最終章 7話 成長
悠乃、璃紗VSメイドコンビの戦いです。
飛来するトラック。
それを前にして、璃紗は逃げない。
腰をひねり、大鎌を片手で構えている。
「ピッチャー強襲……! ってな!」
璃紗はにやりと笑うと、大鎌を振り抜いた。
あえて刃ではなく柄の部分でトラックを打ち据える。
それだけではない。
大鎌の先端から炎が噴射され、スイングのスピードが上乗せされる。
「……おらぁッ!」
璃紗は一振りでトラックを打ち返す。
ただ打ち返しただけではない。
彼女が放った炎がトラックのガソリンに引火し、巨大な火炎弾となる。
その標的は――メディウムだ。
「ちょ、ちょ待――!」
メディウムはうろたえる。
だが重量級のトラックが止まるはずもなく――。
「《想い寄せ》」
アッサンブラージュの掌から黒い球体が浮き上がる。
それはまるでブラックホールのように周囲のものを吸い寄せる。
その勢いに引かれ、メディウムの体が浮いた。
彼女の体がトラックの軌道から外れてゆく。
「アージュ先輩ナイスっ!」
「あ、トラックまで引き寄せちゃいましたぁ」
「マジでふざけ――!」
トラックはメディウムごとビルに突っ込み大爆発を起こした。
爆風と共にガソリン臭が広がってゆく。
「や、やりましたぁ?」
「やってないッ!」
アッサンブラージュの声にメディウムが答えた。
まだ消えない爆炎。
その中から青龍刀が投げ放たれる。
回転する刃が狙うのは悠乃だ。
「っ」
悠乃はステップで青龍刀を躱す。
彼女の脇をすり抜けた刃はブーメランのように爆炎へと舞い戻り――メディウムの手に握られる。
「アージュ先輩。生存フラグサンキューっす」
「わたし、因果律を操作しちゃいましたぁ」
「いや。そこまで大層なことじゃないと思うけど……」
メディウムは呆れた表情で肩を回す。
服がわずかに焦げているが、肌に火傷は見られない。
ダメージはないと考えるべきだろう。
「じゃあ気を取り直して――」
「第二ラウンドだっ!」
メディウムが地を蹴る。
「アタシの相手はお前だぁ!」
メディウムは空中で回転しながら青龍刀を悠乃に向かって振り抜く。
体重と遠心力が乗った斬撃。
悠乃は腰を落とし、氷剣でそれを受ける。
「ぐっ……!」
それでも完全に威力を殺すことはできず、一歩下がった。
「まだまだ!」
メディウムの剣舞は止まらない。
彼女は独楽のように回り続け、悠乃に反撃の機会を与えない。
「悠乃……!」
「大丈夫!」
こちらの救援に向かおうとする璃紗を悠乃は制止する。
「大丈夫……! 彼女は――僕が倒す!」
これからの戦いを思えば、目の前の《怪画》に苦戦などしていられない。
彼女を一人で打倒できないのなら、どのみち戦い抜くことなど不可能だ。
「そうですよぉ?」
「アナタの相手はぁ……わたしなんですからぁ」
璃紗の背後にいたのは――アッサンブラージュ。
彼女は、璃紗が意識を逸らしたタイミングに乗じて、璃紗の背後に回ったのだ。
すでにアッサンブラージュは拳を構え、力を溜めている。
「死んでくれますぅ?」
放たれる剛腕。
「ちっ……!」
それを璃紗は左手で受け止めた。
璃紗はパワーに優れた魔法少女。
そんな彼女が数十センチとはいえ後ろに滑った。
彼女が――圧されたのだ。
「さらにもう一発ですぅ」
畳みかけるようにアッサンブラージュはもう一方の腕を構えた。
(まずい……!)
悠乃の脳内で危険信号が瞬く。
璃紗は今、左手で拳を受け止めたままだ。
アッサンブラージュはまだ力を抜いていないのか、璃紗は左手を動かすわけにはいかずにいた。
そして璃紗は――右手を使えない。
彼女は事故の後遺症で右手に障害が残っており、戦いに――ましてあのパワーを受け止めるような無茶ができる状態ではない。
つまり今度の攻撃を――防げない。
(あんなのが直撃したら――)
無事では済まない。
「璃紗……!」
「悠乃っ!」
悠乃が璃紗の援護に向かおうとした時、それを止めたのはほかならぬ璃紗だった。
「自分の女くらい……信じろ……!」
璃紗はそう言った。
不敵に笑って。
「脳漿ぶちまけてくださいぃ」
アッサンブラージュは躊躇いなくパンチを打ち出した。
狙うのは璃紗の顔面。
それを璃紗は――
「――ラァッ!」
頭突きで迎え撃った。
「いってぇ……!」
「ぃ……!」
璃紗の額が割れ、血が流れた。
アッサンブラージュの指が折れ、嫌な音が鳴った。
二人の距離が離れる。
「よそ見してて良いのかっ!?」
メディウムの声で悠乃の心が目の前の敵へと引き戻される。
「はぁっ」
悠乃は青龍刀を受け流す。
「璃紗も頑張っているんだ。僕も、負けてられない……!」
悠乃は凍らせる。
――地面を。
「なっ……!?」
メディウムが足を滑らせる。
彼女は高速で回転しながら、攻撃を続けていたのだ。
そんな不安定な挙動。
それに滑りやすい氷の上という条件が加われば、まともに踏ん張れるはずがない。
空中で彼女の体は横倒しになる。
それでも――
「せやぁッ!」
メディウムは腰をひねり、打ち下ろすような回し蹴りを放った。
氷剣は青龍刀を受けた衝撃で弾かれている。
すでに蹴りは顔面に迫っている。
もう身を守るだけの時間はない。
そんな中、悠乃に動揺はなかった。
「なっ……!」
メディウムの表情が驚愕に染まる。
打ち出された彼女の足が――六角形の障壁に阻まれていたからだ。
氷で作られた、六角形の薄膜が悠乃の眼前に展開されていたからだ。
その魔法が、あまりに似ていたからだ。
「――《自動魔障壁》」
――最強の魔法少女が使う魔法に。
最終決戦に向け、悠乃たちも準備をしてきています。
それでは次回は『殺し愛』です。




