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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
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最終章 56話 運命の綻び

 玲央VSキリエです。

「ちっ……万全じゃねぇってのによ」

 玲央は舌打ちをして跳びあがる。

 彼の眼下を鎌の触手が薙ぎ払った。

 たったそれだけで、彼の背後にあった建物が消滅する。

 もしもあの鎌が掠ったのなら、玲央も同じ運命をたどるだろう。

「とはいえ、万全でも勝ち目無かったなこりゃ」

 玲央は己に全霊で憎悪を向けている少女を見た。

 玲央は逃げ回るばかりで、距離を詰めることさえできていない。

 攻撃など夢のまた夢だ。

「ガード不可の即死全体攻撃とかクソゲーじゃねぇか……」

 絶対切断、縁切り。そしてあの手数。

 一つでも強力過ぎるそれは相乗効果によって手が付けられない脅威となる。

 玲央の能力が回避に優れたものでなければ、この数分間で何十回死んだだろうか。

 さらにいえば、キリエが本気だったならすでに玲央は死んでいたはずだ。

 いくら現実を幻術にできても、攻撃の波に呑まれて消えていた。

 今の玲央が死んでいないのは、キリエが遊んでいるからだ。

 油断しているのではない。

 全力で、本気で遊んでいる。

 弄び、玲央がすべてを後悔するように嬲り殺しにしているのだ。

 そのためにすべてを注いでいる。

 一瞬での消滅だけでは溜飲が下がらない。

 そう言わんばかりに。

「そこのところどう思うよキリエ。さすがにそのクソチートはゲームバランスぶっ壊れてねぇか? ゲーム経験ないから分からないとか言わせねぇぞ」

「悪いけどさァ。別に、お前と格ゲーしてるわけじゃねぇンだよ」

 キリエは憎悪の眼差しを向けてくる。

「いうなれば、これはアドベンチャーゲームだよ。それも選択肢もルート分岐もなしの奴だ」

「……なるほど、ね」

 玲央は小さく笑う。

 肌で感じる。

 キリエの殺意を。

「それならさしづめ、縁切りはグロ指定で18禁にならないための配慮ってか?」

「それはお前の浅慮だよ」


「消す前に、ぐちゃぐちゃのハンバーグにしてやるンだからさッ!」


「――そりゃあハードすぎるぜ」

 玲央は跳んで鎌を躱す。

 だが、複数の触手が玲央を狙っている。

「ま……完全に自業自得だけどだな」

 躱す。躱す。躱す。

 そして次の一手で――


「そうして順当に、死ぬべき屑が死ぬってわけだ」


 ――玲央の命運が尽きる。

 どうシミュレートしても、次の攻撃を躱せるビジョンが見えない。

 最後の最後まで抗った。

 それでも覆せなかった。

 一縷の突破口さえ見えずにエンディングを迎えた。

 私情で父を殺した兄が、父を愛していた妹に殺される。

 そんな順当なエンド。

 登場人物が迷ってばかりのピエロだったわりには、綺麗にまとまった復讐譚だ。

 勧善懲悪というにはクセの強い妹だが、それでも死に役が似合うのは兄だろう。

「「ジ・エンドだ」」

 二人の見る未来が一致した。

 そのまま鎌の軍勢が玲央を貫き――

「ッ、ッ!?」

 鎌の動きが制御を失い、玲央を避けてゆく。

 その原因はおそらく――玲央の身にも起きている異変だ。

 すさまじい脱力感。

 それによりキリエの攻撃は本来の狙いを大きく外したのだ。

「ぎでッ……!」

 突然の感覚のせいで玲央は着地に失敗し、頭を強打した。

「なンだッてンだよッ――!」

 玲央と同じ異変がキリエにも起きているのだろう。

 彼女もその場で動かず、追撃に移らない。

(この状況――!)

 見えた。

 ほんのわずかな光明が。

「こンなことでさァ――」


「アタシの怒りが消えるわけねぇンだよッ!」


 戦いを阻む衰弱感。

 それをキリエは蹴り払う。

 身を焼くほどの憎悪だけで。

 体を襲う変調を直す魔法などない。

 見えない攻撃を防ぐ魔法などない。

 あったのは――限りない憎しみ。

 それが、キリエが踏み出すための力となる。

 いくら肉体が衰えても、精神が膝を折ることを許さないのだ。

 追撃が玲央を襲う。

 刃の波が作りだす影が玲央の足元に迫る。

 それでも彼は笑い――

「――神経掌握」

 自身に幻覚をかけた。

 五感操作は彼の領域。

 神経を掌握し、自分の意志で手足に指示を出す。

 魔法に蝕まれて動かない体を、幻術で無理矢理に操ったのだ。

 そうして玲央は万全に近い動きで攻撃を躱す。

 一方でキリエの攻撃は鈍い。

 当然だ。

 精神が肉体を凌駕したことでキリエは戦えているだけ。

 確実にパフォーマンスには陰りが見えていた。

 それによって生まれた攻撃の隙間へと玲央は身を滑り込ませる。

 彼の行動に対するキリエの反応が数瞬遅い。

「一つ忘れてたぜ」

 サーベルによる刺突がキリエの頬を裂く。


「悪役は、初戦で主人公を倒してヘイト稼ぐもんだろ?」


 憎しみに狂った魔神と、半端者の道化。

 天地ほどに隔たった両者の差。

 それを埋めたのは、誰のものかも分からない横槍だった。


 小デバフ状態の玲央VS超デバフ状態のキリエとなります。

 他の戦いはウイルスで形勢逆転するところが多かったのですが、ここはウイルスがあって初めて対等になる戦場です。

 ちなみに、リリスの『一般人一万人虐殺事件』は彼女のMariageによってなされたものであり、前回紹介した『暴食』のウイルスを使用していたらすでに登場人物全員が塵になって死んでいます。


 それでは次回は『聖女を穢す澱』です。

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