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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
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最終章 52話 復讐の燭台は憎悪の業火に焼かれ

 最近、投稿の待機画面のまま放置して忘れることが増えている気が……。

 執筆と同時並行でやっているのが駄目なのでしょうか――。

「……急がねぇとな」

 玲央はつぶやいた。

 ラフガを殺した後、負傷していた彼は死を覚悟した眠りについていた。

 しかし気付けば傷は癒え、万全には程遠いものの動けるようになっていた。

 そうなれば、玲央が悠乃たちの居場所を目指すのは当然のことだった。

(この戦争は、ラフガを殺しても終わらねぇ)

 むしろ逆だ。

 この戦争は、ここからが泥沼だ。

 戦争は始めるよりも、広げるよりも、終わらせることのほうがはるかに難しい。

 ラフガとマリア。

 圧倒的戦力を誇る二人の内の片方が滅んだ。

 残った女神には、玲央たち凡俗な戦力で対抗するしかない。

 神の領域に踏み込んだ戦力は期待できない。

 だからこそ、玲央は行かねばならない。

 たとえ、死ぬ確率のほうが高い戦場だとしても。

 すでに一度、死を覚悟したのだ。

 偶然拾った命を使いきることに躊躇いはない。

「――と思ったんだけどな」

 玲央は立ち止まる。

 彼の顔には呆れたような、困ったような表情が浮かんでいる。

「思ったより早く追いつかれちまったか」


「――――キリエ」


 玲央は視線の先にいる少女の名を呼んだ。

 そこにいたのはロックファッションを纏う少女。

 魔王の血を継ぐ《怪画》――キリエ・カリカチュアだ。

 元々好戦的な彼女だが、放つ空気がこれまでとはまったく違う。

「トロンプルイユ……!」

 キリエは鬼の形相で玲央の名を呼ぶ。

 地の底から響くようなその声はもはや呪詛だ。

 滲みだす憎しみ。

 そして――

「随分と――変わったみたいだな」

 ――彼女の魔力は、ひどく変質していた。

 禍々しく、死の冷たさが宿る魔力。

 見ているだけで分かる。

 湧き上がる本能的な恐怖。

 今のキリエは、圧倒的な力を有しているのだと。

「よっぽど、オレが憎いらしいな」

 冷や汗が頬を伝った。

 精一杯の虚勢から紡がれた軽口。

 それに対するキリエの反応は――怒りに満ちた舌打ち。

「憎いに、決まってンだろうがッ……!」

 キリエは玲央を睨みつける。

「ピエロだからで許される悪フザケじゃないことくらい――分かってンだろぉなッ!」

 

「《挽き裂くは縁切(カット&ペースト・)りの爪(デリート)》ッ!」


 キリエが絶叫する。

 同時に、彼女の背中が裂けた。

 噴き出す血飛沫。

 彼女の背中から跳び出したのは、触手のようにも見える鎌の群れ。

 その数は100に及ぶ。

「物騒なイソギンチャクだぜ」

「挽き裂かれて死ねぇッッッ!」

 キリエの叫びに呼応し、刃の触手が鎌首をもたげた。

 それは一直線に玲央を目指す。

「速ぇ……!」

 逃げても間に合わない。

 そのまま全身を貫かれて死ぬ。

 だから――

「《顕現虚実・夢(オールレフト・)幻迷子(リライト)》」

 玲央の体が刃をすり抜ける。

 現実を幻術にする能力。

 それを用いて、刃を幻に変えたのだ。

 幻で人を殺せない。

 ゆえに、キリエの刃は玲央に届かなかった。

「あのスピードに攻撃範囲。リーチ。しかも多分、絶対切断。面倒な能力だな……」

 玲央は眉を寄せ、背後に広がっているであろう惨状を盗み見て――固まった。

「なッ……!?」

 刃で貫かれた建物が――消滅していた。

 崩落したのではない。

 一瞬にして、塵さえ残さずに消失したのだ。

「この世界は縁で成り立っている」

 驚く玲央。

 そんな彼にキリエが歩み寄った。


「アタシの爪は縁を切る」


「この世とのつながりを失った物体は、完全に消滅する」

 キリエは狂気の笑みを浮かべる。

「だからアタシの爪は絶対切断――じゃなくて、絶対消失」

 彼女の背中から伸びた鎌の先端が玲央へと向けられる。

「掠り傷一つで、そいつはこの世界から消失するンだよ」


「躱せるもンなら――躱してみなよッ!」


 再び、刃の嵐が玲央を狙う。

 触手の数が多く、その制圧力は驚異的だ。

 玲央は現実の幻術化を駆使して刃を避け続ける。

 掠れば死ぬ。

 しかし玲央は、一つの光明に気がついていた。

(扱いに慣れてないからか、刃の扱いが雑だ)

 構えて、伸ばす。

 そんな単純な動作しかできていない。

 さらに、複数の触手を散らして伸ばすこともできていないようだ。

 ただ物量で敵を細切れにする。

 そんな力。

「そういえば、一つ言い忘れてたね」

 キリエの笑みが嗜虐的に歪む。


「お前、あそこの建物覚えてる?」


 キリエが指で示したのは――空地。

 何もない。

 玲央が記憶をさかのぼっても、あそこは売地であったと思う。

 建物なんて存在――

「……おいおい。まさか――」

 キリエの言いたいことを察し、玲央は口元を引きつらせた。

 もし、あそこに建物があったとしたら?

 縁切りによって消滅しているだけだとしたら?

 それを、玲央がまったく覚えていないだけだとしたら?

 点と点がつながる。

「教えてあげるよ」

 キリエが人差し指を立てる。

「縁切りされたものは、消失の瞬間を見ていた者以外には認識されなくなる。『最初から存在しなかった』ことになる。」

 この世界とのつながりをすべて断たれるのだ。

 この世界に住む人間に忘れ去れるのもまた必定。

「つまり――《挽き裂くは縁切りの爪》で殺された奴は、誰にも覚えていてもらえない。死を悼んでなんてもらえない」

 親友も、家族も。

 玲央の死に気付けない。

 否。玲央という人間の存在そのものを忘れてしまう。

 この世界との縁が切られるというのは、そんな危険をはらんでいるのだ。

「アタシだけ、アタシだけがお前の死に際を覚えていられる」

 キリエは笑う。

「だからさァ」


「無様に惨めにミンチになってよねッ」


「お兄ちゃンさァァァッッッ!」


 ここからは天魔血戦の最終盤へとつながってゆく戦いが始まります。

 

 それでは次回は『聖女は女神に至れるか』です。

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