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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
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最終章 2話 開戦

 魔王軍サイドです。

「あ~キンチョーしてきたぁ~~!」

 血戦の地にて、チャイナ服の少女がそう叫ぶ。

 少女――メディウムは体を震わせながら腕を突き上げる。

 それが武者震いか、ただの震えかは不明だ。

「浣腸して来た、だなんて卑らしいですぅ」

 そんなメディウムを見ながら、牛乳の女――アッサンブラージュは尻を振る。

「言ってないっスよね!?」

「イッてだなんてぇ……。メディウムさんは卑らしいですぅ。チャイナ服で生脚見せびらかしてますしぃ」

「そんな目で見てたんスか……!?」

 メディウムは深々と刻まれたスリットを手で隠す。

 もっとも意味はなかったが。

「ぶっちゃけぇ、メディウムさんのキック。たまにパンツ見えてますしぃ」

「え……! なんで教えてくれないんスか!?」


「うん。お前たち、ちょっと黙りなよ」


 騒ぐ二人の背後で底冷えする声が響いた。

 そこにいたのは身の丈ほどの鉤爪を伸ばした少女――キリエ・カリカチュアだ。

「お父様が世界を変える大切な戦いの前に、パンツの話なんてしないでくれないかな?」

「あ、ちなみにキリエお嬢はどんな下着なんですかあ。やっぱり、股間に銀色の十字架とか――」

「ちょぉぉ! お父さんの前でパンツの種類は聞かないであげてぇぇ!」

「ガールズトークですよぉ」

「下ネタっすよねぇ!? お父さんの前でとか羞恥プレイじゃないっスか」


「お前らさ――――」


 メディウムとアッサンブラージュの間を疾風が駆け抜ける。

 その正体は――爪撃だ。

 キリエが振り下ろした、絶対切断が付与された一撃だった。

「お前らさぁ、ふざけンのも大概にしなよ」

「「………………はい」」

 目の前の通り過ぎた凶刃によって頭が冷え、メディウムとアッサンブラージュは顔を青ざめさせながら後退した。

 さすがに開戦前に殺されたくはない。

「ちょっとシズル? このアホ二人は君の管轄だよね?」

 キリエは少し離れた位置にいる黒髪の女性にそう言った。

 濡れ羽色の髪が風に揺れる。

 大和撫子を具現化したかのような容姿の女性――シズル。

 彼女の口元は――

「ちゃんとコイツらには手話でも教えといてよ。手なら切り落としても死なないし」

 ――()()()()()

 くすくす。

 くすくすくすくす、と。

「って、聞いて――」

「ダメっすキリエお嬢……!」

「今のシズルさんに話しかけたら殺されちゃいますよぉ……」

「むぐぐ……!」

 慌ててメディウムたちはキリエを押さえつける。

 メディウムが俊敏な動きで口を塞ぎ、アッサンブラージュが力任せにキリエを抱きしめる。

「ダメだキリエお嬢!」「動いちゃダメですよぉ」「喋ったらダメっす」「動けないようにおっぱい揉んじゃいますよぉ」「鼻歌も歌えないように鼻も塞がないと……!」


「――――ふんっ!」


「もんぎゃぁぁっ……!?」

 キリエの肘がメディウムの顔面に叩きこまれた。

 メディウムは鼻を押さえてのたうち回る。

「鼻、鼻が~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

「あ、映画で見たことありますぅ」

 アッサンブラージュは呑気な様子でメディウムを覗き込んでいる。

 ――涙で視界が滲んだ。

「いててててて……。結構真面目な忠告だったのに……」

「君たちの言動は、基本的にふざけているようにしか見えないんだけどね」


 ――まあ。うん。だけど……今回は真面目だったらしいね。

 

 キリエはそう言うと、シズルへと目を向けた。

 普段は閉じている目を開き、不気味な笑みを漏らしている彼女を。

「やっと……本気で殺し合えますね。くす……くすくす」

 禍々しい魔力。

 いや――気配だ。

 本人から滲みだす狂気が魔力の質に影響を与えている。

 味方でさえ冷や汗を流すほどに恐ろしい雰囲気へと変化させている。

「確かに、今のアイツに話しかけたら噛まれそうだね」

 今のシズルに普段の温厚さは欠片も感じられない。

 まるで剥き出しの刃だ。

 いや、むしろ鞘に納められてなお隠しきれない妖刀と評すべきか。

「まあいいや。もうアイツらも来ているみたいだし、油断はしないようにね。あっさり殺されたりしたら、死体をミンチにするから」

「……死体蹴りより酷い」

 メディウムが肩を落とした時。

 バシュン……。

 そんな気の抜けた音がした。

 その正体は――銃声だ。

 サイレンサーを取りつけられたことで音が抑えられた銃声だ。

 銃声が鳴ったのなら、弾丸がある。

 であればその標的が誰だったのか。

「ぁ――」

 メディウムの隣で声が聞こえた。

 水音。

 彼女の隣では――アッサンブラージュが立ちつくしていた。

 胸を赤く染めて。

 あの弾丸は、アッサンブラージュを狙ったものだったのだ。

「狙……撃……?」

 ぐらりとアッサンブラージュが体勢を崩す。

 そのまま彼女は地面へと近づいていき――


「アージュ先輩ィィッッ!」


 メディウムの声が戦場に響いた。


 戦争の始まりとなる一発の弾丸です。


 それでは次回は『ファーストショット』となります。

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