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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
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最終章 エピローグ8 さよならまたいつか

 玲央編のエピローグです。

 桜が舞う。

 春の世界を蒼井悠乃は歩いていた。

 一歩一歩を踏みしめ、彼は校門を目指していた。

 悠乃は校舎を振り返ると、小さく微笑んだ。

 今日は終業式。

 来月には、悠乃も受験生となる。

 なにより――

「――――色々なことがあった一年だったなぁ」

 この一年間は激闘というほかない。

 かつて倒したはずの《残党軍》に始まり、女神システムをめぐる戦いへと発展した。

 一生分戦ったと思っていたのに、まさか再び一年も戦うことになるとは思わなかった。

「――――――よっ」

 感傷に浸る悠乃へと男が声をかけてくる。

 校門に背中を預けた少年。

 見覚えのある彼の姿は――


「玲央……」


 悠乃の前にいたのは彼の大切な元クラスメイト――加賀玲央だった。

 すでに彼は学校を辞めており、ここに通ってはいない。

 だから、彼と再会したのはあの戦争以来だ。

「どうしたの? 学校に戻りたくなった?」

「いや? 悠乃に会いに来ただけだ」

「むぅ」

 照れもせずに恥ずかしいことを言う玲央。

 むしろ悠乃のほうが反応してしまう。

「しばらく――5年くらいはこの町を離れようと思ってな。最後に、やっぱ悠乃の顔見とかねぇとなぁってわけだ」

「……どんなわけ?」

 悠乃が半眼で玲央を見つめる。

 一方で、玲央は顎に手を当て悠乃の姿を観察している。


「それにしても――もう魔法少女にはなれないんだな」


 そう彼は言った。

 どこか寂しそうで、どこか嬉しそうな。

 複雑な感情を込めた表情で。

「うん。もう僕は、魔法少女にはなれないよ」

 天美リリスとの決戦。

 その際に、悠乃は『魔法少女としての素質』そのものを奪われた。

 だから、いくらクリスタルを与えられても悠乃は魔法少女になれない。

 適性のレベルで魔法少女となる資格を失ったのだから。

「やっぱ……悠乃には戦うための姿なんて似合わねぇよな――ウエディングドレスは似合ってたけどよ」

「……最後の必要だった?」

「普通なら美少女の姿が見れなくなって血の涙を流すところだけど、悠乃に限ってその心配はないからなぁ」

「……ど、どういう意味かなぁ?」

 少なくとも、悠乃が少女の姿になる未来は一生訪れないはずなのだが。

「……って、この町を出るの? しかも、5年だなんて妙に具体的だし」

 悠乃はふと気になったことを尋ねた。

 すでに玲央を縛る社会的なつながりはない。

 母はすでに他界している。父は――殺した。

 学校にだってもう彼の席はない。

 まっさらな状態。

 放浪するという選択もある意味で彼らしいが――

「5年ってのはまあ……リミットだな。探してやらねぇといけない奴がいるんだよ」

「……そうなの?」

「まぁな」

 玲央は意味深に笑う。

 彼はあの戦争中に起こった出来事を話さない。

 飄々とした態度で悠乃の言葉を躱していく。

(でも玲央。これでも僕は、君の友達なんだよ?)

 だから、彼が考えていることも――大体の想像がつく。

 他の面々から聞いた話で、おおよその推測はできる。

「――()()、だもんね」

「さすがにバレるか」

 玲央は苦笑した。

 キリエ・カリカチュア。

 魔王ラフガの娘であり、玲央の妹にあたる彼女。

 その動向はいまだに分からない。

 彼女は闇に紛れ、足取りを掴ませない。

 玲央は己の手で、彼女を見つけ出そうとしているのだろう。

 5年というのもきっと、彼女が行動を起こすまでのリミット。

 だから玲央は人間としての柵を捨て、妹を探すのだ。

 妹を探すため、深い闇に踏み出してゆくのだ。

「なんだか、探してばっかりだね」

 悠乃は微笑んだ。

 父を探し、今度は妹を探す。

 思えば、加賀玲央の人生は探し人と縁がある。

「――ああ。探して、取りこぼしてばっかりだ」

 自嘲する玲央。

 彼の瞳は遠くを見つめていた。

「そういう意味で、悠乃はやっぱり特別だな」

「は、は、はぁ……!?」

 玲央が口にした言葉に悠乃は動揺する。

 それは聞きようによってはかなり危ない台詞に思えたからだ。

「手からこぼれたはずなのに、またこうして話せるんだからな」

 敵対したはずの二人。

 だというのに、なぜか憎めなくて、今でも気負いなく話せる仲のまま。

 確かに、玲央の言う通り特別なのかもしれない。

「だから――今度もまた会える」

 そう言うと、玲央は悠乃と向き合った。

「もう行っちゃうの?」

「ああ。名残惜しくなっちまう前にな」

「名残惜しくなっても良いんだよ?」

「……惚れさせる気かよ」

 玲央が背を向ける。

 彼は今から旅に出るのだろう。

 神出鬼没な彼のことだ。

 会えるのはずっと先のことだ。

 そう。

 ずっと先。ずっと先に――必ず再会できる。

「玲央……!」

 悠乃は離れる背中を呼び止める。

 そして――

「…………!」

 拳を突き出した。

 それが意味するところは、玲央も理解しているだろう。

 事実、彼は微笑むと悠乃へと向き直った。

 そのまま、玲央も拳を出す。

 近づいた二人の拳が軽くぶつかり合った。


「「さよなら親友」」


「「――――またいつか」」

 エピローグも残すところあと2話です。


 それでは次回は『王の胎動』です。

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