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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
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最終章 3話 ファーストショット

 戦争が本格的に始まっていきます。

「アージュ先輩ィィッッ!」


 メディウムの声が響いた。

 弾丸に貫かれたアッサンブラージュの胸から血が噴き上がる。

 射手の姿は見えない。

 ――狙撃だ。

「メディウム……さん」

 後ろに向かって倒れるアッサンブラージュ。

 彼女の視線が、メディウムと交わった。

「……!」

 彼女の意図をとっさに理解した。

「せやぁッ!」

 メディウムは青龍刀を振り抜くと、その勢いのままに投擲した。

 ――アッサンブラージュに向かって。

 彼女は飛来する青龍刀の柄をキャッチすると――


「カウンター……ですよぉ」


 ――投げた。

 アッサンブラージュは最強のパワーを持つ《怪画(カリカチュア)》。

 彼女が全力で投げたのなら、青龍刀は弾丸を越えた速度で撃ち出される。

 彼女が狙っているのはとあるビル。

 弾丸が撃ちこまれた方角。

 そこから、狙撃手が潜伏しているであろう場所を割り出し――狙った。

 轟音。

 青龍刀による狙撃がビルの一角を破壊する。

 崩落するビル。

 降り落ちるガレキの中から、一人の少女が飛びだした。

「アイツはッ」

 メディウムは見覚えのある少女の姿に声を上げる。

 金髪のハーフアップ。

 姫のような気品と、騎士のごとき凛とした空気を兼ね備えた少女。

 ――美珠倫世だ。

「アイツが狙撃手か……!」

 倫世の手には対物ライフルが握られている。

 変わらぬ強者の姿。

 同時に、前回と違う点もある。

「――羽?」

 倫世の背中から白翼が生えているのだ。

 厳密にいえば、翼の生えた緑猫が倫世を掴んで飛んでいる。

 それにより、彼女は空中を自由に飛翔していた。

「ギャラリー!」

「はいっ!」

 グリザイユが指示を飛ばす。

 阿吽の呼吸でギャラリーはグリザイユの手元にゲートを出現させた。

「《敗者の王(グランドグレイ)》」

 グリザイユは拳銃を握った手をゲートに刺し込んだ。

 ――発砲。

 破裂音と共に連射された魔弾がゲートを通過し、倫世へと向かう。

 灰色の熱線が空を飛ぶ倫世へと伸びてゆく。

「思ったより機敏じゃのう……!」

 しかしグリザイユの攻撃はすべて躱される。

 想定していたよりも、倫世は自由に空を駆けてゆく。

 そのせいで攻撃が当たらない。

「ならば――」

 グリザイユは魔弾の種類を切り替えた。

 通常の弾丸から追尾弾へと。

 曲線を描く弾道。

 それらは攻撃を回避したはずの倫世を追ってゆく。

 しかし――倫世の背後の空間が歪む。

 次の瞬間には、彼女の周囲に複数の刀剣が展開されていた。

 それらの武器は倫世の指示で飛び――すべての追尾弾を撃ち落とした。

「――駄目じゃったか」

 グリザイユは嘆息する。

「…………もうよい」

 彼女はギャラリーにそう言った。

 彼女から命じられた内容にギャラリーが戸惑うも――

「あれではいくら撃っても当たらぬ。魔力の無駄じゃ」

「……分かりました」

 ギャラリーはゲートを閉じる。

 一方で、倫世はそのまま建物の陰へと消えていった。

 もう追うことはできない。

「トロンプルイユ」

「おう」

「アッサンブラージュを治療せよ」

「御意っと」

 グリザイユの言葉に従い、トロンプルイユはアッサンブラージュの治療を始める。

 胸に開いた風穴を幻想へと変えてゆく。

「くすくす。くすくすくす――」


「――――やぁっと、見ぃつけたぁ」


 《新魔王軍》へと撃ち込まれたファーストショット。

 大なり小なり皆が浮足立つ中――シズルだけは嗤っていた。

 くすくす。

 くすくす、と。

「――ラフガ様」

 シズルが口を開く。

 どこか淫靡な表情を浮かべた彼女はナイフを煌めかせ――


()()()()()()()


 ナイフをラフガの胸に突き立てた。

 突然のことだったからか、ラフガは一切の抵抗なく凶器を受け入れる。

「お父様っ!」

 キリエが絶叫する。

 シズルの凶行によって、周囲に動揺が走る。

 だが、その渦中にいる二人には一切の驚きはなく――

「なるほどな」

 ラフガはシズルの手首を掴む。

 彼の胸に――傷はない。

 シズルが突き出したナイフは、ラフガの皮膚を裂くことさえできていなかった。

 そんな光景に彼女は笑みを浮かべ。

 

「私は――魔王軍を抜けます」


 そう言いきった。

 だがラフガには想定内だったようで――

「そうか。理解した」

 彼は拳を握ると――


「なら逝け」


 シズルの顔面を殴り抜いた。

 びちゃりという凄惨な音。

 首から頭蓋が千切れる。

 それはゴルフボールのように吹っ飛び、ビルの向こう側に消えていった。



「――ありがとうございます。ラフガ様」

 クレーターの中心でシズルは微笑む。

 未だに衰えぬ狂気を浮かべて

「これで、思う存分に殺し合える」

 微笑むシズルの頭部。

 そこから――彼女の体が生えた。

 一糸まとわぬ姿で、彼女は立ち上がる。

「これでもう、私は魔王軍ではない」


「だから《貴族の(ノーブルアリア・)決闘(グローリア)》で誰も巻き込めない」


 ラフガによってシズルは追放された。

 彼の手によって、魔王軍という陣営から外された。

 ゆえに、彼女の死が《貴族の決闘》の能力によって利用されることはない。

「誰も巻き込まない、当人同士の殺し合い」


「……最高」


 恍惚とした表情でシズルは悶える。

 この戦争において、彼女は一人しか見ていない。

 美珠倫世。

 最強の魔法少女と呼ばれた彼女を殺すことしか考えられない。

 彼女を殺すまで、彼女を殺すことしか考えられない。

「うふふ……どこに行ったんでしょうか?」

 シズルは周囲を見回す。

 ラフガは彼女の意志を理解し――()()()()()()()()()()()()()()()

 だからそれほど遠く離れてはいないはず。

「もう……我慢できませんねぇ」

 シズルはナイフを舐め上げた。

 そして――


「――――――《極楽冥土(メイド・イン・ヘヴン)》」


 ここからそれぞれの陣営のメンバーは各地に分かれ、町中で戦っていくこととなります。


 それでは次回は『不確定要素』です。

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