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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
231/305

最終章 18話 逆様の世界へ

 黒白姉妹にとって最大の山場となります。

「《影の楽園・反(ワールドシャドウ・)転世界(リバーシ)》」


 その声は――()()()()()()()()()



「…………?」

 雲母は首を傾げ、自身の手を見つめていた。

 何か思うところがあったのか、彼女は後退しリリスの隣に立った。

「リリス先輩」

 雲母は尋ねてくる。


「さっき、()()()()()()()()()()()()()……?」


「ハァ?」

 雲母の言葉に、リリスは呆れの声を漏らす。

 なぜなら――

「誰がって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………?」

 二人の会話が噛み合わない。

「でも、誰かに止められたような気がする」

 雲母が腕を差し出す。

 彼女の手首には、誰かに掴まれたような跡があった。

「……そもそも、アンタの手首を掴める奴がいるワケ?」

「あ…………」

 雲母の魔法《表無し裏(フェイトロット・)無い(タロット)》。

 その力は、己に向けられた攻撃の反射。

 彼女は自身の体質により、確率発動である反射を100%発動させられる。

 結果として、彼女は自身に向いた力すべてを反転させることが可能なのだ。

 つまり、雲母の拳を止めるために彼女の手首を掴むことなど不可能。

 手首に触れた瞬間、手を弾かれることだろう。

 だから、雲母の言っていることはそもそも起こり得るはずのない出来事なのだ。

「…………? 分からない」

「……ハァ」

 リリスはため息を吐く。

 雲母の発言はあまりに支離滅裂で不可解だった。

「しっかりしてヨネ」

 だから、リリスは雲母の言葉を深く吟味せずに流した。


「さっさとあの4人を殺して、世紀末アートにしてあげるんだカラ」


 リリスは嗤う。嗤う。嗤う。

「……?」

 一方で、雲母は疑問符を浮かべていた。

 リリスの思想を理解できないからではない。

 そんなことで、雲母はこのような表情を浮かべない。


()()って……誰?」


「ハ?」

 リリスの笑みが止まる。

 春陽、キリエ、ギャラリー。

 ……3人なのだ。

 リリスの敵は、3人なのだ。

(なんで4人なんて数字が出たワケ?)

