最終章 10話 《極楽冥土》
天魔血戦編序盤は、
美月、春陽VSキリエ、ギャラリーVS雲母、リリス
悠乃、璃紗VSメディウム、アッサンブラージュ
倫世VSシズル
となる予定です。
天魔の後継者同士の戦いなどは中盤くらいですかね。
「いっけぇぇ!」
メディウムの号令と共に、ゴーレムが腕を振り上げる。
超重量級の人形が放つ攻撃はそれだけですさまじい威力を有する。
「らぁ!」
重さの乗った拳。
それを璃紗は迎え撃つ。
大鎌に大量の炎を纏わせ、叩きつける。
結果は――拮抗。
《花嫁戦形》を使っていないとはいえ、ただ迫る拳を止めるためだけに璃紗は全力を振るっていた。
(この隙に――)
悠乃は氷剣を握りしめる。
足元に氷を張れば、ゴーレムの重心を崩せるはず。
そうすればあの鈍重な人形を無力化できる。
そこまで彼女が考えた時――
「璃紗!」
悠乃は見た。
ゴーレムの拳から黒い触手が伸びている光景を。
それが、璃紗の肩に触れる瞬間を。
あのゴーレムは街にある物を集積させて作ったものだ。
だから、あのゴーレムの構成要素は身近にある物。
車。電柱。アスファルト。
そして触手の正体は――電線。
「がッ……!?」
青白い電流が璃紗を襲う。
彼女は体を痙攣させ、動きが止まった。
そこを狙って――
「死んじゃってくださぁい」
アッサンブラージュが横から璃紗を殴り飛ばす。
吹っ飛ばされた璃紗はそのままビルに突っ込んだ。
砂煙に消える彼女の姿。
「!」
悠乃が彼女の援護に走ろうとした時、ゴーレムが動く。
ゴーレムは腕を薙ぎ、悠乃を弾き飛ばそうとする。
「《大紅蓮二輪目・紅蓮葬送華》」
悠乃は躱さない。
ただ氷剣の切っ先から、凝縮された冷気を撃ち出す。
冷撃のレーザーがゴーレムを貫く。
剛腕に開いた風穴。
悠乃は空中で身を丸め、そのまま穴を通り抜ける。
攻撃を受け止める手間さえ惜しい。
そのまま璃紗のカバーに入ろうとするが、
「《永遠の絆》!」
メディウムが地面を力強く踏みつけた。
直後、悠乃の足が動かなくなる。
「なっ……!」
悠乃の足元にあるのはゴーレムの破片。
彼女の足首まである残骸がメディウムの能力で接着された。
それはつまり、悠乃の足が地面と一体化するのと同義。
「砕ッ!」
メディウムの剣撃が悠乃を襲う。
「くっ……!」
一刀目は氷剣で防ぐ。
二刀目は《自動魔障壁》が阻んだ。
だが――
「! ……ぅぐ……!」
メディウムの爪先が悠乃の胃袋へと叩きつけられた。
胃の内容物がせり上がる感覚。
足元を固められているため、後退して衝撃を和らげることもできなかった。
(2対3……か)
ゴーレムが加わったことで数の上で不利になった。
2対2なら問題のなかった行動が隙となり悠乃たちに牙を剥く。
(消耗なんて考えている場合じゃないかも)
悠乃たちには目的がある。
大切な友達を助けるという目的が。
それを果たすためには戦いが避けられない。
ゆえに、魔力の消耗が激しい《花嫁戦形》の使用はギリギリまで避けたかったのだが――
「…………どうするべきかな」
悠乃は決めかねていた。
☆
「!」
倫世は身を反らす。
同時に、彼女の顎をナイフが掠めていった。
血の粒が跳ねる。
「――!」
瞬時に倫世は手中の獲物を剣から銃へとシフトする。
そのまま敵の姿を捉える手間さえ惜しんでの発砲。
続いて響く金属音。
それはシズルが弾丸を弾いた音だ。
それを理解しているから、倫世は宙返りで距離を取る。
「剣の間合いで戦うのは下策ね」
