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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
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最終章 53話 聖女は女神に至れるか

 戦いは新たな局面を迎えます。

「テッサ。私――決めたわ」

 倫世は空を仰ぐ。

 さっきまで衝突していた重苦しい魔力はもう感じられない。

 あの魔力はおそらく薫子。

 女神化によって力を増した彼女の力がわずかに衰えたのを感じる。

 最初よりも強いが、ピークに比べると一段落ちる能力。

 だからこそ、倫世は察していた。

 ――金龍寺薫子は女神システムの管理者権限を放棄した。

 世良マリアが権限を剥奪することはありえない。

 だから、薫子は自分の意志で権能を捨てた。

 人間として生きたい。

 薫子は、人間として生きる決意をしたということ。

(だから今度は、私が決断する時)


「私――――女神になるわ」


 美珠倫世は――()()()()()()()()()()()()()()()

「最初から、こうするべきだったのよ」

 倫世はそうつぶやいた。

「本来なら、逃げるべきじゃなかったのよね」

 倫世はテッサを見つめる。

 一年前。

 美珠倫世の下にテッサからのメッセージが届いた。

 女神システムについてのこと。

 そして、女神を救うために戦ってほしいということ。

 女神の在り方に同情を覚えた。

 テッサに頼られて嬉しかった。

 倫世が協力を決めるのに時間は必要なかった。

 ――だが、それは倫世が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 イワモンと合流し、女神適正者を探すことになった。

 女神適正者。

 それは魔法少女の素質を持つ中でもさらに希少な存在。

 捜索は困難になると思われた。

 しかし、その結末はあまりに肩透かしなものとなる。

 適正者はすぐに見つかった。


 一人目の女神適正者は――美珠倫世だった。


 最強と呼ばれた魔法少女は、神となる権利を有していた。

 倫世の目的が想定外の速度で達成された。

 その時、倫世は――恐怖した。

 怖かった。恐れたのだ。

「私は女神について軽く考えていたのよ。だから、自分に女神適性があると知った時――女神を救うために犠牲になるのが『自分』だと知った時――体が震えた」

 倫世はそう心の内を吐き出した。

 テッサは彼女の独白を黙したまま聞いている。

「女神を助けたい。そう思えたのは、犠牲になるのは自分じゃないと思っていたから。他人事だと思っていたから、無責任に女神を救うなんて言えたの」

 そんなつもりはなかった。

 だが、結果から考えるに、無意識にでもそんな心が根底にあったのは否定できない。

「だから私は――《逆十字魔女団》を作った」


「《逆十字魔女団》は女神適正者を探すための組織じゃない」


「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 最初の構想には《逆十字魔女団》を組織することはなかった。

 しかし一人目の女神適正者である倫世が女神となることを拒否したため、女神適正者を探す人員の補充が必要になった。

 《逆十字魔女団》は、女神になりたくない倫世が、他の人間に重荷を押し付けるために作られたのだ。

「一人目の女神適正者はすぐに見つかったのに……。私は逃げた。だから二人目の適正者が必要になって――《逆十字魔女団》は作られた」

 だから《逆十字魔女団》は倫世にとって弱さの象徴。

 心の弱さから、他人に犠牲を求めた証。

「《逆十字魔女団》が作られたことで、戦いの規模は大きくなった。この戦場の引き金を引いたのは――私だった」

 後悔。

 あの日、恐怖に負けたという後悔。

「――くだらんな」

 そんな倫世の言葉を、テッサは鼻で笑う。

「元より、お前はあくまで戦力として選ばれたのだ。適正者であったのは偶然でしかない。無論、偶然に頼った計画など私は立てない」

 テッサは倫世の前を歩く。

「そもそも、内容が内容だ。適正者に断られる可能性も考慮しているし、お前に適正者としての期待はしていない。お前は戦力として最低限の働きをした。それだけで、私の計画は破綻なく進んだ」

 テッサが振り向く。

「つまり、お前の後悔や罪悪感は無駄の極みだ」

 彼はメガネを押し上げる。

「それを前提とした上で聞くが、決意に変わりはないか? やめるなら、他の人間に言いふらす前にしておけ。やめるというのなら――聞かなかったことにするくらいの手間はかけてやる」

 そんなテッサの言葉。

 戻れるのはここまで。

 ここから踏み出すのなら、決意を曲げることは許されない。

 そんな最終ラインをテッサは示したのだ。

「ええ。変わらないわ。私は女神になる」

 あのまま薫子を見捨てたのなら、絶対に後悔する。

 自分の代わりに死地へと向かわせてしまえば、その決断を一生悔いることになる。

 だから倫世は踏み出した。

「そうか。勝手にしろ。別に、誰が女神になっても…………私は構わん」

「――ありがとう」

 きっとあれは、テッサなりの激励。

 彼は、素直に誰かを褒めるような性格ではないから。

 無関心にも思えるこの言葉が、彼なりの優しさ。

 本人は認めないのだろうけれど。


「ふーん。結局、そういう結論になったワケ」


 声が聞こえた。

 倫世が声の方向を向くと、そこには天美リリスがいた。

 彼女は壁に身を預け、倫世を見つめていた。

 天美リリス。

 《逆十字魔女団》の初期メンバー。

 美珠倫世が女神適正者であることを知っている者。

「リリスさん……」

 彼女は知っている。

 《逆十字魔女団》が作られた理由。

 美珠倫世の脆さを。

 そして、それを知った上で《逆十字魔女団》に身を置いた少女。

 戦う理由も不明瞭な、不透明な少女。

「リリスさん」

 倫世はリリスと向かいあう。

「お願いがあるの」

 一人で戦ってきた倫世にとってもっとも付き合いの長い魔法少女。

 そんなリリスに、彼女は助けを求めた。

「手伝ってほしいの」

 おそらくマリアはすぐにでも薫子を女神に据えるために動く。

 その前に、倫世はマリアに会わねばならない。

 そうして女神システムの管理者権限を譲渡されたのならすべてが解決する。

 だからリリスに助力を求めた。

 ここからマリアの居場所は遠い。

 敵と会わずにマリアのいるところにたどり着くのは難しい。

 だからリリスに同行を要請した。

 確実にマリアのいる場所に到達するために。

「――覚悟を決めたって感じだネ」

 リリスは微笑む。

 そして――


「やぁ~だ」


 拒絶を叩きつける。

 彼女の口元が三日月を描く。

 混沌の視線が、倫世を射抜く。

 

「だって――」


「――今日で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 リリスの狂気が、臨界点を突破した。


 倫世VSリリス

 玲央VSキリエ

 璃紗VSイワモン

 美月、春陽、雲母VS魔造少女

 これらが最終局面直前の戦いとなります。


 それでは次回は『感染する狂気』です。

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