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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
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最終章 74話 たとえ無理だとしても

 二代目女神の能力が猛威を振るいます。

「んぁぁあああ~~~~~~~」

 リリスは大きく伸びをする。

 彼女の頬は紅潮しており、恍惚とした表情を浮かべている。

 白い肌に純黒のドレスのコントラスト。

 ゆるく捻られた腰が描く曲線は怪しげな色香を感じさせる。

 破滅的な妖艶さを纏い、滅びの女神は朽ちかけた翼を広げる。

「アタシは不適格の女神」

 リリスは語る。

「道理を曲げた女神だからこそ、その存在は致命的なエラーとバグに蝕まれテル」

 チラリ。

 リリスの体にノイズが走った。

 適性を持たない彼女だからこそ、女神としての存在に完全には馴染めていないのだろう。

 だからそのズレがノイズとなって現れている。

「だからアタシの魔法は致命的に間違ってイル」


「アタシの魔法は、世界を滅ぼす魔法」


「救済の女神はバグによってその性質を反転させ、滅びの魔法を手にしたってワケ」

 リリスは微笑む。

 思わず魅入ってしまいそうなほど扇情的に。

 混沌とした深淵へと人間を引きこんでゆく。

「きひはっ……見せてアゲル」


「――――世界が滅ぶ瞬間を」


「《Evvを蝕mm・死w(サイレントテンペス)告gelm神m(ト・メシアライズ)》」


 ――世界に悲鳴が響き渡った。

 男性の。女性の。子供の。

 痛苦の声がこだまする。

「な……なにっ……!?」

 あまりにも脈絡のない現象に悠乃は困惑する。

 声の主らしき人物はいない。

 この空間に聞こえる声が誰のものかどころか、どこから聞こえてくるのかさえ分からない。

「これは神様の悲鳴なんだヨ?」

「神様……?」

 突拍子のない言葉に悠乃は眉を寄せる。

「そう。この世界には何人もの神がいるんだヨネ。そしてこれは、そんな神様の悲鳴なんだヨ」

 リリスは歪に揺れながら笑う。


「アタシの《女神戦形(メシアライズ)》は人間に効かない」


「アタシの《女神戦形》は()()()()()()()()


「神を殺し、権能を奪う」


「それがアタシの《女神戦形》」


 リリスの指が悠乃たちを示す。

 悠乃たちは警戒心を高めて身構える。

 だがリリスはいつも通りに――

「天体の権能を簒奪。CODE:『重力』」


「『重力の方向を上方へと』再定義」


「「「!?」」」

 悠乃たちの体が宙に浮いた。

 否――落ちている。

 天に向かって落ちている。

「まず――!」

 天に落ちる。

 天変地異というべき異常。

 だが問題はそれだけではない。

 足場のない宙に放られては無防備?

 そんな些細な問題ではない。

 ――ここはリリスのウイルスで作られた戦場。

 透明のウイルスで形作られた闘技場だ。

 もしもその天井に落ちてしまえば――死ぬ。

「みんな僕に掴まって!」

 悠乃の声に従い、璃紗と薫子は彼女の衣装を掴む。

 そして悠乃は氷を伸ばし、己の腕と地面を固定した。

 これで重力に対抗できる。


「『重力を現在の10倍』と再定義」


「ぁ……ぁぁっ……!?」

 重力が増してゆく。

 それに伴い固定していた悠乃の腕が悲鳴をあげる。

 肘の関節が外れ、皮が伸びる。

 このままでは腕が千切れるのは時間の問題だ。

 激痛に悠乃は顔を歪めた。

「『重力の反転』を爆破する! 『重力の増大』を爆破する!」

 薫子は叫ぶ。

 すると世界の歴史からエラーが取り除かれた。

 重力の向きが、大きさが正常に戻る。

 《書き変わる涙(アメイジングブレス)のわけ・叛(・リベリオン)逆の禁書書庫(・アポカリプス)》。

 それは金龍寺薫子が持つ《女神戦形》。

 彼女は世界に刻まれた歴史を破壊したのだ。

 リリスが世界改変を行ったという歴史を。

 そうして世界は元通りになった。

「らぁっ!」

 重力に従って地面に落ちるよりも早く璃紗は大鎌を投擲した。

 大鎌はブーメランのようにリリスめがけて飛来する。

「……!」

 リリスはサイドステップで大鎌を躱す。

 大鎌はそのまま大きく弧を描きながら璃紗の手元へと戻った。

「身体能力の低さはそのままみてーだな」

「女神化もあくまで魔法少女の延長線上にある進化です。魔法少女としての方向性が大きく変わることはないのでしょうね」

 薫子の言う通りなのだろう。

 天美リリスは固有魔法に多くのリソースを割いた魔法少女。

 女神化したことで固有魔法は世界改変という規格外な進化を遂げた。

 一方で、身体能力が低いという側面はそのまま残っているのだ。

「……わたくしたちの誰か一人でも、あの世界改変を越えて近づけたのなら――勝てます」

 薫子はリリスを見据えている。

 彼女の表情に楽観はない。

 当然だ。

 リリスは世界を改変する。

 この世界の住人であるという前提がある以上、悠乃たちは常に彼女の魔法の支配下にある。

 そんな彼女に抗うということは、文字通り神への叛逆に等しい。

「生物の権能を簒奪。CODE:『人体』」


「『酸素は人体に有害』と再定義」


 瞬間、悠乃たちの呼吸が止まった。

 いや、息は吸っている。

 だが呼吸のたびに眩暈が酷くなる。

 悠乃たちはたまらずその場で胃の中身をぶちまけた。

 吐瀉物には血が混じっている。

 ――まるで毒物でも摂取したかのように。

 胸が痛い。

 酸素が毒物であるのなら、一番に影響を受けるのは肺だ。

 咳のたびに血が跳ねる。

「――くぁ……!」

 薫子が魔典を手にする。

 しかし喉が爛れ、肺が腐った状態では言葉を発することができない。

 ――それはつまり、改変するべき過去を指定できないということ。

 彼女の魔法が不発となれば、世界改変から逃れる術がない。

「――がぁッ!」

 その事態に、璃紗が炎を放つ。

 悠乃たちを包むように灼熱のドームを生み出す。

 それは内部の酸素を急速に消費していった。

「『酸素が有する有毒性』を…………爆破するっ……!」

 体を蝕む痛みがわずかに引いた瞬間。

 そのタイミングを逃すことなく、薫子は最後の力を振り絞った。

 再び世界が修復される。

「はぁ……危な……かった」

 悠乃は肩で息をしながら立ち上がる。

 世界改変に対し薫子の魔法はカウンター的な関係にある。

 しかしそれでも悠乃たちは短時間とはいえ改変した世界にさらされる。

 そのたび、彼女たちの体にはダメージが蓄積していく。

 だがリリスは手を緩めない。

「天体の権能を簒奪。CODE:『宇宙』」


「『巨大彗星の軌道』を再定義」


 ――町が影に飲み込まれた。

 天が巨大な何かに遮られ、光が届かなくなる。

 唐突に訪れる夜のような世界。

 その原因は――

「……マジか?」

「あれは……」

 璃紗と薫子は茫然と天を仰ぐ。

 そしてそれは悠乃も同じだった。

「嘘……あんなの……どうすれば良いの…………?」

 世界を闇に沈めた存在の正体。

 それは――


 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 リリスの《女神戦形》はウイルスといってもコンピュータウイルスに近い存在です。

 世界というシステムにバグを発生させる魔法であり、世界改変というべき能力です。


 それでは次回は『少女たちは流れ星に祈らない』です。

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