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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
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最終章 END 明日への鼓動

 これにて悠乃たちの物語はお終いです。

「えっと――」

 悠乃は口にすべき言葉に迷っていた。

 彼がいるのは自室。

 そして彼の前には恋人である朱美璃紗がいた。

 ――変身した姿で。

 それも、

「なんで……《花嫁戦形(Mariage)》してるの?」

 悠乃の前には、マーメイドドレスを纏う璃紗がいた。

 彼女は鏡の前で自分の姿を凝視している。

「いや……、よく考えたらこの状態の姿って落ち着いて見たことねーなと思ってさ」

「使うのは戦ってるときだしね」

 《花嫁戦形》は魔法少女にとっての最終奥義。

 決して日常生活で披露するようなものではない。

 常在戦場――とまではいかないが、いつ敵が現れるか分からない以上、意味もなく消耗が激しい《花嫁戦形》になることはこれまでなかった。

 とはいえ、もう戦うべき敵も、救うべき世界もない。

「ほら。一応、アタシも女だしな? まー、こういうのを着た姿を――」

 そこまで言って、璃紗は口を閉ざす。

 彼女の反応の意味が分からず悠乃は首を傾げた。

 一方で璃紗は少し神妙な表情で――

「悠乃も着てみるか?」

「なんでぇぇ!?」



「これはおかしいよ……」

 悠乃はそう漏らす。

 彼もかつて世界を救った魔法少女だ。《花嫁戦形》を会得している。

 だが、不本意ながらも花嫁衣装を纏う際は『彼』ではなく『彼女』だったのだ。

 そして今、ここにいるのは間違いなく『彼』であり――

「これじゃ本格的に変態の汚名をかぶることになっちゃうよ……」

 精神はともかくとして、《花嫁戦形》をした悠乃は見た目だけで言うのなら花嫁衣装を纏う少女だ。

 そこに大きな矛盾はない。

 だが変身していない彼がそれを着るというのは大問題だ。

 そう主張すべきなのだろうが。

「もう脱いだ後だし、タイムアップだろ」

 そう反論するのは、すでに花嫁衣裳を脱いだ璃紗だった。

 ドレスを胸元で抱えているおかげで肌面積は比較的抑えられているが、恋人が見せる裸体に悠乃の動きはぎこちなくなる。

 魔法少女と衣裳。

 ある意味で一括りにされる関係。

 とはいえ決して切れない関係というわけではない。

 変身をしてしまえば強制的に衣装を着用することになる。

 だが一方で、その後に衣装を脱ぎ去ることは可能だ。

 それを利用し、璃紗は悠乃にドレスを着せようというのだ。

「もうやめようよぉ」

「悔しいけどさー。男のままでも、悠乃のほうが嫁感ありそうなんだよなー」

「僕も別の意味で悔しいです……」

 言い換えてしまえば、女でも璃紗のほうが夫に見えるということなのだから。

 少なくとも悠乃に嫁願望はない。

「ともかく、脱がせといて待ったはないだ――ろっ」

 そう言うと、璃紗が悠乃に覆いかぶさった。

 魔法少女と人間。

 その力の差は歴然だった。

(璃紗の着替えを止めなかった僕の馬鹿ぁ……!)

 そう内心で後悔するも、たとえ時が戻ったとして彼女を止めることはできなかっただろうと理解していた。

 いくら少女じみた容姿をしていても、悠乃の心は男の子であるのだから。

 もっともその代償は、男子の尊厳を粉砕するものだったのだが。



「自分から言い出しといてあれだけどさ……」

 璃紗が頭を掻く。

 原因は分かっている。

 

「なんつーか…………予想以上?」


「お、お褒めに預かり光栄です………………ぁぅ」

 悠乃はベッドの上で正座をしていた。

 彼が纏うのはウエディングドレス。

 残念ながら筋肉がつかない体質なので、体のラインが浮き彫りになるマーメイドドレスをもってしても男性を感じさせない。

 璃紗の双丘を基準としたサイズ感のため余った胸元は安全ピンで調整されている。

 認めたくはないが、そこにいるのは花嫁だった。

 性別上の事情により胸はない。

 だがその本来であれば、男性である事を思い出させる致命的な要素でさえも「貧乳なのだな」で流せてしまうくらいに他の要素が少女的であった。

 これも認めたくはないが、露出している肌でさえ男性を感じさせない。

 それどころかきめ細かく白い肌はむしろ――

「写真撮りたくなってきたな」

「そんなことしたら、璃紗も撮るからね?」

「…………」

 悠乃の反撃に、璃紗は少し押された。

 今の璃紗は、悠乃の部屋にあった服を適当に着ている。

 ――彼女の腕で潰れたメロンがちらついたのでは理性が長くもたないことなど分かりきっていたからだ。

 とはいえ一難去ってまた一難。

 全ての問題が解決したというわけでもないのだが。

 悠乃がドレスの胸元を余らせていたのなら、逆もまたしかり。

 息が苦しそうなほどに張った胸元は、洋服というよりも拘束衣に近かった。

 もはや服を着た意義を見失いそうなほどの大参事がそこにはあった。

 あれは見続けてはイケナイものだ。

(ちょっと温かい……)

 悠乃はドレスに残る璃紗の体温を感じた。

 それが、先程までこの花嫁衣裳を彼女が着ていたことの証明なのだと感じ――赤面した。

 さすがにこの考えは変態チックだ。

「まあでも」

 璃紗の顔が近づいてくる。


「いくら似合ってても――()()()()()()()()()()()()()()()


 そう笑う璃紗。

「それって……」

 悠乃は聞き返す。

 花嫁衣裳を着る機会。

 それは本来――

「まー……まだ先の話だけどな?」

 自分で言っておいて照れ臭くなったのか、璃紗は頭を掻いて横を向く。

 その頬は赤い。

「…………ふふ。そうだね」

 そんな彼女を見ていると、つい悠乃は笑ってしまった。

「そうなると良いなぁ」


 悠乃たちは未来の話をする。

 不確定な未来の話を。

 今日や明日ではない。

 何年も先の未来の話を。

 それができるくらいには――――この世界は平和だった。

 ここで一旦『もう一度世界を救うなんて無理』は完結といたします。

 以前に語っていたIFエンドにつきましては、またいつか追加していきたいと思っています。

 一応、冬頃には新連載を始めるつもりなので、機会があればよろしくお願いいたします。

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