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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
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最終章 1話 降り立つ女神

 ついに開戦です。

「気持ち良い朝だねぇ☆」

 桃色の髪をした少女は深呼吸をした。

 彼女は両手を広げ、全身に朝日を浴びる。

「希望の朝が来たって奴だね☆」

 少女――世良(せら)マリアは晴れ晴れとした笑顔を浮かべている。

 そんな彼女の背後には《正十字騎士団》の面々がいた。

 今、彼女たちは人間界にいる。

 ここが最終決戦の場となる。

 女神と魔王が雌雄を決する――天魔血戦の舞台となる。

「マリア。権能は回復したのかい?」

 翼を背負った白猫――イワモンがそう尋ねた。

 そんな彼の質問に彼女は明るく――

「うんっ。3割くらいは回復したよっ」

 3割。

 半分にさえ満たない力。

 今のマリアは、本来持っている10000を越える魔法のほとんどを使えない。

 だが――

「これなら……魔王を殺すには充分でしょ?」

 彼女の瞳に曼荼羅が浮き上がる。

 12枚の白翼が展開される。

 同時に――彼女の魔力が解放された。

「「「「…………!」」」」

 それだけで他の面々の膝が曲がり、腰がわずかに落ちる。

 重力が倍増したかのようなプレッシャーが、彼女たちの体を押さえつけているのだ。

 これは、マリアが魔力を解き放ったからではない。

 ――普段から垂れ流している魔力でさえ、これほどの力を持つのだ。

 今のマリアは、覚醒直後の10倍近い魔力を保持している。

 もはや《花嫁戦形(Mariage)》に至っていない魔法少女では立っていることさえ許されない。

 立っていたとしても、魔法少女では立ち向かう意味さえない。

 これは、種族のレベルで隔絶された戦力差だ。

 グーがパーに勝てないように、彼女に勝てる魔法少女はいない。

 そういうルールがこの世界では成り立っている。

「あ。向こうも来たみたいだねっ」

 そんな馬鹿げた魔力をにじませながらも、マリアは軽い調子である方向を見た。

 直後――世界が曇天に覆われる。

 空が横一線に裂け、強大な存在が現れた。

 《新魔王軍》だ。

 100を越える《怪画(カリカチュア)》。

 その隊列の中央には別格の魔力を持つ《怪画》――《魔王親衛隊(インヴェスターズ)》。

 さらにそんな精鋭に囲まれた灰髪の男。

 戦列の中心を歩む美丈夫は並々ならぬ気配を放っている。

 ――ラフガ・カリカチュアだ。

 この戦争において、最大の障害となる男だ。

「空が――灰色に染まっていくわ」

 金髪をハーフアップにした姫騎士――美珠倫世(みたまともよ)は風になびく髪を押さえながら空を見上げた。

 先程までの快晴が嘘のように曇っている。

 世界が絶望したかのように灰色に塗り潰されている。

「へぇ」

 その様子にマリアも感心の声を漏らす。

「さすがに女神の存在に自力で気付けただけあって、すごい力だねぇ」

 ――あれじゃあバグだよ。

 そうマリアは語る。

「生きているだけで世界を従える。才能じゃない。努力じゃない。運命のレベルで王となる存在。生きているだけで世界を傷つける、生まれながらのイレギュラー。生まれながらの悪。生まれながらの敵対者」


「魔王ラフガは、魔神の領域に足を踏み入れつつある」


「魔神? どういう意味だね?」

「うんとね。いうなら、魔法少女にとってのアタシだよ。悪という概念として、世界の敵を勝利に導く神」

 ――《花嫁戦形》の亜種を同族に付与できた時点で、可能性は考えてたけど。

 そうマリアは言った。

「ま、初めて見る相手じゃないけどね。魔神の卵なんて」

 世良マリアは女神だ。

 世界を守るシステムだ。

 これまでも1000や10000では足りないだけの戦場を――世界の危険因子を見てきた。

 その中には、悪神としての立場を確立しつつあった敵もいたのかもしれない。

 だからなのか、マリアに動揺はない。

「じゃあ、新しい人生の前に大掃除だね」

 マリアは薫子を後継者にして、人間としての人生を取り戻す。

 ゆえに、その過程で邪魔になるであろうラフガを排除したい。

 それだけ。

 彼女にとって、ラフガは快適な世界を確約するために拭い去るべき塵でしかない。

「ふむ。事前の想定を越えるような兵の数でなかったのは良かった」

 テッサが戦場を眺めながらつぶやく。

 彼は白衣を風で揺らしながら佇んでいる。

「これなら、数の差で押されることはあるまい」


「――起動せよ。()()()()


 テッサはそう宣言すると、手中の機械にあるボタンを押した。

 すると、彼の背後に黒いゲートが現れる。

 それは人間界と魔法界をつなぐ門だ。

 それが現れた理由は――

「オクショウは非人道的ではあったが、非合理的ではなかった」

 ゲートの中から少女が現れる。

 その姿は――

「凡人ならば、10人の魔法少女をそのまま手駒にしようとするだろう。だが、奴はあえて貴重な魔法少女に殺し合いをさせた」

 ――()()()()()()()()()()()

「そして――生き残り、経験値が蓄積された最高の魔法少女をクローン技術で量産することによって質と量を兼ね備えた軍を作る」


「それこそが魔造少女計画」


 魔造少女が次々と現れる。

 その数は50。

 数では《新魔王軍》の半分にしか及ばない。

 だが――この魔造少女たちは全員《表無し裏(フェイトロット・)無い(タロット)》を有している。

「八雲香苗のデータもあったおかげで『幸運の呪印』を刻めたのは僥倖だった」


「おかげで、《表無し裏無い》の発動確率を8割にまで引き上げられた」


 幸運の呪印。

 それは、対象を幸福へと導く呪印。

 あくまで不幸の呪印が良い方向に作用していたのは、雲母にとっては『死ぬ』ことが幸せだったから。

 だからこそ、彼女の精神性が適用されていない魔造少女には、同じ作用をするものとして幸運の呪印が刻み込まれている。

 だがその運命を補正する力は、雲母に及ばない。

 理由は三つ。

 単純に、対象を不幸にするより幸せにするほうが難しい。

 幸運の呪印もクローン技術による再現のため、そもそものクオリティが落ちている。

 最後に、心の底から雲母を想って呪印を刻んだ八雲香苗の覚悟を再現することなど最初から不可能だという点だ。

 これらの要素により、魔造少女はオリジナルに比べると二段ほど格が落ちる。

 だが、雑兵と呼ぶには破格の戦力だ。


「それじゃあ、戦争の始まりだねっ」


 魔法少女と《怪画》。

 女神と魔王。

 世界を巻き込んだ戦争が――始まった。


 オクショウが魔法少女を殺し合わせたのは、より強力な魔法少女を作るためです。

 強くするためには死闘が必要。

 しかし、敵との死闘では魔法少女が死ねばそこで終わり。

 魔法少女同士で殺し合えば、必ず一方の魔法少女は生き残るため研究体をロストする心配がない。

 減った人数は後でクローンで補うので問題なし。

 そんな思考から行われています。

 データさえ残っていれば、オリジナルが死んでからも量産できるということでかなり『戦争向き』の実験だったわけですね、


 それでは次回は『開戦』です。

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