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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
243/305

最終章 30話 君のためなら道化になろう

 天魔戦が終わります。

「――頼みがある」


「交渉だ」


「オレはラフガを殺したい」


「だから、力を貸してくれ」


「……理由か?」


「そんなの簡単だ――」





「親友を……守りたいんだ」






「死にやがれクソ野郎がァァァッ!」

「が……はっ……!」

 ラフガは血の塊を吐いた。

 心臓を貫かれているのだから当然だ。

 しかし彼の眼光は衰えない。

「どういう……つもりだ?」

「――謀反だよ」

 玲央はラフガを睨み返す。

 そして、玲央の髪色が変わってゆく。

 黒髪から――()()()()


「なぁ? ――――――――()()()()


 加賀玲央は――トロンプルイユ・カリカチュアはラフガに嗤いかけた。

「元々オレは、お前を殺すために《残党軍》に入ったんだよ」


 ――お袋を散々苦しめやがったクソ親父を殺すためにな。


 そこで玲央は自嘲の表情を浮かべた。

「でも、そんな気持ちはお前を見た瞬間に折れた」

 それは挫折の記憶。

 圧倒的な力を前に屈した記憶だ。

「復活したアンタを見た時『勝てねぇ』って心が折れた」

 だから、従うしかないと思った。

 父親への復讐。

 そんな私怨から、世界が滅ぼす要因を作ってしまった。

 自責の念を抱えながら、牙を抜かれたまま生きるしかないと思った。

「でも、悠乃が――アイツの存在が、オレに力をくれた」


「アイツの友達を奪ったお前を、絶対に許せねぇ」


 親友が悲しんでいた。泣いていた。途方に暮れていた。

 その姿が、玲央の心に勇気の炎を灯した。


「お前を復活させたオレが、アイツの笑顔を取り戻すにはこれしかねぇだろ」


「てわけで――死ねよ」


 玲央は力一杯にサーベルをひねる。

 ラフガの心臓の穴が広がり、血の噴水が上がる。

「この――下民がァァァァッ!」

 ラフガの手が玲央の頭を掴む。

 すさまじい握力が玲央の頭蓋を軋ませる。

 頭が割れそうなほど痛い。

 いや。

 数秒とかからずにこの頭は割られる。

(何を恐れる必要がある――)

 だが玲央は一瞬たりとも怯まない。

 足を竦ませた結果の後悔なら――もうした。

(親友を悲しませるような馬鹿野郎の脳味噌なんかより――)


(てめぇを殺すことのほうが大事に決まってんだろォがッッッ!)


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「塵カスがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 ラフガの命が尽きるのが先か。

 玲央の頭蓋が握り潰されるのが先か。

 ――否。

 たとえ頭を砕かれようと、この心臓だけは八つ裂きにしてみせる。

 二つの雄叫びが重なる。

 死を直前にして、二つの命が激しく燃え上がる。

 その結果は――


「――ありえん」


 ラフガの手から力が抜ける。

 彼の顔には驚愕が広がっていた。

 目の前の光景が信じられないのだろう。

 己の覇道が途切れたという現実が。


「我は――王だぞ……」


「暴君は部下に裏切られて死ぬ。人間なら、小学生でも知ってることだ」


 ラフガの体が地面に倒れる。

 仰向けになった彼の目からは光が消えていた。


 ――ラフガ・カリカチュアは絶命したのだ。


「ったく……とんだピエロだぜ」

 玲央は力なく笑う。

 世界を滅ぼす要因を作り、それを処理するために命を散らす。

 復讐のために剣を取り、親友のために振るった。

 馬鹿みたいな生き様だ。

 道化のように失敗ばかり、道を見失ってばかり。

 初志貫徹など一切できていない。

 自分で親友を悲しませ、命を以ってその涙を拭おうと戦った。

 まさしくピエロ。

 だけど――親友の未来を守れるのなら、道化でも良い。

 自業自得で死んでも本望だ。

 後悔も反省もある。

 だが、その後始末のために命を使えたことだけは――悔いることはない。


「悠乃……これで少しは……償えたか?」


 玲央は満足げな笑みを浮かべ、意識を暗転させた。



「……もう少しで死んじゃうところだったなぁ」

 マリアはゆっくりと起き上がる。

 全身が痛い。

 意識はまだぼんやりとしていて、上手く体が動かない。

「――マリア!」

 そんな彼女に白猫が飛んでくる。

 イワモンだ。

 《正十字騎士団》の副将にして、マリアを救うと約束してくれた存在。

 彼は心配そうな表情でマリアに駆け寄る。

「あはは……。ごめん。ちょっと動けそうにないよ」

「大丈夫だ。僕が安全なところに運ぶ」

 イワモンはマリアの下に潜り込むと、彼女の体を持ち上げた。

「すぐに治療しよう。今の状態では、自衛もままならない」

「……うん」

 マリアはイワモンから視線を外す。

 そこにいたのは、地面に倒れた少年。

 親友のため、魔神を殺した少年。

 そんな彼に微笑みかける。

「君は半分人間だから、女神が慈悲をかけても良いよね?」

 マリアの手からピンクの魔力が放出された。

 それは玲央の体を包み――癒してゆく。

 死に向かっていた命をつなぎとめる。

「彼は敵だったはずだが?」

「うん。でも、誰かを助けようと必死な人だったんだ」

 ――イワモンみたいにね。

 そうマリアは呟いた。

「そんな人が死んじゃったら、この人が守ろうとした人が可哀想だもん」

「――君は優しいんだね」

 イワモンはそう口にした。


「そんなに優しいから、君は女神なんかになってしまったんだろう」


 そう言うイワモンの声は、温かな優しさで満ちていた。

「でも――イワモンが助けてくれるんでしょ?」

「もちろんだ」

 イワモンは微笑む。


「僕が君を、女神システムという呪いから救ってみせる」


 加賀玲央は人間の母と、魔王ラフガを父に持つハーフです。

 彼が父に対して悪感情を持っていることも、3章時点で『糞みてぇな親父』と呼称していたことからうかがえます。そんな彼の行動が、天魔血戦の行方を決めました。

 

 こうして天魔血戦は女神陣営の勝利に終わります。そして次話で中盤戦は終わり、物語は『最終章 天魔血戦・滅亡編』へと続きます。


 それで次回は『悪』です。

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