倫世はそう判断を下した。
純粋な剣技で負けている。
しかも、あの変幻自在の刃に翻弄されて防戦一方だ。
ならば相手の土俵で戦う必要はない。
――間合いの外から殺す。
「うふふふ」
シズルは笑う。
楽しそうに。
いや、楽しんでいるのだ。
この――命の刻み合いを。
「距離を取られてしまいました」
シズルも理解してだろう。
距離が開けば開くほど、戦いの天秤は倫世に傾く。
それでも彼女は揺らがない。
純粋に戦いを楽しみ続ける。
「離れたのなら、距離を詰めないといけませんね」
シズルはナイフを手放した。
そして――
「殺し愛の醍醐味は、肉を切る感覚が手に伝わる瞬間なのですから」
メイド服のスカートを持ち上げた。
それは洗練されたカーテシー。
「《極楽冥土》」
スカートの中から――シズルが現れた。
一人。二人。止まらない。
10人以上のシズルが戦場に現れる。
まるで気味の悪い手品だ。
「これ……は……!?」
想定外の事態に、倫世は目を見開いた。
『おそらく、奴のクローンだ。肉の人形に、己がストックした命を与えた。それがあの技の正体だろう』
テッサの言葉はおそらく間違っていない。
だが、真実を知ったところで脅威の大きさは変わらない。
もしもあのクローンがシズルと同等の技術を有しているのなら――
「「「「それでは――行きましょう」」」」
シズルたちがナイフを構える。
そして――駆けた。
「《貴族の血統》!」
倫世が射出した剣がシズルを貫く。
だが、クローンすべてを止めることはできない。
攻撃を防ぎきった一部の彼女たちは、倫世に接近する。
「面倒ね――」
倫世は眉を寄せる。
一対多。
それは本来、倫世の分野だ。
例えば《花嫁戦形》。
彼女の《貴族の決闘》ならば強制的に一対一へと持ち込める。
そうすれば数の優位など意味をなさない。
しかし、今回は例外だ。
あのクローンは――シズル自身の命だ。
命を共有している。
武器であり。あるいは彼女自身。
《花嫁戦形》でも彼女たちの分断できない。
数の不利は変わらない。
(決闘の強制に意味はない。でも――)
「《花嫁戦形》――――《貴族の決闘》」
(基本性能の補強くらいにはなる)
《花嫁戦形》を使えば、固有魔法以外にも基本性能の向上というメリットがある。
今回はあくまで後者を目的として《花嫁戦形》を解放した。
「はぁぁッ!」
倫世は双剣を手に立ち回る。
彼女はこれまでよりも数段速いスピードでシズルを迎え撃つ。
倫世の身体能力はシズルを凌駕している。
シズルの技巧がなければ、倫世の剣は一瞬にしてシズルを両断していただろう。
それほどの差がありながら、シズルは絶妙な角度で剣を受け流してゆく。
徐々にだが数に圧されてゆく。
均衡が――崩れてゆく。
「きゃ……」
「捕まえました」
倫世の背後に回ったシズルの腕が倫世の脇の下から突き出され、彼女の体を持ち上げた。
羽交い絞めにされ、倫世の自由が奪われる。
「うふふふふ」
シズルは倫世を囲み、微笑む。
「これからいっぱい、楽しみましょう」
「深く」
「闇よりも深く」
「熱情のままに」
「「「「命を散らしましょう?」」」」
倫世の体に刃が突き立てられた。
メイド。分身。
この二つの要素から分かる人もいるかもしれませんが、シズルは1章ラスボスであったレディメイドの師匠にあたる人物でもあります。
レディメイドは実は、メディウムとアッサンブラージュの先輩にあたるメイドだったという裏設定。
それでは次回は『無意識の同盟関係』です。




