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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
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最終章 73話 もう一度世界を救うために

 ラストバトルです。

「《酔い病みの世界》」


 リリスの声が世界に響く。

 すると悠乃たちの周囲が歪み始めた。

 景色が歪曲し、不明瞭になる。

「空間が歪んでる……?」

「いえ……あれは透明なウイルスです」

 悠乃の言葉に、薫子がそう言った。

 ほとんど透明なウイルス。

 しかし、空気と比べてほんのわずかに光の屈折率が異なるためウイルス越しに見る景色が歪んでいるのだ。

「これで加勢はもう来ないカラ」

 ウイルスがドーム状の戦場を作る。

 これは結界だ。

 触れた者を殺す、死の結界。

 ――この場にいるのは悠乃、璃紗、薫子、リリスの4人。

 この4人が、世界の命運を握っているのだ。

「つーかウイルスなら、焼けばいいだけだろ?」

 璃紗は炎を透明なウイルスに向けて放つ。

 それほどの熱量を込めているわけではないが、ウイルスを焼き払うには充分な火力。

 それが結界に触れると――掻き消された。

「アハ……! その結界はアタシのウイルス全部が混じりあったものなんだヨネ。魔力は一瞬で分解されるし、触れたら感染者を起点に数百人は死ヌ。最後は塵になってジ・エンドォだカラ」

 リリスは笑う。

 璃紗の炎に対し一瞬も動揺を見せなかった。

 ウイルスが焼き払われることがないという絶対の自信があったのだろう。

「つまり、この三人で決着をつけるしかないってわけか……」

 相手は女神。

 それも、女神システムの管理者権限を手にした女神だ。

 同じ女神化をした魔法少女とはいえ、悠乃とはレベルが違う。

 数の暴力でなんとかマリアを倒した。

 そんな彼女と同じ位階に達したリリスを三人で倒せるのか。

「どーしたんだよ悠乃」

「わたくしたちだけでは不安ですか?」

 璃紗と薫子が悠乃の隣に踏み出した。

 三人は横一列に並んで女神と対峙する。

 懐かしい光景だ。

 五年前の三人。

 紆余曲折の困難を経て、悠乃たちは再び集った。

「まさか――」

 悠乃は微笑んだ。

「こんな頼りになる味方がいて、負けるわけないよね」

 

「行こう!」

「おう――!」「はいっ!」

 悠乃たちは駆けだした。

 完全無欠のハッピーエンドのために。



「……リリス先輩」

 透明な結界を見つめ、雲母は呟いた。

 突如として現れた死に体のリリス。

 彼女は止める間もなく女神へと至り、悠乃たちと戦っている。

 ウイルスに囲まれた戦場は雲母たちに傍観しか許さない。

 観客である事を強制する。

「見守るしか……できそうにないにゃん」

 雲母の傍らで寧々子はそう口にした。

 すでに魔力による攻撃を試したが徒労に終わった。

 直接突入すれば死ぬのは目に見えている。

 仮に物理的な衝撃でウイルスを散らしても一瞬で修復される。

 侵入不可能な戦場だ。

 見えるのに、手を出すことが許されない。

「アタシのほうも駄目ね……ゲートを開こうにも、結界に遮断されて道がつながらないわ」

 ギャラリーも首を横に振る。

 彼女の能力は空間転移。

 しかし移動先にゲートを開くということは、終着点までルートをつなげることが必要だということ。

 結界によって魔力を遮断されているため、結界内部にゲートを開けないのだろう。

「魔力を分解するウイルスってことは、俺自身が幻影になっても無意味ってわけか」

 玲央は結界の中を見つめている。

 そこで戦う少女たちの姿を目に焼き付けている。

「どうなるんスかね?」

「わからないですけどぉ。どうしようもないなら、見てるしかなくないですかぁ?」

 メディウムの疑問にアッサンブラージュは答えともいえない答えを返す。

「そうですね。すでにあれは、あの場にいる者だけの戦いです。割って入るのも無粋というものでしょう。……興味もありませんし」

 シズルはナイフを指先でなぞる。

 ナイフは形を変え、消えるように彼女の肌と同化する。

 すでに彼女は戦闘体勢を解いていた。

「――興味スか? 二代目女神とか、シズル先輩好きそうじゃないスか」

「……殺し愛は、何の柵もなく、純粋なエゴで戦うから愉しいのですよ」

「?」

「端的にいうと、正しい結末が用意された戦いは、私の趣味ではありません」

「正しい結末?」

 ギャラリーが疑問を漏らした。

 そんな彼女に答えを示したのはエレナだった。

「――救われぬじゃろう?」

 エレナは悲しげに瞳を伏せる。

 その目は悠乃たちを捉えている。

 この戦場から目を逸らしてはいけない。

 そう思っているかのように。

「もしも悠乃たちが負けたのなら……救われぬではないか」


「悠乃も、妾たちも――」


「――新しい女神()も」



「……!」

 悠乃は首を傾ける。

 リリスの掌が彼女の顔の真横を通り抜けた。

 そのまま彼女の指先は悠乃の髪に触れ――

「ッ!」

 黒く変色する青髪。

 悠乃は反射的にそれを斬り落とす。

 もしも判断が遅れていれば、黒の侵蝕は頭部に及んでいただろう。

 そうなればもう手遅れだ。

「はぁ!」

 悠乃は氷剣を振るう。

 しかし、一瞬だけ早く回避行動に入っていたリリスはそれを躱す。

 リリスはそのままバックステップで間合いを取った。

「オラァ!」

 リリスの背後で璃紗が大鎌を振りかぶる。

 そのまま横薙ぎに一閃。

「あはっ……!」

 だがそれもリリスを呼んでいた。

 彼女はその場で跳び、斬撃の上へと逃れた。

 それどころか眼下を通過する大鎌の柄を掴み――

「っぐ……!」

 璃紗が大鎌を振り抜いたタイミングに合わせ、リリスは璃紗の肩に飛び移る。

 そのまま彼女は璃紗の頭を太腿で挟み込んだ。

 そして腰の捻りから生み出される回転で璃紗の首を――

「させませんから」

 薫子の跳び蹴りがリリスに炸裂する。

 リリスもガードを間に合わせるも、二人には身体能力の違いがある。

 順当な力の差によってリリスの体が吹き飛ぶ。

 リリスは地面を転がりつつも、そのまま体勢を立て直して立ち上がる。

「なんつーか……妙だな」

 璃紗はそんなことを口にした。

 妙。

 それは悠乃たちも抱いていた疑問だ。

「確かに、女神化しているのに代わり映えしませんね」

「うん……これまで通りすぎて逆に不気味なくらい」

 そう。変わらないのだ。

 リリスは確実に女神化している。

 目には幾何学模様。

 歪に輝く翼。

 悪魔的な艶めかしさを感じさせる扇情的なドレス。

 どちらかといえば邪神にも思える姿だが、彼女が魔法少女の領域を飛び越えたのは間違いない。

 なのに、変わらない。

 戦闘スタイルも。

 固有魔法も。

 変化が見えないのだ。

「――そんなに見たいワケ?」

 リリスは狂気的に笑う。

 彼女の禍々しい魔力が増大する。

「きひはっ……見せてアゲル」

 

「――――()()()()()()()()

 次回はリリスの《花嫁戦形》を披露できます。

 

 それでは次回は『たとえ無理だとしても』です。

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