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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
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最終章 24話 金色の女神に讃美歌を

 グリザイユVS薫子戦は多分、天魔血戦編の終盤にまでもつれ込みます。

(正直、見た目ほど余裕はありませんね)

 ポーカーフェイスを崩すことなく薫子はそう内心でつぶやいた。

 見た目だけでいえば、薫子が一方的にグリザイユを攻撃している。

 しかしそれは体力の話。

(このペースで魔力を使っていたら、いつか――死ぬ)

 すでに何度も未来改変を使用している。

 今のところ問題はない。

 しかしこのペースで使い続ければ、最後には魔力切れとの勝負になるかもしれない。

(せっかく未来が視えるのですから、未来改変は最小限にしなければいけませんね)

 本当に危ない瞬間だけ。

 使うタイミングを絞ることで、今のうちから魔力を節約する。

 そう薫子は決めた。

 しかし――

「ッ」

 薫子は首を傾ける。

 グリザイユの血刃が頬を掠めそうになったのだ。

(とはいえ万が一にも当たれない攻撃となると、あまり魔力を節約しすぎるのも考え物ですね)

 もしもそれで致命傷を受けたのなら意味がない。

 手札を後生大事に握ったまま死ぬなど愚の骨頂。

 手札も切り札も、適切なタイミングで場に出すから意味がある。

 あえて出さないことと、出し損なうことは天と地ほどに違うのだ。


「もう少し、()()()()()()()()


 薫子はグリザイユに背を向けた。

 そのまま彼女は駆けだす。

 背後を警戒などしない。

 受けるダメージなら、未来視で察知できる。

「無駄です」

 薫子は振り向くことさえなく攻撃を避ける。

 地面が砕け、走りづらくなる。

 しかしどう壊れるのかも未来視で知っていることもあり、薫子は最小限のロスで道を駆けてゆく。

「このあたりですね」

 薫子は膝を曲げ、跳びあがる。

 10メートル以上の高さを舞う薫子。

 それを追うようにグリザイユも跳ぶ。

 そして薫子は


「ああ、手が滑りました」


 横に向かって《魔光(マギ・レイ)》を放った。

「そういえば、あっちには……」


()()()()()()()()()()()()


 薫子の一言。

 それを聞いたグリザイユが蒼褪める。

 理解したのだろう。

 薫子が撃った《魔光》の着弾地点にある建物が――


 ――グリザイユの家である事を。


 自分を育ててくれた愛すべき人たちが住む家である事を。

「そこまで……するのかッ!」

 グリザイユの掌から血液が飛ぶ。

 その反動で彼女は方向転換し、《魔光》を防いだ。

 ――自らを盾にして。

「そこまで……ですか?」


「勝つための努力を惜しむことの何が偉いんですか?」


 薫子はすぐさま《魔光》を構える。

 右手に。左手に。そして二股の尾に。

 計4発の《魔光》が一斉に撃ち出される。

「ぐ、ぬぁ!」

 グリザイユは暴力的な魔力量に任せ、《魔光》を薙ぎ払う。

 しかしその反動は相殺できるものではなく、彼女の体は地面に向かって吹き飛ばされた。

「ぬぁ、あッ!」

 このままでは両親の家に落ちる。

 それが分かるからこそ、グリザイユはさらに血液を横に向かって噴射して落下地点を曲げた。

 彼女の体は落下地点を大きく変え、大通りに落ちる。

「うふふ。不必要に血を使っても良かったんですか?」

「……妾は、無駄なことをした覚えはないのじゃがのう」

「見解の相違ですか。神と、人の」


「いいえ」


 薫子は笑う。

 

「救世主と……化物の」


「……灰色の女だ」「あれは――」

 声が聞こえた。

 そこで初めてグリザイユは周囲に目を配る。

 そして気付いた。


「魔王……グリザイユ……?」


 この場には、一般人がいることに。


「な…………!」

 グリザイユは瞠目する。

「まさか魔王なのか……?」「見た目が違うけど、あれは絶対――」「5年前に死んだんじゃ――」

 この町で行われた5年前の戦い。

 薫子たちと魔王グリザイユが戦った日のことは『グリザイユの夜』と呼ばれている。

 あの日、一般人に死者はいなかった。

 だからこそ、グリザイユの姿をおぼろげながらも知っている人間は多い。

 間近にグリザイユを見たわけでもないのだから、普段なら気付かないだろう。

 普段なら。

 しかし今、街は破壊されている。

 激しい戦いの最中に現れた灰色の女。

 その要素が絡み合えば、嫌でもこの町の人間は意識する。

 ――魔王グリザイユという存在を。

「あいつが街を壊したのか……?」「また魔王が――」

「違ッ――」

 一般人の不安。

 そこから導き出された憶測にグリザイユは動揺する。

 だから――そこでさらに一手。

「気付いていましたか?」

 薫子は問いかける。

「さっきまで使っていた、わたくしの魔力が――」

 グリザイユを絶望に落とす言霊を。


「――灰色だったことに」


「な……」

 今度こそ、グリザイユの時が止まる。

「うふふ。この一カ月。練習したんですよ?」

 だからといって手は緩めない。

 むしろ、薫子の話術が牙を剥く。

「貴女の魔力色の再現」

 

 ――この町を……誰が破壊したように見えたんでしょうね?


