最終章 9話 冥土に誘う手
倫世VSシズルです。
無数の魔弾がシズルに迫る。
一斉に迫る弾丸の嵐。
それを正確無比な動きで彼女は弾く。
一振りで数発の弾丸を薙ぐ。
ロスなく、最高効率で弾丸が斬られる。
だが――
「がッ……!?」
だが、それでも足りない。
たった二本のナイフでは、100を越える魔弾を防げない。
技術ではない。
物理的な問題なのだ。
無数の弾丸がシズルを撃ち抜く。
彼女は全身に風穴を開けて倒れ込んだ。
「これで終わり――」
倫世はガトリング砲の銃口を下げる。
そして――
「――なんて思っていないわよ」
倫世の目に一切の油断はない。
彼女は知っている。
魔王城での戦いの際、倫世はシズルを腰から両断したのだ。
それでも彼女は生きている。
全身を撃ち抜いたくらいで気を抜いたりはしない。
「うふふ……バレてしまいました」
嗤い声が響く。
そして、シズルは緩慢な動きで立ち上がった。
彼女の服は血まみれ。
しかし、滴る血液は少ない。
「もう……傷が塞がっているのね」
倫世は目を細める。
おそらくシズルが有しているのは――
「再生能力ね」
倫世の指摘をシズルは笑う。
嬉しそうに。狂おしそうに。
「半分、正解です」
「私の能力は――殺した命のストック」
「殺せば殺すほど命のストックが増え、その回数だけ生き返る。それが私の能力」
いうなれば残機だ。
殺した回数だけ、彼女の残機が増えてゆく。
「ストックできる命は《怪画》や人間に限られません」
シズルは落ちていた石を拾うと、投擲した。
石はあらぬ方向へと飛び、虫を潰した。
「これで一回」
シズルはナイフを投げる。
それは近くの木にあった蜂の巣を破壊した。
「これで、もう数えきれません」
「さぁ……何回殺せば、私は死ぬのでしょうか?」
シズルは笑う。
虫一匹でさえ一つの命とカウントされる。
それが事実なら、彼女がストックしている命は底知れない。
「何回でも殺してくださいね? 私も、殺してさしあげますから」
シズルは地を蹴る。
特攻というべき前進。
回避を考えない疾走。
「はぁっ!」
倫世が腕を振ると、剣が回転しながら飛んでゆく。
その刃は正確にシズルの首を落とす。
だが止まらない。
シズルの足は止まらず倫世を目指す。
「まだまだ終わりませんよ?」
シズルの頭が再生する。
死の直後だというのに、彼女の表情に怯えはない。
死にながらの接近により二人の間合いは縮まった。
「うふふ……!」
シズルがナイフを突き出す。
しかしそれは――
(この間合いで……!?)
確かに二人の距離は近づいている。
だが、まだナイフが届く間合いではない。
距離感を読み違えた?
いや。シズルほどの手練れがそんな初歩的なミスをするはずがない。
倫世の経験が警報を鳴らした。
「ッ……!」
倫世が首を傾けた直後に、頬が裂けた。
ナイフが伸びたのだ。
今の刃渡りは小太刀くらいにまで伸長している。
そのリーチの差が、倫世に刃を届かせた。
「もう一発ですよ?」
シズルはくるりと身をひねりながらナイフを振るう。
すでに間合いは肉弾戦の領域。
倫世はガトリング砲を手放し、剣を手にする。
そしてシズルの攻撃を防ぐが――
「……!」
ナイフの刃がしなり、倫世の剣を回り込むようにして彼女の肩を抉る。
(明らかにナイフの動きじゃないわ……!)
