表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
291/305

最終章 78話 散華

 天魔血戦はこれにて終了です。

「ぁ…………」

 リリスが目を覚ました。

 だが彼女はアスファルトに横たわったまま動かない。

 彼女の瞳に宿る光はひどく淡い。

 だからこそ分かってしまう。

 ――天美リリスはここで命尽きるのだと。

 そんな彼女を悠乃は身下ろす。

 いや。彼だけではない。

 いつのまにかリリスの周りには皆が集まっていた。

 魔法少女も《怪画(カリカチュア)》も関係なく。

 この大いなる戦いに関わった者たちが並んでいる。

 そんな中で、一人が一歩踏み出した。

「……リリス先輩」

 それは雲母だった。

 彼女はリリスに歩み寄ると、その場で膝をつく。

「言わないといけないこと、まだ言えてなかった」

 雲母はリリスを覗き込む。

 すでに意識が薄らいでいるのか、リリスはわずかに目を動かすだけだった。

 彼女から湧き上がっていた狂気はすでに見る影もない。

 そこに倒れていたのは、一人の少女だった。


「――ありがとう」


 雲母が口にしたのは感謝の言葉だった。

「リリス先輩が、わたしを殺すって言ってくれたから。今のわたしがここにいる」

 雲母は微笑む。

 今の彼女だから見せられる最高の笑顔を。

「リリス先輩の言葉があったから、わたしはあの部屋から出られた。だから――ありがとう……ございました」

 雲母は頭を深く下げる。

 垂れた髪がリリスの頬を撫でる。

「――――――」

 リリスが何かを言った。

 そして彼女は手を伸ばし――雲母の頬を撫でる。

 その仕草は普段の彼女からは想像もつかないほどに優しい。

 壊れてしまわないように。

 そんな想いを感じる。

「とう……か……」

 灯花。

 そうリリスは口にした。

 おそらく誰かの名前なのだろう。

 呟く彼女の表情が――これほど愛おしげなのだから。

 そしてそれが彼女の最期の言葉だった。

「ぁ……」

 リリスの手から力が抜け、地面に落ちた。

 すでに彼女の目に光はない。

 虚ろな目はただ空を見つめている。

 彼女は逝ってしまったのだ。

 この場にいる全員がそれを理解した。

「これは……」

 悠乃は思わず声を漏らした。

 リリスの体が発光し始めたのだ。

「呼ばれたんだよ。新しい世界に」

 悠乃の疑問に答えたのはマリア。

「彼女は、滅びに瀕した世界を救うために呼ばれたんだよ」

「これが――」

 これこそが女神の使命なのだ。

 この世界を守るシステムの姿なのだ。

 リリスの体が光の粒子となる。

 指先から彼女の体が消えてゆく。

 女神は死体さえ残さない。

 この世に痕跡を残すことなく、次の世界を守るために旅立ってゆく。

「これで……終わりなんだね」

「――ああ」

「そうですね」

 悠乃の言葉に、璃紗と薫子が頷く。

 天へと昇ってゆく光の雪。

 それを仰ぎながら。

 町に深く刻まれた戦争の傷跡。

 建物は崩壊し、荒れ果てている。

 だけど――悠乃たちは生きていた。


「帰ろう。一緒に」


 世界の根幹を担うシステムを中心とした戦争。

 神さえも当事者になる戦争。

 その中で蒼井悠乃は世界を救えなかった。

 世界を救ったのは一人の少女。

 罪深く、狂っていて、本能のままに生きた少女。

 その過程で多くの人を絶望に陥れ――幾人かの心を救った気まぐれな少女。

 蒼井悠乃が守ったのは世界ではない。

 世界救うなどという偉業は荷が重い。無理だった。

 だが、必死な彼の歩みは――大切な人たちを守れた。

 そんなお話だ。

 そしてそれで満足だ。

 蒼井悠乃が世界を救う物語なら、とうの昔に完結していたのだから。

 次回から物語全体のエピローグ編となります。

 

 それでは次回は『あれからこれから』です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