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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
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最終章 13話 偶然を当然のように

 最終章の序盤が終盤に近付いております。

「ああ……くそ」

 地に倒れたままメディウムがそう吐き出した。

 彼女の体は氷撃に撃たれ、血を流している。

「にしても――さぁ?」

 メディウムは横になったまま悠乃を見た。

「手加減……した?」

 メディウムは力なく笑う。

 彼女の体は痣だらけだ。

 しかし、貫かれた箇所は一つたりともない。

 氷撃が直撃したというのに、だ。

「見えたんだけどさ。アンタが撃った氷――()()()()()()()()()()()

「やっぱり、良い目をしているんだね」

 悠乃は苦笑した。

 確かに、先程の攻撃においてあえて氷撃を尖らせなかった。

 鋭い氷塊を撃ち込んだ方が殺傷能力は高いにもかかわらず、だ。

「勘違いしないでよね。氷の成形だってタダじゃないんだ。これからの戦いのために魔力を節約したってだけの話だから」

 そう悠乃は笑いかけた。

 それを見たメディウムは一瞬目を見開くと、空笑いを漏らした。

「可愛いだけじゃなくて優しいって、ちょっと完璧すぎじゃないかと思うんだけど」

「可愛くないし。……それに、さっきのは優しさじゃないって言ったよね?」

「かー。可愛い上に優しくって謙虚って。女として勝ち目ないなー」

「……勝負として成立してないし」

 当然だが、悠乃は男だ。

 女としての戦いなど成立されても困る。

「アウトオブ眼中……。可愛い娘がふとした時に見せる毒かー。こういうのが男ウケするのかねー」

「……へ、へぇ。僕が思ってるより元気なのかなー…………?」

 悠乃がゆっくりと氷剣を振り上げると、メディウムが慌てたように両腕を上げる。

 降参のポーズだ。

「ちょ、待――。虚ろな目で武器を構えるのやめて欲しいんスけど……!」

「…………」

 悠乃は氷剣を下ろす。

 そして、そのままメディウムに背を向けるが。

「……なぁ」

 メディウムが問いかけてきた。

 悠乃は立ち止まり、首だけで振り返る。

 するとメディウムはこれまでとは打って変わって真面目な雰囲気で――

「アンタは、世界が救えると思ってるのか?」

 そう尋ねてきた。

 悠乃は魔法少女だ。

 だからこそメディウムはそう問いかけたのだろう。

 だが――的外れだ。

 そんな高尚な想いを悠乃は背負ってなどいない。

「ううん。僕は、友達を救うために来たんだ。世界を救えるかだなんて、考えてもいないよ」

「……そっか」

 ――じゃあ聞くけど。


「姫は――グリザイユ・カリカチュアは、その友達に入ってる?」


 その答えは、とうに決まっていた。

「僕が助けるのは()()()()()だよ」

「……そっすか」

 メディウムは両目を閉じた。

 彼女の表情は戦場とは思えないほど穏やかだ。

「姫にとって、人間と《怪画(カリカチュア)》は同じくらい大切なんだと思う」

 メディウムはそう語る。

 きっと彼女の言う通りだ。

 たとえグリザイユが――エレナが人間として生きることを決めたとしても、《怪画》という存在を簡単に切り捨てられるわけがない。

 情の深い彼女が、そんなことできるわけがないのだ。

 そんなに器用なら、きっと彼女はもっと上手に生きられただろう。

「だから、アンタが姫を助けるってことは、姫に《怪画》を諦めさせるってことだ」

「…………」

 否定は、しない。

 悠乃がエレナを連れて帰るとしたら、彼女の人生から《怪画》としての未来を奪うこと。

 父や、義妹との未来を奪うこと。

 それがエレナにとって幸せか不幸かは分からない。

 分かるとしたら、幸せなだけの未来でも、不幸なだけの未来でもないということ。

 そう簡単に割り切れる未来じゃないということだ。

 それは分かりきっている。

「でも、姫を助けなければ、姫は人間としての自分を諦めなきゃいけない」

 それも事実。

 そもそも、どちらも失わないベストエンドなんて存在しない。

 ただ、選ぶことしかできない。

「――それでも、なんでかなぁ」

 メディウムは微笑んだ。


「アンタなら、最善の未来を選べそうな気がする」


「さっきの攻撃……偶然の出来事も当然のように乗り越えて見せたアンタなら……奇跡だって、必然に変えちまいそうな気がするんだ」

「…………」

「アタシさ。別に魔王様への忠誠心なんてないから言わせてもらうけど――」


「今の姫って……明らかに無理しててさ、見てるのが辛いんだよ」


 ――だから、敵ながら応援しとくよ。

 そうメディウムは言うと、そのまま動かなくなる。

 規則正しく動く胸。

 これはただ呼吸をしているというより……

「敵の前で寝るって呑気だなぁ」

 ――僕も人のことは言えないけどさ。

 呑気に敵とおしゃべりをしていたのは自分だ。

 だが、話して良かった。

(勝たなきゃいけない理由が増えた)

 その重みが、悠乃を地面に縫い付ける。

 運命という激流に流されそうな彼女を、この場にとどめてくれる。

 抗うための力となる。

「璃紗」

「先、急ごーぜ」

 璃紗は視線で道の先を示す。

 この戦場のどこかに大切な仲間たちがいる。

 だから、止まってはいられない。

 運命の中、その場にとどまるだけでは駄目だ。

 逆行し、望む未来を掴みに進まねば。

「うん。行こう」

 悠乃たちは再び走り出した。



「うん。これは仕切り直しだね」

 崩落した町。

 建物の陰でキリエはそう呟いた。

「仕方ない。これはあれだ」


「非常に冴えた絶対的な策で勝利を掴むとしようか」


「……アタシの知る限り、アンタのそんな智将じみたところ見た覚えがないんだけど」

 呆れた表情でギャラリーが頭を振る。

 揺れたピンクのツインテールから砂埃が舞う。

「なに。運の良し悪しに左右されない最善策とは、いつだってシンプルなものさ」


「――――『力ずくで叩き潰す』」


 キリエが笑った。

 その目は爛々と輝いている。

「なんというか……すごい頭良さげな作戦ね」

 ギャラリーは目を逸らした。

「勘違いしないで欲しいな。別にアタシは、考えなしに力ずくと言っているわけじゃないのさ」


「王であるアタシが一番強いから力ずくが一番有効なわけだよ」


「…………これほどの深慮、初めて見たわ」

「おや。えらく素直じゃないか」

「で、アタシは別枠で作戦を考えて良いのかしら?」

「ダメ」

「…………嘘でしょ」

 

 ギャラリーは深くため息をついた。


 キリエの冴えた作戦が発動します。


 それでは次回は『町の孤島』です。

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