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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
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最終章 66話 Deicide3

 戦いは続きます。

(みんなが隙を作ってくれたんだ――)


(最高のタイミングで――)


「《大紅蓮二輪目――》」


(最高の一撃を――!)


「――《紅蓮葬送華》っっ!」


 運命に抗う一手。

 この場にいるすべての者の想いを乗せ、氷刃が放たれ――



 ――()()()


「…………ぇ?」


 悠乃の口から間の抜けた声が漏れた。

 突き出された氷剣。

 それは――半ばで折れていた。

 練り上げ、精錬されていた魔力は放たれることはなかった。

 唐突な出来事。

 悠乃は氷剣を突き出した姿勢のまま困惑していた。

(な、何が――)

 何が起きたのか分からない。

 脳内はパニック寸前だ。

 悠乃の攻撃が不発に終わった。

 目論見を打ち砕かれ、全員が動きを止める。

 誰も一言さえ発さず、静寂が戦場を支配する。

「あは☆」

 マリアが笑う。

「ごめんね? あんまり遅いから――」


「『氷剣を折る』過程を飛び越えちゃった」


 マリアの手には――折れた氷剣が握られていた。

 因果跳躍。

 彼女は悠乃が攻撃を放つ直前に、氷剣を折るという結末を掴み取ったのだ。

 結果として、悠乃の魔法は出だしを潰された。

「そん――な……」

 今のは悠乃にできる最高の一撃だった。

 生涯最高といえる攻撃。

 それは逆にいえば――


 ――これで決まらなければ敗北しかないと確信してしまう一撃だった。


「悠乃お姉ちゃん」

 マリアが歩み寄ってくる。

 笑顔を浮かべて。

 天真爛漫な彼女の姿が、今は恐ろしい。

「最後まで希望を失ったら駄目だよ☆」

 マリアが希望を説く。

 背中に絶望を引き連れて。

「悠乃お姉ちゃんは、希望を振りまく魔法少女なんだから」

 マリアはついに悠乃の前に立った。

 だが動けない。

 それほど、悠乃が受けた精神的ダメージは大きかった。

「ほら。笑顔、笑顔っ」

 マリアが悠乃の手首を掴む。

 力を込められていない。

 まるで撫でるような動き。

 なのに、悠乃の手から氷剣が滑り落ちた。

 彼女の手にはもう、力がこもってなどいなかったのだ。

「えいっ」

「ぅぅッ……!?」

 純粋な魔力の衝撃が悠乃を襲う。

 彼女の体は容易く吹き飛ばされ、ビルに突っ込んだ。

 ガレキに埋まりかける悠乃。

 彼女は崩落した建物の上で手足を投げ出す。

 そんな彼女の上で黄緑の火花が散った。

 一瞬の光の後、空中にマリアが現れる。

 彼女はそのまま重力に従い、悠乃の腹に馬乗りになった。

「悠乃お姉ちゃんは、大切な仲間のために戦う魔法少女なんだから諦めちゃダメだよ?」

 マリアの手が伸びてくる。

「どんなに痛くて、苦しくても」

 彼女の指が、悠乃の唇の両端に触れた。


「戦いの途中で、絶対に勝てないって分かっちゃっても」


 ――ほら、笑顔笑顔~☆

 マリアの指が悠乃の口角を持ち上げる。

 無理矢理に笑顔を作り上げ、マリアは笑う。

 だが、そうやって押し付けられた笑顔は酷く引きつっていた。

 世界を救う女神。

 それは敵対する者にとって、魔神をも越える絶望だ。

「仕方ないなぁ」

 マリアは困ったように眉をハの字にする。

「なら見せてあげちゃおうかなぁ?」


「あたしの――本気の姿を」


 マリアの言葉。

 同時に、彼女の魔力が跳ね上がる。

 圧倒的な敵。

 そんな認識さえ誤りだったと気づかされる。

 悠乃たちは――マリアの敵になどなれていなかった。


「《象牙色の悪魔(アイボリー・ラプラス)》」


 マリアの光翼が増えてゆく。

 その数は――12枚。

 頭上に光輪が創造される。

 幾何学の瞳は一際強い光を放つ。

 その姿はまるで天使。

 悠乃たち人間とは、次元を異にする存在だ。

「《象牙色の悪魔》。違う世界でALICEと呼ばれた魔法少女が持つ最強の魔法。その力は未来演算。この世に存在するすべての要素から運命の公式を導き出し、望む未来に至るための代入値を逆算する魔法」

 マリアは悠乃の顎を持ち上げる。

「この魔法は、あたしが持つ最強の魔法。強力過ぎて、あたしが唯一持ち主以上の出力を引き出せない魔法」

 そう言うと、マリアは満開の笑みを浮かべる。

「ほら、これがあたしの全力だよ☆ これ以上、あたしが強くなることはないんだよ☆ よ~しっ! 今のあたしに勝てたら、悠乃お姉ちゃんには明るい未来が待っているよぉ☆ 諦めないで頑張って☆」

「ぁ……」

 なんと白々しい言葉だろうか。

 これ以上強くならない?

 それがどうしたのだろうか。

 手の届かない差が、見えないほどの差に広がった。

 それの何に希望を抱けというのか。

「あは……は――」

 悠乃の口から空笑いが漏れる。

 どうにもならない。

 絶望的な隔たりを前にすると、もはや笑えてくる。

 死ぬ気で越えてきた困難の結末が、こんな悪趣味な絶望。

 涙さえ出ない。

「うん、うん。やっと笑ってくれたね☆」

 マリアは頷く。

「やっぱり悠乃お姉ちゃんには笑顔が似合うねっ」


「よく考えたら、別に薫お姉ちゃんにこだわらなくても良かったんだよね?」


 マリアの目が細められる。

 ――蒼井悠乃は女神適正者だ。

 つまり――

「悠乃お姉ちゃん――」


「――あたしを助けて?」


「悠乃ッ!」

 そこに割り込んだのは璃紗だ。

 彼女は大鎌を横に薙ぐ。

 その軌道はマリアの首を狙っている。

「させません!」

 薫子の爆弾がマリアの頭上に投げ込まれる。

 二人だけではない。

 この場にいる全員が、マリアの命を狙って殺到する。

 四方八方を囲まれたマリア。

 魔法少女に《怪画(カリカチュア)》。

 異種族が手を取り合い、神に抗う。

 だが――


「《色のない楽園(セピア・ユートピア)》」


 ――神にとっては些事だ。

 マリアの声。

 彼女の魔力が全方位に解放される。

 暴力的な魔力の衝撃波。

 それは女神の叛逆者を呑み込み――


 ――ねじ伏せた。

 余談ですが《象牙色の悪魔》は次回作の主人公の能力にしようと思っている魔法です。

 簡単にいえば『鑑定』『脳のリミッター解除』『思考加速』『千里眼』『未来予知』あたりを一つにまとめた能力です。


 それでは次回は『Deicide4』です。

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