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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章後編 天魔血戦・滅亡編
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最終章 44話 そして女神は道を外れる

 薫子編は終わりです。

「久しぶりに、薫姉に会えた」

 悠乃が振り下ろした氷剣は防壁に阻まれる。

 それでも彼女は退かない。

 親友を見据え続ける。

「5年ぶりで、僕も薫姉も変わっちゃっていたけど」

 昔みたいに純粋な子供ではいられなかった。

 長い月日での経験が、悠乃たちの心を変えた。

 それでも、悠乃たちは再び会えた。

「再開してから今まで、いろんなことがあったよね」

 最初は《残党軍》との戦いから始まった。

 そして、かつて世界を救った魔法少女たちとの戦い。

 挙句の果てには魔王ラフガの復活。

 5年前は知らなかった女神システムという存在を知った。

「思えば、随分遠くに来ちゃったよね」

 5年前の戦いなんて始まりの始まりでしかなくて。

 新たな戦いでさえ、さらに大きな野望の前座。

 気付けば戦いは、悠乃たちの手に負えなくなっていた。

 そんな規模ではなくなっていた。

「だからこそ、いつも一緒にいたみんなの大切さを感じたんだ」

 苦しいことのほうが多い戦いだったけれど。

 薫子たちとの再会。

 黒白姉妹たちとの出会い。

 それは間違いなく宝物で。

「この戦いが終わってからも、みんなで笑えたらって思ってる」

 防壁にヒビが入った。

「女神になって世界なんか救わなくても良いよ」


「一緒に……帰ろう?」


 氷剣が防壁に入り込んでゆく。

「薫姉にエレナ。璃紗に、春陽に、美月。できれば……マリアやイワモンも一緒にいられたらいいんだけど――」

 道が別たれた仲間たち。

 それをつなぎ止めたい。

 そう思うのはきっと我儘だ。

 だが、思うままにそう口にした。

「みんなで一緒にまた――笑いたいんだッ」

 ついに結界が砕ける。

 悠乃の氷剣が薫子の首筋にはりついた。

「――薫姉がいないと笑えない人がいっぱいいるんだ。だから、女神として生贄になることでしか生きる意味を見出せないなんて思わないで」

 薫子は己の価値を認めない。

 無価値だと妄信している。

 だからこそ女神として誰にも為せない善を行うことで、自分の価値を作りだせると考えている。

 そんな考え間違っている。

 蒼井悠乃にとって、金龍寺薫子はとっくの昔にかけがえのない存在なのだから。

「気付いてよ……。薫姉が女神になったら、泣いちゃう人がいっぱいいるんだ」

 悠乃の頬を涙が流れる。

 もしも――

 もしもこの言葉さえも届かなかったら――

「あは……あはは……」

 薫子が肩を震わせる。

 彼女は笑っていた。


「本当に……馬鹿みたい」


 薫子は純粋な笑顔を浮かべていた。

 その頬は――涙で濡れていた。

「わたくしのような馬鹿は、神様になっても、神業みたいに恥を晒して――そこまでしてやっと当たり前のことに気付く。そういうお話ですね」

「ほんと……空回りしすぎ。薫姉はさ」

 二人は笑いあう。

「本当に馬鹿みたいです。でも――最後の最後で気付けただけ、まだ救いようのある馬鹿だったのでしょうか」

 自嘲、羞恥。

 そんな笑み。

「ごめんなさい。マリアさん」


「わたくしは、女神にはなれません」


「大切な人たちと、同じ世界で生きていたい」


 薫子はそう口にした。

 彼女の手元には一冊の禁書。

 黄金に輝く、神々しい一冊。

 きっとそこにはとても短い神話が綴られている。


「『金龍寺薫子が女神システムの権能を継承したという事実』を――爆破する」


 ――金龍寺薫子という少女が築いた、神話が書かれているのだろう。

 己を無価値と信じた少女が、たくさんの回り道の果てに当たり前のことに気付く。

 そんな神話だ。


 禁書が燃えてゆく。

 同時に《最果ての禁書書庫》が崩落を始める。

「女神システムの管理者ではなくなったからでしょうか」

 薫子は砕けゆくステンドグラスを見上げる。

 彼女が創り出した《最果ての楽園》は、女神システムの管理者に与えられる固有世界。

 薫子が女神システムを放棄したことで、その世界の意味は消えた。

 だから崩れてゆくのだろう。

「「…………」」

 悠乃と薫子は消えてゆく世界を静かに見つめていた。

 そして示し合わせることもなく二人は見つめ合い。


「帰りましょう。悠乃君」


「大切な、みんなのところへ」


 それは――悠乃がずっと聞きたかった言葉だった。


 ついに薫子が合流します。

 そして次話からはグリザイユ編となります。


 もしも本作がRPGだったら。

☆薫子救出ルート条件

1、蒼井悠乃の女神化。

2、7章まで寧々子が生存しており、薫子との信頼度が一定以上。

3、(マリア死亡ルートの場合)『一人目の女神候補』を推理パートで探し出す。


 それでは次回は『灰色に染まる2』です。

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