表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
282/305

最終章 69話 Deicide6

 VSマリア終結です。

「はああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 悠乃の拳がマリアの顔面に炸裂した。

 それだけでは終わらせない。

 彼女の背中から雪嵐が渦となり噴き出す。

 竜巻は翼のように彼女の体を押し出す。

 悠乃の体が加速し、拳に力が乗る。

 その威力を前に、マリアは押されて地面を滑ってゆく。

 だが――

「ぃ……ぐぁ……!」

 痛みに呻きながらもマリアは悠乃の手首を掴む。

 悠乃を見るその眼光はこれまでにない鬼気としたものが宿っていた。

 今、ここにいるのは女神マリアではない。

 世良マリアは蒼井悠乃を見ている。

 倒すべき敵として。

「女神システムにアクセス……! 検索ワード――『美珠倫世』。管理者権限行使っ……! インストールっ」

 悠乃には意味を理解しかねる言葉。

 だがマリアが持つ威圧感が膨張してゆく。


「CODE:《貴族の(ノーブルアリア・グ)決闘(ローリア)》っ!」


 瞬間、世界が隔てられた。

 透明の結界がドーム状に広がる。

 その結界内にいた人物は、悠乃とマリアを除いて排除される。

 決闘に不要とみなされた外野は結界の外へと強制転移された。

 《貴族の決闘》

 それは美珠倫世のMariageだ。

 その能力は決闘の強制。

 この決闘で敗北すると、敗北者が属している陣営の全員が死ぬ。

 一対多において数の不利を解消する魔法。

 この場において、嵌まりすぎるほどに嵌まる魔法だった。

「あたしはあらゆる魔法を持つ女神。この世界にいる魔法少女は、あたしから与えられた魔法を行使する」


「だから、すべてのMariageもあたしのもの」


 全ての魔法少女の原点。

 ゆえに、彼女に行使できない魔法はない。

「悠乃お姉ちゃん。一対一の決闘で全部決めちゃおうか」

 マリアは光剣を構える。

 神々しい光の炎で構成された十字剣。

 女神が持つにふさわしい業物だった。

「分かった。みんながここまでつないでくれたんだ。最後は僕の手で――未来を掴む」

 悠乃は両手で氷剣を握る。

 氷剣と氷銃を両手に持つのが本来のスタイル。

 だが、今回は一本の剣にすべてを注ぐ。

 ほんの少しでも注意が散れば、そのまま負けると分かっているから。

「「――――――――――」」

 二人だけの戦場で見つめ合う。

 言葉はない。

 だがこの瞬間、二人の心は一つだった。

 相手の考えが分かる。自分の考えが読まれている。

 ジリジリと間合いを調節する。

 柄を握る力の変化でさえも読み合いの要素。

 そしてついに――


「「はぁぁっ!」」

 

 二人が動いた。

 氷剣と光剣がぶつかる。

(やっぱり鍔迫り合いはダメだ……!)

