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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
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最終章 14話 町の孤島

 もうすぐ最終章の序盤が終わる予定です。

「まずは、こちらから敵を見つけなければいけませんね」

 美月たちは崩落した道を移動する。

 二人は物陰に身を隠し、周囲を確認しながら進んでいた。

 敵の位置が分からない現状。

 どちらが先に相手を見つけるかというのは大きなアドバンテージとなる。

 美月の魔法が暗殺向きである事を加味すればなおさらだ。

「それに、できれば乱戦の形で進めて行きたいのですが」

 もしも各個撃破しようとしたとして、最後の戦いに臨むころには疲弊しきっていることだろう。

 そもそも、全員を暗殺するなど都合のいい妄想だ。

 できても一人か二人。

 その後で、残る全員を相手にするのは苦しい。

 ならあくまで、乱戦に持ち込みたいところだ。

「仕切り直しになったのは痛かったですね」

 さっきまでの戦場は、黒白姉妹にとって理想に近いものだった。

 同じ状況を再現するのは難しいだろう。

「姉さん――」


「――――《彩襲形態(オーバーコート)》」


 声が聞こえた。

 少女の声が。

 そして気付いたときには――


「時計の針は氷解するわ」


「なッ!?」「えーっ!?」

 黒白姉妹の足が地面に沈む。

 二人が見たのは、地面に広がったゲート。

 まるで時間が止められたかのように唐突に現れたゲート。

 美月たちにそれを躱す術はなかった。



「痛たた……」

 美月は打ちつけた尻を手で押さえた。

 あのゲートに飲み込まれた後、二人が落ちたのは殺風景な一室だった。

 コンクリートが剥き出しになった壁。

 そこに家具は存在しない。

 いるのは――

「ようこそ」

 キリエがそう言って美月たちを出迎えた。

 彼女の傍らには花嫁衣裳のギャラリーが立っている。

 ――まるで《花嫁戦形(Mariage)》のようだ。

「……何ですか、それは――」

「ああ、これかい?」

 キリエは笑いながら親指でギャラリーを指し示す。

「コレ呼ばわりされるいわれはないわ」

 ギャラリーは不快そうに鼻を鳴らす。

「はいはい。じゃあギャラリーは外に出ておいてくれるかな?」

「――分かったわよ」

 一瞬だけギャラリーは美月たちを見た。

 そして何かを言いたげに口を動かしかけ――やめた。

 彼女はそのままゲートでこの場を去る。

「これで戦場はこの上なくシンプルだ」

 この部屋に残っているのは美月、春陽、キリエの三人だけ。

 その戦いの構図は単純明快。

(部屋は……十分な広さがありそうですね)

 美月は周囲の状況を確認する。

 スペースは確保できている。

 狭かったのなら彼女の《挽き裂かれ死ね(カット&ペースト)》の絶対切断を躱しづらくなる。

 その意味では、動く範囲が限定されないくらいに広い部屋が戦場となっているのは悪いことではないはずだ。

 もっとも――

「姉さん」

「はーい」

 美月の声で、春陽が腕を振るう。

 戦場に十分な広さがある?

 ――そもそもここを戦場にする義務なんてない。

 敵が用意した戦場を行儀よく使うつもりはない。

 そんな美月の考えを察し、春陽は壁に向かって光刃を放つ。

 そのまま壁を崩し、外を戦場にする。

 そう考えたのだが――

「「!」」

 光刃が壁に直撃するも――弾かれた。

 春陽の魔法が、ただのコンクリートに負けたのだ。

「アハハ……! うん。姉妹ちゃんはピュアだね。妹ちゃんの服はえっちだけどさ」

「その話って今必要なんですか……!」

 美月は短いスカートを引っ張る。

 もっとも、あまり効果はなかったが。

「まあいいや」

 キリエは鉤爪を消す。

 彼女の象徴的な武器である鉤爪。

 それを消した。

 だが、彼女の目には戦意が漲っている。

「この部屋はすでに、空間固定でカッチカチさ」

「そういうわけですか……」

 美月は歯噛みする。

 ここはすでに空間固定で作られた密室。

 町に現れた孤島だ。

 ギャラリーの能力で敵を密室に閉じ込め、キリエが殺す。

 シンプルだが、邪魔の入らない戦い方だ。

 逃げられない密室。

 負ければ死ぬ。

 勝っても――ここに封じ込められ死ぬ。

 少なくとも戦争に復帰することはできない。

 極論、旗色が悪くなった途端にキリエが空間転移で逃げてしまえば、美月たちに成す術がない。

 それこそ餓死するまで放置することすら可能だ。

「思ったより、悪辣な手を使うんですね」

「王は清濁併せ呑むものさ」

 ――そういえば。

「さっきのギャラリーのあれってさ……《彩襲形態》って言うんだよね」

 キリエが腕を振り上げる。

「まあ、つまり。こういうヤツだよ」


「《挽き裂かれ死ね・魂狩(カット&ペースト・)りの大鎌(クラック)》」


 彼女の手から赤黒い魔力が伸びる。

 一本の棒のような魔力は、先端部が三日月のように変化した。

 キリエが握っていたのは――赤黒い大鎌だ。

 死神のようなマントを纏い、彼女は立っていた。


「どういう力なのかは――見れば分かるさ」


 最初の頃は1章あたり20話を目安としていましたが、最近は30話と長くなり、天魔血戦編はさらに長くなりそうです。

 そして最終章はおそらく、序盤、中盤、終盤がそれぞれ1章クラスの長さとなる予定です。

 ちなみに、

 序盤――戦火拡大編。

 中盤――戦争決着編。

 終盤――物語終局編、といった感じになっています。


 それでは次回は『力がすべてを支配する』です。

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