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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
221/305

最終章 8話 殺し愛

 最終章はこれまでで一番の長さになる予定です。

「《自動魔障壁(エスクード)》」


 それは本来、美珠倫世が使う魔法だ。

 自分に迫る攻撃を感知し、自動で魔障壁を作りだす。

 では――それは彼女の固有魔法なのか?

 答えは否だ。

 倫世の固有魔法は武器召喚。《自動魔障壁》と関わりがない。

 つまり、本質的に《自動魔障壁》は《魔光(マギ・レイ)》と変わらない、()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()

 だから悠乃は編み出した。

 自分なりに《自動魔障壁》のシステムを構築したのだ。

 周囲から迫る攻撃を感知する技術を。

 それに呼応し、意識せずに氷の盾を作りだせる理論を。

 きっとオリジナルとは違う系譜をたどった魔法。

 だからこれは悠乃流の《自動魔障壁》だ。

(僕は考えた)

 悠乃は敵を見据える。

(――どうなれば強くなれるかと)

 自問自答した。

(でも、そんなことを考えている時間なんてなくて。世界は、僕が準備を整えるまでなんて待ってくれない)

 迫りくる戦争の気配。

 そこで悠乃は結論付けた。

 力を得るための最短ルートを。

(だから――模倣した)


(最強の姿を!)


「はぁぁぁっ!」

 悠乃の叫びに応えるかのように、彼女の周囲に氷剣が展開される。

 そのすべてがメディウムを狙っている。

「いっけぇっ!」

 氷剣のすべてが射出される。

 それをメディウムは――

「く……!」

 二本の青龍刀が氷剣を砕く。

 だがそのうちの数本が彼女の体を裂いた。

「痛つつ……!」

 メディウムは体中に血をにじませて後退する。

「……えらく見覚えのある魔法なんだけど」

 メディウムの視線が悠乃に向けられる。

 悠乃はそんな彼女に微笑みかける。

「うん。だってこれは、彼女の魔法を参考にしているからね」


「参考にしているから――()()()()()()


「がッ!?」

 直後、メディウムが全身から血を噴いた。

 体に刻まれていた傷口が一斉に開いたのだ。

「《大紅蓮》」

 あの氷剣が掠めた時、わずかにメディウムの血を凍らせた。

 凍った血は血栓となり、血流を滞らせる。

 そうして血流は大渋滞を起こし、血管を突き破る。

「僕の攻撃は――毒入りだから」

「綺麗な花には棘があるってやつか……」

「…………違うもん」

 悠乃は頬を膨らませた。



「近くの店にこんなものがあって助かりました」

 黒髪の女性――シズルはメイド服を纏ってそう呟いた。

 近くにあった店に服を調達するために入ったのだが、どうやらメイド喫茶だったらしくこの服しかなかったのだ。

 もっとも、シズルは魔王ラフガのメイドであるので適当な服といえるかもしれないが。

「それに……見つけましたよ?」

 シズルは街を俯瞰し、目的の人物を見つけていた。

 狙撃を終えた彼女なら、すぐに地面に降り、目立たないように移動すると予想していた。

 そう考え、高所に陣取っていたのが功を奏した。

「うふふ……」

 シズルは跳ぶ。

 ビルの屋上から。

 彼女はメイド服のスカートを膨らませ、地面に降り立った。

「――貴女は」

 そんな彼女の姿に、金髪の少女――美珠倫世は立ち止まる。

「お久しぶりですね」

 シズルは微笑みかける。

 これから殺し合う相手への信愛を込めて。

「思ったより速い追跡ね」

 倫世が桜色の鎧を纏う。

 彼女の手には大剣が握られていた。

 倫世もまた、この戦いを避けるつもりはないらしい。

「双方の合意を得ての殺し合い」

 シズルは笑みを深める。


「これはもはや……和姦ですよね」


 彼女は下腹部を撫でた。

「わ……? え? そ、そうね……?」

 倫世も同意した。

 同意を得た。

 だからこれは――

「それでは、深く交わりましょう。命が燃え尽きるその瞬間まで」

 シズルは言葉を紡ぎ出す。

「――欲望のままに」

 シズルの言葉を聞いた倫世はわずかに足を引いて構える。

「……テッサ? 私、何かおかしいこと言ったのかしら?」

「お前の性癖次第だ」

 倫世の背中から緑色をした猫が飛び立った。

 彼はそのまま近くの街灯に着地する。

 戦場は整った。

 二人の距離は約100メートル。

「――行きましょうか」

「え、ええ……」

 シズルはナイフを抜いた。

 100メートルという距離に対し、超近接武器であるナイフ。

 この間合いを支配するのは――倫世だ。

「《貴族の血統(ノーブルアリア)》」

 倫世の周囲にいくつもの剣が現れる。

 十を越える刀剣。

 そのすべてが正確にシズルを狙っている。

「すぐに終わらせるわ」

 倫世の一声で、それらは一気に放たれた。



「…………!」

 倫世は顔をわずかに歪める。

 原因は、目の前の光景だ。

「うふふふ、うふふふふ、くふふふふふ……!」

 繰り返し奏でられる金属音。

 それは、シズルがナイフで剣を弾く音だ。

「――37本目」

 シズルのカウントが進む。

 37本。

 それは、彼女が弾いた剣の数。

「――まだよ」

 倫世の背後に剣が展開される。

 そして――射出。

「38。39。40」

 それでも、ただシズルのカウントが進んでゆくだけ。

 何度追加しても、彼女は正確に剣を弾く。

 それだけでなく、シズルは少しずつ距離を詰めてきている。

「はぁっ……!」

 さらに剣を追加。

 それをシズルが叩き落とした時――

「あら」

 ナイフが、砕けた。

 度重なる負荷に耐えきれなかったのだ。

「今ッ……!」

 殺しきる最高のタイミング。

 そう判断した倫世は、これまで以上の刀剣を投入する。

 剣が弾幕となりシズルを襲う。

「くすくすくす」

 それをシズルは3本目のナイフで剣を薙ぎ払う。

 まるで手品師のような手際だ。

『ふむ。奴の戦い方は暗殺タイプか』

 脳内でテッサの声が聞こえる。

 彼の考察が、倫世の脳へと送信されているのだ。

『倫世。奴を解析する』

 直後、倫世の視界に変化が現れる。

 彼女が隠し持っているであろう暗器を探知する。

 すぐにその場所が明るみに――

(どこにも武器を隠していない……?)

『あの暗器は、奴の能力が関係している可能性がありそうだな』

 普通なら、体のどこかに武器を隠しているはず。

 それがないということは、どこからか武器を生み出した可能性がる。

 それこそ、倫世の魔法のように。

「――そればかりを気にしている場合じゃないわね……!」

 倫世はさらに武器を追加してゆく。

 だがシズルは危なげなく剣の雨を進んでゆく。

 異常としか言えない技量だ。

(このまま近づかせるのは得策じゃないわ)

 前回の戦いで知っている。

 もし剣比べをしたのなら、負けるのは自分だと。

 だから十分な間合いを取って封殺するのが理想的。

 ゆえに――

「物量で押し切らせてもらうわ」

 倫世は――ガトリングを掴んだ。

 両手で抱えた巨大な銃身をシズルに向ける。

「この攻撃。たった二本のナイフで防げるかしら?」

 100を越える魔弾が――撃ち出された。

 悠乃の新スタイルは倫世の魔法を模倣し、そこにオリジナルの要素を足していったものです。

 彼女と二度も戦ったからこそできる芸当です。


 それでは次回は『冥土に誘う手』です。

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