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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
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最終章 エピローグ3 黒猫の帰る場所

 寧々子サイドのエピローグです。

「アンタは! いっつも無茶しすぎなのよッ!」

 とある居酒屋で小柄の女性――有川大河の声が響いた。

 もっとも、女性というのは年齢的な意味であり、容姿としては中学生にギリギリ見えるといった程度なのだが。

 ちなみに厳密にいえば、上限が中学生ということであり、彼女が高校生に見えることはない。

「ぅう……」

 大河に責められ、寧々子は口元を尖らせる。

 自分を案じての言葉となれば言い返すこともできない。

「寧々子ぉ~~」

 そんな寧々子の肩を掴む少女――犬飼アリサ。

 彼女が大号泣しながら寧々子に縋りついている。

「こんなイタズラじゃ笑えないよぉ~~……!」

「ご、ごめんってぇ……」

 イタズラっぽい笑顔を浮かべるアリサはそこにはいない。

 親友である彼女を泣かせてしまったのは自分なのだ。

 そう寧々子は己を戒める。

「『とり』あえず、羽『鳥』は寧々子の蘇生に乾杯」

 一方で、端の席に座っていた黒髪の美女――羽鳥翔子はマイペースに酒を楽しんでいる。

 そんな彼女を見ていると自然に笑えてくる。

「いつもの、つまんないダジャレを聞いてると帰って来たにゃあって気がする」

 ――ちなみに、彼女のギャグが面白かったから笑ったわけでは断じてない。

「…………!」

「なに無言で驚いてるのよ……。アンタのシャレがつまらないのは昔からじゃないの」

 瞠目する翔子。

 そんな彼女を横目に、大河はビールを一気に飲む。

「『大河』の言い分に物申し『たいが』?」

「翔子ちゃん……ごめんね。笑うにはまだアルコールが足りてないよ」

 繰り返されるダジャレに、アリサは苦笑してチビリとチューハイを舐める。

「…………!」

「だからなんで無言で驚いてるのよ……」

(ああ。ダメだ……)

「にゃはははは……!」

 馬鹿笑いをする寧々子。

 こんな場所で見せるべきではない。

 そう分かっていても、涙がこぼれ始めていた。

「ちょっと……なんで泣いてるのよ?」

「ううん。ただ……本当に帰ってきたにゃぁって思ったら……ね?」

 寧々子は涙を拭う。

 みんなのいる場所。

 自分が帰るべき場所。

 一度は帰れないと諦めたこの場所に戻ることができた。

 そんな夢のような現実を、やっと実感できたのだ。

 寧々子の様子を見て、アリサたちは顔を見合わせる。

 ポカンとした表情。

 そして、それはイタズラっ子の笑みに変わる。

「えへへ……そんなに喜んでくれたなら」


「イタズラ成功☆」「イタズラ成功ってわけね」


「イタ……イタズ……? ……ぁぅ」

「ダジャレが思いつかなかったなら普通に喋りなさいよっ……!」

 一人乗り遅れた翔子の脇腹を大河が小突く。


「……そういえば、なんでみんなアタシがやってたこと知ってたの?」

 寧々子はこれまで気になっていたことを尋ねた。

 女神マリアを巡る戦い。

 それについて彼女は仲間に一言も話していない。

 余計な心配をかけるだけと思っていたから。

 だけどどういうわけか。

 寧々子が友人と再会した時には、すでに友人は寧々子の事情を知っていた。

 ――寧々子が一度死んでしまっていたことも含めて。

「…………謝りに来た奴がいたのよ」

「へ?」

 大河の言葉に寧々子は首をかしげる。

「えっと……金龍寺薫子ちゃん……だったかな? 自分のせいで寧々子が死んじゃった……って」

「あのイワモンとかいう魔法生物がアタシたちのことを教えていたらしいのよね。ったく……個人情報とか大丈夫なの?」

「貴女の『過』ちじゃないから『謝』らなくて良い。そう言ったけど」

(薫子ちゃんらしいにゃぁ……)

 寧々子もビールを一口飲む。

 そういう責任を負いすぎるところは薫子らしい。

 だからこそ、あそこで薫子を遺して死んでしまったことは彼女を傷つけてしまったのだと自省する。

「その上、『償いはする』だの『絶対に生き返らせる』なんて言い出すから、そっちのほうが心配だったわよ」

 大河は深くため息を吐いた。

 確かに、薫子は寧々子の死をきっかけに女神化へと邁進し、寧々子の蘇生を実現する可能性のある《女神戦形(メシアライズ)》へと手を伸ばした。

 だから大河たちの危惧は間違っていなかったのだ。

「ま、全部丸く収まったって言うなら良いんだけど」

「全部……かぁ」

 今回の戦いは、その規模に反して異常ともいえる被害の少なさだった。

 だが、何も失わなかったわけではない。

 良い変化もあったが、手からこぼれてしまったものもあった。

 生きていればそれは当然のことで、当然と割り切れないことでもあった。

「てい……!」

「うにゃ……!?」

 アリサに目を塞がれた。

 視界がゼロになり、寧々子は困惑する。

「後ろにいるの誰でしょ~~?」

「いやぁ……」

 さすがに小学生からの親友の声を聞き間違えるほど酔っていない。

「アリサでしょ?」

「えへへへへへ……」


「正解は――知らないおじさんでしたぁ☆」


「なんでにゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 寧々子の背後にいたのは中年男性だった。

 思わず寧々子は飛びあがる。

 そう。アリサは言っていた。

 背後にいるのは誰なのか、と。

 目を塞いだのが誰かとは聞いていない。

「イタズラ成功☆」

 アリサがぺろりと舌を出してウインクする。

「おじ『さん』は退『散』。ありがと『さん』」

 ちなみに、男性を連れてきたのは翔子だった。

 わりと雑な扱いだが、男性のほうはまんざらでもなさそうだ。

 羽鳥翔子といえば、今やそれなりに人気の美人モデルだ。

 そんな彼女が腕に抱き着いて引っ張るのだ。

 男性として悪い気などしないだろう。

 もっとも、すぐに彼は元の席に押し返されていたのだが。

 ――いたずらのために翻弄された男性に合掌。

「もうメチャクチャにゃん……」

 そう言いつつも、寧々子の口元は微笑んでいた。


 時系列としては、エピローグ1~3は1月、エピローグ4~5は本編以前、エピローグ6~は3月くらいの予定です。


 それでは次回は『大魔』です。

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