 たった一度の衝突で氷剣にヒビが入った。

 悠乃は手首を返して光剣を逸らし、なんとか氷剣が折られるのを防いだ。

 マリアと比べれば、悠乃の魔力は劣っている。

 だから、正面からぶつけ合えば悠乃の剣が折られる。

 それを考慮しつつ、二人の斬り合いは続く。

「っく……!」

「ひゃ……!」

 光剣が悠乃の頬を焼いた。

 氷剣がマリアの胸元を掠めた。

 互いが互いの間合いの中で踊る。

 バラバラに見えて、気味が悪いほどに噛み合った動き。

 予定調和のように攻撃を躱し、死合いが続いてゆく。

 二人は最善手を読み合い、選んでゆく。

 破綻なく紡がれてゆく戦いは流麗な演舞にも思える。

 だが、人間とはミスをする生き物だ。

 完璧は続かない。

 瑕を引かれる瞬間は必ず訪れる。

「ぃ……!」

 光剣が悠乃の肩を掠めた。

 対して、氷剣はマリアに当たっていない。

 ほんの1センチにも満たない違い。

 だが確実に、悠乃は最善手を外した。

「《象牙色の悪魔(アイボリー・ラプラス)》は勝利のための最善手を出し続ける。いくら出力が落ちているといっても、悠乃お姉ちゃん一人で崩せるものじゃないよっ」

「っぐ……!」

 悠乃は後退しながらもすべての斬撃をいなす。

 だがさっきまでのように攻勢には移れない。

 流れを奪われつつある。

「でも――! その魔法、負担も大きいんだよね……! 使い続けて……いつまで……! もつかな……!」

 連撃を防ぎながらも悠乃はそう言った。

 少しでもこの舌戦がマリアの動揺を誘うことを信じて。

「そうっ……だね! この魔法――使いすぎると脳味噌が壊れて死んじゃうから……気をつけなきゃなんだよねっ……!」

 脳。

 ある意味では、女神でさえも克服できない急所だ。

 魔法少女は常人を圧倒する身体能力や肉体強度を持つ。

 だが、脳の性能は向上しない。

 魔法少女になったからといって思考能力が上がったりはしない。

 つまり、《象牙色の悪魔》を使うための演算能力も人間時代と変わらないということ。

 魔力を消費するだけなら、女神の力で無尽蔵に使えるだろう。

 しかし、女神でさえどうにもならない脳を行使するからこそ、限界を越えた《象牙色の悪魔》の使用はマリアでもできない。

「脳が壊れるまで……あと5分ってところかな……!」


「つまり――――超余裕☆」


「ぁぐぅっ……!?」

 光剣がついに悠乃の太腿を貫いた。

 分厚い刃が肉に刺し込まれる。

 体の中で肉が、骨が、神経が焼かれる。

 その激痛を前にして――

「捕まえたっ……!」

 ――悠乃は一瞬も揺らがない。

 むしろ左手でマリアの手首を掴む。

 そして残る右手で氷剣を振るう。

 氷の刃はそのままマリアの首を――

「せやぁっ」

 マリアが二本目の光剣で氷剣を受け止めた。

 光剣は魔力で作ったもの。

 増やそうと思えば、いつでも増やせるのだ。

「はい☆おしま~い」

 刃が合わさる。

 砕けたのは――氷剣だった。

 折れた氷が宙を回る。

「剣も折れちゃったし、あたしの勝ち☆」

「――勘違い、しないでよね」

 だが、悠乃の胸から希望は消えない。

「僕はすぐに折れる」

 彼女の口元には笑みが浮かんでいた。

「でも――何度でも立ち上がるんだっ!」

 そんな自分を好きだと言ってくれた人がいた。

 だから、曲がっても良い。折れても良い。

 だが――諦めない。

 歯を食いしばって、何度でも立ち上がる。

 何度でも――刃を突き立てる。

「はぁぁっ!」

 折れた氷剣から氷が伸びる。

 それは一瞬で刃となり、折れた氷剣を再構築した。

 氷。その原点は水分。

 それは大気中に多く存在する。

 なぜならこの戦場には――()()()()()()()()()

 親友が生み出した現実に匹敵する幻影が降り注いでいる。

 それを材料にして、悠乃は氷剣を修復した。

 あらかじめ材料があったため普段以上の速さで氷剣が再構築される。

 そうして伸びた刃は――

「ぁぐっ……!」

 マリアの右肩を裂いた。

 噴き上がる血飛沫。

 鎖骨の上を刃が滑り、マリアの右腕を殺した。

 腕につながる筋肉を断たれてしまえば、女神といえども腕を動かせない。

 治療の隙など与えない。

「はぁぁぁぁぁっ!」

 悠乃は斬撃の勢いを殺さずその場で一回転する。

 そしてもう一度――最後の一斬を放つ。

「あ、ああああああああああああああああああああ!」

 追い込まれた一瞬。

 一手のミスで死んでもおかしくない戦場にマリアの雄叫びが響く。

 今の彼女は女神ではない。

 悠乃と同じただの魔法少女。

 天上から見下ろす存在などではない。

 マリアは本能をむき出しにして左腕を掲げた。


「『斬る』という過程を――」


 因果跳躍。

 女神の権能をマリアは行使する。

 しかし――


「遅い」


 悠乃は――時を止めた。

 色のない停滞した世界。

「君の魔法は未来を掴む魔法」

 すでに消耗しきった体。

 止められるのは一秒にも満たない刹那。

 だが、それが世界の行く先を決めた。


「だから僕は――()、君を倒す」


 悠乃の氷剣がマリアを斬り伏せた。


 ここでマリアとの戦いは終わります。

 そして次回からは、悠乃たちが完全無欠のハッピーエンドを手に入れるための話です。


 それでは次回は『潰えた夢の跡』です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