「ぁ…………」

 動揺が抜けきれないグリザイユ。

 そこへ容赦なく――トドメを刺す。


「なんで……こんなことを……! 魔王グリザイユ……!」


 悲痛な表情で薫子が叫ぶ。

 血を吐くような悲しみを演じて。

 一般人たちに、誤った答えを提示する。

「やっぱり魔王なのか――」「ということはあの女の子は――」

 そして、新たな答えが浮き上がる。


「――魔法少女だ」


 誰かが呟いた。

 その瞬間、図式は固まった。

 正義と悪。その構図が決まった。

「あいつを――魔王グリザイユを殺してくれぇ!」「この町を! 世界を救ってくれぇ!」「負けないでぇ!」

 声援が聞こえる。

 勝てと。

 薫子の背を押し、グリザイユの心を折る声が聞こえた。

(今の貴女にとって、一番苦しい声ですよね?)


(人間から拒絶される言葉は)


 グリザイユは迷っている。

 人間としての灰原エレナ。

 《怪画(カリカチュア)》としてのグリザイユ・カリカチュア。

 捨てられない大切な二つの間で揺れ動いている。

 そんな彼女の顔面に――叩きつける。

 無理矢理、その手から未来をはたき落とす。

「な……ぁ……! わ、妾は……!」

 精神の負荷のせいか、グリザイユの呼吸が荒い。

 胸を押さえ、表情が苦痛に歪む。

 過呼吸になった体を鎮めることに集中するあまり、周囲の状況がまったく見えていない。

「ぬぁッ!?」

 そんなグリザイユの腹を強かに蹴りつける。

「ぅ……ぉえ……!」

 無防備な鳩尾を打たれ、グリザイユは盛大に胃液を待ち散らす。

 地面を転がる彼女を追いかけながら、薫子は背後で爆発を起こす。

 ()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

「人前では淑女として戦わないといけないのがヒーローの辛いところですね?」

 薫子はグリザイユの髪を掴むと、乱暴に彼女を立たせた。

「そう思いませんか?」


「バ・ケ・モ・ノ・さん♪」


 そのまま彼女の顔に膝を叩きこんだ。

「っ、んっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 声にならない絶叫をあげグリザイユは地面に倒れ込んだ。

 悶絶する彼女の背中を薫子は踏みつける。

 無論、人体の重心を捉えて、どうあがいても立ち上がれない場所を狙って足を置いている。

 いくら身体能力に差があっても、物理的に動けないように。

「《合奏魔光(マギ・オーバーレイ)》」

 薫子は両手と尻尾に魔力を集める。

 そしてその4つを混ぜ合わせ、一つの魔力に固め直す。

 普通の《魔光》の数段上を行く威力。

 たった一撃で体を塵にする滅びの閃光。

 それを撃ち出――

「ぬ、ぁぁああッ!」

「な――」

 薫子の視界にノイズが現れた。

 ――未来が書き変わる兆候だ。

 見えていた本来の未来が変わり、新たな未来が現れた時に起こる現象だ。

 おそらく原因は、グリザイユを追い込み過ぎたこと。

 冷静さを失えば狩るのは難しくない。

 そこに間違いはなかった。

 だが、冷静さを失って恐慌状態となったものが行う突飛な行動――普段のロジックが通用しない行動のうちの一つを――未来視が見落とした。

「しま――」

 そして、未来視がエラーを起こした原因。

 それは――

(砂煙が仇になりましたか)

 視界不良。

 それによるデータ不足が、未来視の誤答を生んだ。

 結果として――


「ぁぁッ!?」


 グリザイユから伸びた血液の尾が、薫子の側頭部を殴り抜いた。


 ちなみに魔力の色は固有のものなので、それを変えるのは魔法少女の原点である女神にしかできません。

 そして薫子が持つ未来視は寧々子のものに比べてクオリティが低く、エラーが起きやすくなっています。それは単純な熟練度の差です。現役時代から魔法少女の力を回収されるまで、そして《逆十字魔女団》としての活動期間を未来視と共に過ごして来た寧々子と、力を手に入れてから一カ月程度しか経っていない薫子との違いですね。


 それでは次回は『頂上にして超常』です。



 

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