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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
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最終章 29話 神体を砕く者

 ついに彼が動きます。

「ぁ、ぁぁっ……!?」

 地面に叩きつけられ、マリアは苦悶の声を漏らす。

 因果跳躍での脱出さえ間に合わないスピードでの衝突は彼女の体にすさまじい衝撃を与えた。

「っく……!」

 マリアは指先でラフガの眉間を指す。

 そのまま彼の頭部を焼き落とそうとするも、

「遅い」

 ――マリアの後頭部にすさまじい衝撃が走った。

 それこそ時を止め、何度も地面に叩きつけられたかのように。

「ぁ……ぁ、ぁ……」

 意識が遠のく。

 女神といえども身体構造は人間と同じ。

 脳を激しく揺らされたのなら意識障害に陥る。

「これで大人しくなったな」

 手足に力が入らない。

 マリアは地面に四肢を投げ出したままラフガを眺めていた。

 意識が霞み、目の前にある光景を正確に把握できない。

 おそらく脳震盪を起こしているのだろう。

 このままでは殺される。

 それが分かっていても、脳から流れる信号は手足に届かない。

 ラフガがマリアの腹に膝をついて上に乗る。

 内臓を圧迫する感覚さえ今は遠い。

 彼の手がマリアの頭を掴んだ。

 すると、彼女が纏っていた純白のドレスが光の粒へとなり消えてゆく。

「ぁ――――」

 変身の強制解除。

 魔力を分解できるラフガは、魔法少女の変身をも解除できる。

 彼に囚われたのなら、女神さえも人間に引き戻される。

 化物を浄化する存在から、化物に食われる存在へと戻される。

「――トロンプルイユ」

 ラフガはマリアの首を掴むと、虚空に向かって放った。

 すると誰もいなかったはずの空間に玲央が現れ、彼女の体を受け止める。

「奴も10分くらいは変身できないだろう。それまでに――教え込んでやれ」

 ――奴隷としての悦びをな。

 そうラフガは玲央に指示する。

 それに対し玲央は沈黙したまま首を縦に振る。

 周囲の空間が歪む。

 幻術世界にマリアを取り込もうとしているのだ。

(もうすぐなのに――)

 マリアは虚ろな瞳に涙を浮かべる。

(もう少しで――)


(――――救われるはずだったのに)


 彼女の体は幻術空間へと呑み込まれた。



「あっちは……マリアとラフガか?」

 璃紗は強大な魔力がぶつかり合っていた方向を見ながらそう言った。

「多分ね。あんな力を持っている相手が他にいるなんて信じたくないかな?」

 悠乃は苦笑する。

 あの二人だけでも大きすぎる障害だというのに、さらに強敵が増えてはどうしようもない。

「それにしても――ちょっと困ったな」

 悠乃は立ち止まる。

 それに合わせ、璃紗も走るのをやめた。

「戦場は正反対、か」

 今、大きく分けて二つの戦場が存在している。

 マリアとラフガ。

 薫子とエレナ。

 二つとも大きく、そして無視できない戦場だ。

「マリアとラフガ。生き残ったほうを確実に倒せるタイミングは、戦いが終わった直後。でも――」

「そっちに向かっちまえば、薫姉とエレナの戦場が手遅れになりかないってわけか……」

 璃紗の表情も険しくなる。

 悠乃たちの目的を果たす上で、満たすべき条件がいくつかある。

 薫子を助ける。

 エレナを助ける。

 マリアとラフガを――殺す。

 しかし、マリアとラフガは悠乃たちの手に負える相手ではない。

 二人がぶつかり、消耗した瞬間を狙うしかない。

 だが、今そのために動いてしまえば、現在進行形で戦っている薫子とエレナの身が危うい。

 たとえマリアとラフガを倒しても、あの二人が死んでしまえば意味がないのだ。

 それは悠乃たちのハッピーエンドではない。

「二手に別れる……? いや、それは絶対ダメだ」

 悠乃は首を振る。

 ここで戦力の分散をするのは愚策だ。

 個々の能力で負けているのに人数を減らせば何も守れない。

 あくまで、選ぶしかないのだ。

 優先すべき道を。

「…………行こう」

 悠乃は走りだした。

 ――薫子とエレナが戦う方向へ。

「……良かったのか」

「うん」

 璃紗の言葉に悠乃は頷く。

「やっぱり、二人と会うのが先だと思う」

 そうなればマリアとラフガの戦いにも決着がつき、より苦しい状況に追い込まれるかもしれない。

 それくらい分かっている。

「――後のことは、また後で考えよう」

 今は、がむしゃらに走ることしかできない。

 一瞬でも迷えば、間に合わない。

 たとえ光明が薄れると分かっていても、大切な友達を失うリスクとは比べるわけにいかない。



 ドサリ。

 そんな音が聞こえた。

「――戻ったか」

 ラフガは腰を上げる。

 音の鳴った方向を見れば、そこには女が放り投げられている。

 ピンクの髪を広げた女。

 少し前なら、女神などと崇められていた存在。

 今となっては矮小な人間にすぎない

「具合はどうだ?」

「まあ――かなり良い感じなんじゃないかと」

 玲央はマリアを爪先で軽く蹴る。

 しかし彼女は動かない。

 どうやら意識を完全に失ったらしい。

「これで、世界から女神の恩恵は消えた」

 ラフガは笑みを浮かべる。

 この世界にはルールがある。

 運命が人間を守り続ける。

 《怪画(カリカチュア)》が。悪魔が。魔獣が。妖魔が。

 様々な種族が人間を蹂躙しようと侵攻した。

 しかし、そのたびに彼らに対するカウンター生物――魔法少女が現れ人類を守った。

 人間を守る運命。

 そんなシステムを構築したのは他ならぬ女神だ。

 つまり、女神を手中に収めることさえできたのなら、人間が運命に守られることはない。

 《怪画》が人間界に攻め込めば、順当に《怪画》が勝つ。

 正義が悪に勝つなどというお約束は起こらない。

 無情なまでの弱肉強食の世界が実現する。

 弱者がひたすらに淘汰される世界が顕現する。

「それでは終いだ」

 ラフガはマリアに歩み寄る。

 彼女に一切の反応はない。


「誰が真の神なのか、教えてやろう」


 ――笑い声。

 笑い声が聞こえた。

 それはラフガ自身の声ではない。

 声の主は――

 

 ――加賀玲央だった。


「――そんなに嬉しいか?」

「ああ。嬉しいぜ」

 玲央が笑う。

 獰猛に、これまでになく感情を剥き出しにして。

「やっと――」

 玲央が浮かべる感情は――

「やっと手に入れた――」

 ――狂喜。


「――――――てめぇを殺せるチャンスをッ……!」


 直後――マリアが目を開いた。

「《女神に外れる(オールマイティ・)道はない(メシアライズ)》――!」

 彼女は省略する。


「『加賀玲央の攻撃は――魔王ラフガに当たる』っ」


 玲央が攻撃をするという過程を省略した。

「がぁッ……!?」

 そして――


「てめぇなんかに――オレたちの大切なものを奪わせねぇッ……!」


 そして世界は――『玲央のサーベルがラフガの心臓を貫く』という結末に到達した。


 次話あたりで中盤戦は終わりです。


 それでは次回は『君のためなら道化になろう』です。

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