 ただの数え間違いか。

 いや。それならあんなにごく自然に口から出てくるものなのか。

 戦場に、違和感が現れ始めていた。

 原因は分からない。

 だが、リリスの本能が警鐘を鳴らしていた。

「雲母……! なんか、おかしいカラ気を――」

 リリスが警告を飛ばしかけた時――

「がッ!?」

 彼女の胸が貫かれた。

 背後から。影のナイフで。

「……ごぶっ」

「リリス先輩……!」

 肺が破れ、泡立った血を吐く。

 その光景に雲母が駆け寄ってくる。

 だが、そんなことはどうでも良かった。

「なんデ――」

 リリスは歯ぎしりする。

 あまりにも間抜けだ。

 まさか――


「なんで、()()()()()()()()()()()……!?」


 まさか――黒白美月の存在を完全に忘れていたなど。

 きっとそれは、全員同じ思いだったのだろう。

 戦場にいた皆――姉であるはずの春陽でさえも驚愕に目を見開いている。

 ここにいた者たちすべてが、黒白美月を忘却していたのだ。

「他人に、自分を忘れさせる能力ってとこ……カナ?」

「……やはり、一撃でバレるんですね」

 美月は影のナイフを一閃し、こびりついた血を振り払った。

「ええ。そうです」

 美月は歩く。

 純白にして潔白の花嫁衣装を纏い。

 花道を歩く衣装を身に着け、誰よりも深淵を歩む。


「《影の楽園・反転世界》の能力は、私の『姿』・『気配』・『記憶』のすべてを隠蔽すること」


 それはきっと、隠れるという目的において絶対的な力だ。

 黒白美月という存在を覚えていないのだから、彼女を探そうと思うはずがない。

 探さないのなら、気配のない相手を見つけられる道理がない。

 暗殺という面において、間違いなく最強の魔法だ。

 だが――

「でも、マヌケだったヨネェ」

 ここには、もう一つの魔法が存在している。

 春陽の《真実の光・波羅(ライト・オブ・ヘヴン)蜜蓮華(・ニルヴァーナ)》が。

「ここじゃ、アタシたちは死なナイ。いくら不意打ちで暗殺しても、意味なんて――」

「治りませんよ。その傷は――」

 美月はリリスの胸を指さす。

 彼女の胸から溢れる血は、止まる気配がない。

「不死化が……発動してナイ……!?」

 リリスは春陽の様子を確認する。

 ――《花嫁戦形(Mariage)》は解除されていない。

 つまり、リリスたちは不死身のままのはずなのだ。

「言い忘れていました」

 美月は一歩踏み出した。

「私は、反転世界に潜むことで『あらゆる存在から認識されなくなる』」

 ――つまり、


「姉さんが作りだした真実に囚われることはない」


 不死化の適用を受けない。

 美月だけは、《真実の光・波羅蜜蓮華》の中でも人を殺せる。

 彼女の存在はこの世界に認知されていないから。

 彼女はここにいるようで、位相のズレた世界に立っているから。

 真実に囚われたリリスたちは他人を殺せない。

 だが美月は何者にも縛られずに敵を殺せる。

 二人の魔法が生み出す相乗効果は脅威としかいえない。

 戦いの在り方を根底から覆し得る暴挙だ。

「チッ」

 不死化の恩恵を受けられない。

 そう理解すると同時に、リリスは胸に魔力を集めた。

 細胞分裂を促進し、肺に開いた穴を塞ぐ。

 治療にかかったのは――5秒。


「はぁッ!」


 次に仕掛けたのはキリエだ。

 彼女は大鎌で美月の首を刈り取る。

 しかし、刃が彼女の首筋に触れる直前に、美月は霞と消えた。

「うん? どこに消え――というか、何を探していたのかな? ギャラリー? 何を探せばいいのか分かるかな?」

「なにをボケた老人みたいなことを言っているのよ……」

「ここは無限の未来に戸惑う若者みたいだと言ってほしいかな」

「じゃあ、自分の目標くらい自分で探しなさいよ」

「うん。意外と子供に厳しい母親だ」

 そんな言葉を交わしつつも、キリエとギャラリーは周囲を警戒する。


 ――何に気をつければ良いのか分からないままに。


 そして……

()()()()()……!」

 突然キリエが大鎌を振るいながら独楽のように回る。

 回転を終えると、彼女は苦い顔を浮かべる。

「完全には躱せなかったみたいだ」

 よく見れば、キリエの肩からは血が流れている。

 突然彼女の背後に現れた美月が、影のナイフで切り裂いたのだ。

「まさか、能力の解除から攻撃までの一瞬でここまで避けられるとは……」

 美月は動じることなくメガネを押し上げる。

 攻撃の直前、この場にいる者全員が美月のことを思い出した。

 つまり、能力を発動したまま攻撃できないのだ。

(要は、カウンターで殺すしかないってワケ)

 どこから近づいてくるかも分からない相手に実行するには、あまりに困難な攻略手段であった。



「姉さん。お願いしても良いですか?」

 美月はそう口にした。

「星宮さん以外の全員を、この場で抑えておいて欲しいんです」

 春陽の魔法は戦場を停滞させる。

 継戦能力において異常な力を持つ。

 彼女の力を借りれば、雲母以外を戦場から取り除ける。

 そうすれば、雲母を助けるための舞台が整うはずだ。

「うん。任されたよー」

 それを理解しているからこそ、春陽は快くうなずいた。

 そして――

「そーれっ」

 リリス、キリエ、ギャラリーの心臓が光刃に撃ち抜かれた。

 硬直する三人。

 同時に――

「きゃ……!」

 光の波動で雲母が吹っ飛ばされる。

 彼女の体は軽々と後ろに弾き飛ばされ戦場から外れる。

 ――春陽の魔法の影響下にない所まで。

「…………ありがとうございます」

 感謝の言葉と共に、美月は姿と気配を消す。

 記憶まで隠蔽してはいないので、全員が美月のことを覚えている。

 しかし姿を見ることも、気配を察知することもできない。

 そうして美月は悠々と戦場を歩き、雲母と対峙した。

「…………!」

 きっと雲母には、美月が唐突に現れたように思えたことだろう。

 彼女の肩がわずかに跳ねる。

 そんな雲母に向け、美月は影のナイフを構えた。


「1対1。やっと、始められそうですね」


「運命を反転させるための戦いを」


 正直、これまでの《花嫁戦形》の中でも、美月の《花嫁戦形》が一番のぶっ壊れですね。

 暗殺という分野において他の追随を許さない性能です。

 早くに覚醒してしまうと、それから先の敵全員「暗殺すればいいじゃん」となってしまうせいで最終章まで見せられなかったというストーリーを歪ませかねないチートです。


 それでは次回は『その絶望を裏返して2』です。

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