曲がる直前まで、ナイフの刃にあれほどの柔軟性はなかった。
突然、ナイフの形が変化したのだ。
まるで――生き物のように。
『倫世』
「ええ……彼女の能力が分かってきたわ」
倫世とテッサは同じ答えに至った。
目の前の状況を説明する答えに。
「シズルさん、だったかしら?」
倫世はシズルに剣を向ける。
「貴女……ストックした命をどう使えるの?」
倫世の問いかけ。
それはきっと、シズルが望むものだったのだろう。
――あんなに嬉しそうに嗤うのだから。
「私の能力は《巧手冥土》」
「殺した命をストックし。物体に命を与える能力です」
そう。
彼女のナイフは生き物のように曲がるのではない。
本当に生きているのだ。
「おそらく、見えない暗器もその能力の応用なのよね?」
生物となった武器は自由に形を変える。
「命を与えたナイフを『肌に偽造して』持っているんでしょう?」
何もないところから現れる刃物。
倫世の予想があっていれば、ナイフを肌のような質感・薄さに変化させ、誰にも分らないように貼り付けているのだ。
だからナイフが折れたとしても、すぐに補充できる。
それがあの手品じみた現象のタネ。
「あの剣技に、変幻自在の武器」
間合いも、斬撃の軌道も操れる刃。
それがシズルの技巧と合わさったのなら――
「思ったより苦戦しそうね」
倫世は剣を構えた。
☆
「ちっ……!」
メディウムは受け身を取ると地面を転がった。
彼女の体には無数の傷跡がある。
致命傷ではないが、決して浅くもない傷がいくつかあった。
(《花嫁戦形》なしでも戦えてる……!)
悠乃は油断なくメディウムを見据える。
現在の彼女は《花嫁戦形》をしていない。
それでなおメディウムと対等以上に戦えていた。
おそらく、彼女は弱くない。むしろ実力者だ。
以前の悠乃であれば《花嫁戦形》なしで打倒することは難しい相手だったことだろう。
それでも、今は通常状態でも戦えている。
それは悠乃の力が増していることの証明だった。
「もぉ。痛いですよぉ」
少し離れた位置でアッサンブラージュが頬を拭う。
彼女の頬には痣があった。
「顔殴らないでくれますぅ? 嫉妬ですかぁ?」
どうやら璃紗の戦いも、彼女が優勢に進めているらしい。
璃紗も何度か被弾しているものの、その足取りは力強い。
「ワリーな。嫉妬する必要なんてねーんだよな」
璃紗は笑う。
「アタシ、彼氏いるし」
「は、は、はぁぁ? ちょっと言ってる意味が分からないんですけどぉ。もしかして、おっぱいに栄養行き過ぎて馬鹿になってるんじゃないですかぁ? 爆乳には馬鹿と淫乱しかいないんですねぇ?」
「……後頭部にブーメラン刺さってるっスよ」
メディウムはため息をついた。
「むぅぅぅ~~~なんかムカついてきましたぁ」
アッサンブラージュは頬を膨らませる。
すると彼女は、いきなり胸の谷間に手を入れ始めた。
彼女が懐から取り出したのは――丸い球だ。
石を加工しただけのような球体。
だが、それには不思議な魔力が秘められていた。
「メディウムさん。奥の手、使っちゃいましょうかぁ」
「まあ――そうっすね」
アッサンブラージュの言葉に、メディウムは頭を掻きながらも同意する。
奥の手。
不穏な言葉に、悠乃たちは身構える。
「《想い寄せ》」
アッサンブラージュが黒球を投げ上げる。
それは周囲の物体を吸い集めてゆく。
車が。電柱が。
様々なものが集まり、重なってゆく。
「《永遠の絆》!」
空に顕現した塊にメディウムが触れる。
すると、崩れ落ちていたガレキが途端に止まる。
まるで塊を構築する物体すべてが接着されたかのように。
「《巧手冥土》」
アッサンブラージュが手にしていた球を投げ上げる。
それは《想い寄せ》に引き寄せられ、空中の塊に飲み込まれた。
「これは、わたしたちメイド隊3人の能力が合わさって初めて使える奥義ですよぉ」
突如――石塊が脈動した。
そして塊は動き始め――人間の形になる。
「《想い寄せ》で集めた物体を《永遠の絆》で固め、《巧手冥土》で命を吹き込む」
メディウムが笑う。
己の優位を確信しているかのように。
「名付けるならこれは――」
町中の物体をかき集めて作り上げられた人型の塊。
その体長は10メートルを超える。
あの重量級の物体が生み出す破壊力は計り知れない。
「文明のゴーレムってワケだ!」
メディウムの叫びに呼応し、ゴーレムが腕を振り上げた。
シズルは一言で言うと『速水氷華が魔法少女としての力を持っていた場合』という感じです。
身体能力的なハンデがないからこそ、技術が活きてさらなるチートとなります。
それでは次回は『《極楽冥土》』です。




