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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
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最終章 22話 転換点

 文字通り、戦争の転換点が訪れます。

「――静かになったな」

「……うん」

 戦場を駆けながら、悠乃たちはそんな言葉を交わした。

 璃紗の言う通り、背後から聞こえていた戦闘音が消えている。

 各地で噴き上がっていた魔力も沈静化し、戦場に静けさが戻っていた。

「多分、決着がついたんだろうね」

 戦闘のために練り上げられた魔力が消える理由はそれくらいだろう。

「アイツら大丈夫だろーな」

 璃紗が言うのは黒白姉妹のことだろう。

 心配はしていない。そんな態度で戦場を離れた彼女だが、心の底には不安があったのだろう。

 当然だ。

 戦場では何が起こるか分からない。絶対などないのだから。

「きっと大丈夫だよ」

 だが、悠乃はそう言う。

 すでに距離はかなり離れている。

 戦闘のために魔力を放出している状態ならともかく、今となっては魔力の探知・識別は難しいだろう。

 だから信じることしかできない。

 信じて走るしかない。

「さっきので、戦いに一つ区切りがついた」

 いうなれば第一波がすぎた。

「そうなれば、もうすぐ戦いが動くはずだ」

 今のは所詮、小競り合いにすぎない。

 互いが互いの出方を見るためだけの衝突。


「本当に荒れるのは――ここからだね」



「ほう」

 ラフガは感心の声を漏らした。

 だがそれはあまりに呑気な反応だろう。

 左右を魔法少女に挟まれた現状では。

「「――――――」」

 ゴスロリ服を着た二人の魔法少女。

 その容姿は星宮雲母に酷似している。

 だからこそ分かる。

 この二人はオリジナルではなく、人造であると。

 ここは魔造少女と評すべきか。

 ともかく、魔造少女が内包する魔力は申し分ない。

 現役の魔法少女と言われても納得できるほどだ。

「さすがに、良い兵士を持っている」

 二人の魔造少女が左右から手を伸ばしてくる。

 そんな中、ラフガは前を向いたまま振り上げた両腕を叩き落とした。

 鉄槌のごとき拳が魔造少女の後頭部に炸裂する。

 そのまま二つの頭蓋は人形のパーツのように外れ、地面の染みとなった。


「魔法少女を完璧に再現できているな。首が簡単に外れる」


 ラフガは4体目と5体目の死体を放り投げた。

「もっとも、我の軍も人のことは言えぬか」

 ラフガは周囲に散らばる《怪画(カリカチュア)》の死体を目にして嘆息する。

 あれは、魔造少女が築いたものだ。

 どうやら1対1の兵力としては魔造少女が上らしい。

 数の上では《怪画》が勝っていることを加味したのなら、軍隊としての優劣は一概に言えないのだが。

「それにしても。雑兵はともかく、我にこの程度の人形を投げても意味がないと分からんのか。だとしたら――」

 失望だ。

 そうラフガが言いかけた時、()()()()()()()()()()()

 異常な速度で膨張する腹。

 それは次の瞬間――爆発した。

 ラフガを爆炎が包む。

 とはいえ、それに脅威を覚えることはなかったのだが。

「なるほど。こいつらは肉人形ではなく、肉爆弾であったか」

 腹の中に爆弾を仕込まれ、ラフガに特攻を仕掛けるための道具。

 油断したラフガに一撃を当てるために死ぬ『入れ物』だったのだ。

「この魔力には覚えがあるな」

 そしてこの魔造少女のもう一つの役割は――メッセンジャーだ。

「この爆弾はマジカル☆トパーズのものか」

 爆炎にこもっていた魔力からそう判断する。

 魔造人形にしかけられていた爆弾はマジカル☆トパーズ――金龍寺薫子のものだ。

 それが意味することは――

「グリザイユ」

「……はい」

 ラフガは娘の名を呼んだ。

 グリザイユはそれに従い一歩前に出る。

「どうやら女神の後継者は、お前を所望らしいぞ」

 このメッセージはグリザイユに向けられたものだ。

 ラフガへの攻撃はついででしかない。

 その証拠に――


「あそこか」


 一瞬だが、街で強大な魔力が放たれた。

 薫子はこう言いたいのだろう。

 自分はここにいるのだと。

「グリザイユ」


「女神の後継者を――殺せ」


 ラフガはそう指示を下した。

 ただグリザイユはそれに追従する。

「………………」

 グリザイユはゆっくりと道の中央に立った。

 彼女がいるのは大通り。

 道は長く続いている。

「…………《彩襲形態(オーバーコート)》」


「――――――《灰の覇王・覇(グランドグレイ・)道血線(グリザイユ)》」


 グリザイユは解放する。

 己が持つ最高戦力を。

 急激に体が成長してゆく。

 小学生くらいだった体が大人の女性に変わってゆく。

 小さかった乳房が膨らみ、ドレスからこぼれそうなほどの大きさとなる。

「それでは――」


()くのじゃ」


 グリザイユは身をかがめ、クラウチングスタートの体勢となる。

 そして――駆けた。

 彼女が地面を踏みしめるたび道路が破裂し、石片が散らばる。

 そして両足で踏み切ると――跳んだ。

 グリザイユは走り幅跳びの要領で宙を舞う。

 大人の姿となった彼女の身体能力は飛躍的に向上している。

 地上の景色が一気に離れてゆく。

 後方に向けた掌から魔力を放出してグリザイユは加速する。

 そのまま彼女は数キロ先にまで跳躍すると――

「ぬっ……!」

 アスファルトの道路をめくり上げながらグリザイユは着地する。

 雪崩のように巻き上がる岩の波。

「《魔光(マギ・レイ)》」

 岩の津波を魔力の光が弾く。

 最低限の威力に縛られた魔法は岩の波を割った。

 割れた波の中央には黄金の少女が佇んでいる。

「いらっしゃいませ。お嬢様」

 少女――金龍寺薫子は見事なカーテシーで出迎える。

 メイド修行をしていたというだけあって、その語りも様になっている。

「しかし申し訳ありません。当()()では《怪画》の生存は許しておりませんので……ご理解くださいませ」

 そう薫子は微笑む。

 彼女は一人そこに立っていた。

 きっと、待っていたのだ。

 グリザイユが現れるのを。

「やはり、こうなるのじゃな」

 グリザイユは息を吐いた。

 グリザイユ・カリカチュアと金龍寺薫子。

 魔王の後継者と女神の後継者。

 そうなった時点で、二人が戦うことは必然だった。

 避けることはできない戦いだったのだ。

「うふふふふ…………」

 薫子は笑う。

 どこか空虚な瞳のままで。

「それでは始めましょうか」


「――――――救済の時間です」


 戦争において大事なのはラフガVSマリア。

 でも、悠乃たちにとって大事なのはエレナVS薫子。

 中盤戦は、大きな意味を持つ2つの戦場がメインです。


 それでは次回は『王と神』です。

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