」



「夢……?」

 マリアはそう直感した。

 無限に広がる草原。

 そこに浮遊しているのは無数のシャボン玉。

 しかもその中では、異世界のような景色が広がっている。

 幻想的な世界。

 だからこそ、マリアはすぐにここが夢だと分かった。

 今日、悠乃と野原でデートしたばかりだ。

 だからこそこんな景色を夢に見たのだろうか。

「――――最果ての楽園」

(なんで、この場所の名前が分かるの……?)

 まるで知っているかのように、すっとそんな名前が浮かんだ。

 確信に近い。

 この空間はおそらく、最果ての楽園と呼ばれるものだ。

 ――その意味はマリアにも分からないが。

「あ……」

 マリアの前に光の球が現れた。

 極彩色の宝玉。

 オーロラを固めたような球体。

「これは――」

(これに触れたらわたしは――)

 分かる。

 これは――世良マリアの記憶だ。

 これに触れたのなら、彼女は記憶を取り戻せる。

 失われた過去を取り戻せる。

「呼ばれている。運命に――導かれている」

 衝動が湧き上がる。

 本能が語りかけてくる。

 ――触れろ、と。

 ――思い出せ、と。

「……分かった」

 マリアは手を伸ばす。

 夢の中だからか、意識が朦朧としている。

 勝手に体が動く。

 でも、不安になる必要なんてない。

 ――これが世良マリアの存在価値だから。

 世界の――がなくなったら消え――が役目――――。

「…………!」

 ――少年の顔が浮かんだ。

 大切で、愛しい少年が見えた。

 彼は不安そうな表情でマリアを見ている。

 その瞬間――彼女の体に自由が戻った。

 頭を満たしていた霧が消える。


「運命に導いてもらう必要なんてもうない」


「わたしを導いてくれる人は――もういるから」


 マリアは手を引いた。

 あれに触れたら、確かに記憶は戻るだろう。

 だが、同時にマリアは戻れなくなる。

 そう直感したから。

「だからもう――この過去はいらない」

 さっきまであんなに魅力的だった光の球は、今では色あせている。

 彼女を惑わしていた幻影が消えていく。

 ――あれ? 触らないんだね。

「触らない。過去を取り戻したら、全てを失う気がした」

 ――そうかもね☆

 お気楽な声が聞こえる。

(これは……わたしの声?)

 随分と喋り方は違う。

 だがその声は間違いなくマリアのものだった。

 つまり、話しかけてきているのは――本来の世良マリア。


 ――ならもう、あたしと貴女はもう別人だね。


「……うん。もうわたしは世良マリア。過去を持たない世良マリア」

 どこか寂しそうな声に、マリアはそう宣言した。

 笑い声が聞こえた。

 ただの笑い声じゃない。

 嬉しそうで――涙が混じった笑い声。


 ――ずるいなぁ。同じあたしなのに。


 そう言いつつも、彼女の声に悪感情は見えなかった。

 そこにあったのは憧憬、羨望。


 ――幸せになってね。もしかしたらの世界のあたし。


「さようなら。世良マリアじゃないわたし」

 世良マリアという名前ではない、本来の自分に別れを告げる。

 ――あはは……。あたしの名前だって……まあいいか。

 なぜか彼女は苦笑していた。


「それじゃあ、さようなら」

 ――さようなら。すべてを忘れたあたし。


 夢から覚めてゆく。

 なんとなくマリアには分かっていた。

 

 自分がこの世界を訪れることは、もうないだろう。


 彼女が生きるべき世界は、もう決めているから。

 マリアが女神として覚醒せずに本編を終える特殊エンドです。

 本来『女神を必要とせずに世界が救われた』場合は、素体マリアは記憶を取り戻し、女神マリアと同化します。そうして、周囲の人からも忘れさられて消える――というシステムとなっています。

 しかしこのルートに入ると、素体マリアの存在が完全に女神マリアと分裂し、一人の人間として生きています。


 ――活動報告にて、新連載についての情報をあげています。

 連載開始予定日は12月4日となっていますが、あらすじなどを書いているのでよければご確認ください。

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