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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
最終章前編 天魔血戦編
213/305

最終章 プロローグ 1月1日

 作中の時間はお正月です。

「やっぱり毎年、ここは人が多いんだね」

 青髪の少年――蒼井悠乃(あおいゆの)は境内を見つめながらそう呟いた。

 現在は1月1たちの午前。

 つまり、元旦だ。

 境内には初詣に訪れた人々が殺到していた。

「お、いたいた」

 悠乃の背後から少女の声が聞こえる。

 声のする方向に振り返ると、そこには赤髪の少女――朱美璃紗(あけみりさ)がいた。

「アタシたちが見つかんないもんだからって不安になったりしてねーか?」

「してないよっ」

 璃紗の言葉を慌てて否定する。

 そんな弱気な蒼井悠乃は5年前に卒業したのだ。

「本当に、してないよ」

 悠乃は微笑む。

「だって、璃紗は絶対に見つけてくれるからね」

「…………おぅ」

「もちろん、璃紗が迷子になった時は僕が見つけるよ」

「……じゃ、そん時は頼むわ」

 璃紗は照れ臭そうに頭を掻く。

「で? あとの二人はまだなのか?」

「うん。まだ来てないみたい」

 待ち合わせているのは二人だけではない。

 今日は新年を祝う日。

 そして、仲間と共にこれから先の戦いを切り抜けることを誓う日なのだから。

「あー。見つけたー」

「すみませんっ……遅れてしまいました……!」

 どうやらすぐそこまで来ていたらしく、悠乃たちが待つまでもなく二人の少女が駆けてくる。

 白い髪を揺らす妖精のような少女――黒白春陽(こはくはるひ)

 走ったせいかわずかにズレたメガネを直す黒髪の少女――黒白美月(こはくみつき)

 彼女たちも、悠乃とこれまでの戦いを駆け抜けてきた仲間だ。

「それじゃあ、行こっか?」

 悠乃は笑顔でそう言った。

 金龍寺薫子(きんりゅうじかおるこ)

 灰原(はいばら)エレナ。

 本来だったら、ここにいたかもしれない仲間の顔を脳裏に浮かべながら。

 それでも、彼女たちがいないことを――これから取り戻すことを強く誓って。

「あ、でもその前に――」

 悠乃は立ち止まった。

 そう。

 一つ、言わなければならないことがあったのを思い出した。

「そーいや、まだだったな」

「忘れちゃダメだねー」

「確かに、一つの儀式として必要かもしれませんね」

 口々にそう言って、悠乃たちは円を作る。

 そして示し合わせるまでもなく同時に――


「「「「明けまして、おめでとうございます」」」」


 そう言って、新しい年を迎えられたことを祝うのであった。



「――おみくじですか?」

「おおー」

 初詣。

 悠乃たちの前にあるのはおみくじ売りだった。

 それに対する黒白姉妹の反応は対照的だ。

「おみくじなんて非合理です。365回も機会があるんですから、よほど変なことを書かない限り当てはまるのは当然じゃないですか」

「見せ合いっこ楽しいよー?」

 そんなことを二人は言いあっている。

「……確かに、話題としての有用性は否定しませんが」

「じゃあレッツゴー」

「え? 買うとは言ってませんよね!? ね、姉さん……!?」

 美月は春陽に背中を押されながらおみくじ売り場に向かった。

 そんな二人を悠乃たちは見送った。

「悠乃はどうする? 買いに行くか?」

「うん」

 悠乃は微笑む。

「けっこう僕、おみくじ好きなんだ」

 悠乃は黒白姉妹のやり取りを懐かしげに見つめる。

 そこに、かつての自分の姿を重ねながら。

「良い結果が出たら当然嬉しいし。それに悪い結果だったとしても、僕たちはそれを自分たちの力で踏破できるって知っているから」

 悠乃の言葉に、璃紗も口の端を吊り上げた。

「そーだな。アタシたちは、5年前も、今回もそうやってきた」

 どんな困難も、すべて越えて来て見せた。

 誰かに助けられたこともあった。

 誰かを助けたこともあった。

 そうやって、みんなで壁を越えてきたのだ。

「というわけで、僕も買って来るよ」

 悠乃は黒白姉妹の後を追うのであった。



「大……凶」

 美月は目を見開き、おみくじを見つめていた。

 わずかに震えている気がする。

「あ。ここのおみくじって、まだ大凶入ってたんだ」

 悠乃は彼女のおみくじを覗き込むと、そう漏らした。

 ――確か、大凶をあえて入れていないところも多いと聞いていたが。

 ここは今でも大凶を入れ続けているらしい。

「う……おみくじの結果が悪かった程度で気を落とすだなんて……ひ、非合理です」

 美月はメガネを指で押し上げる。

 その態度は――明らかに動揺していた。

 日頃から彼女は合理主義者であるよう心掛けているが、内心では迷信を全く信じないというわけにもいかないらしい。

「そもそも、占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦。幸も不幸も解釈次第。気にする方が負けなんです……!」

 聞かれるまでもなく美月はそう並び立てる。

 あれは自分を落ち着かせるための言葉なのだろう。

「はいツッキー」

 そんな彼女に、春陽が紙片を差し出す。

「え?」

 それはおみくじだった。

 それも――

「大吉」

 ――大吉の。

「……それってもしかして」

「買ってきた」

 美月の言葉に春陽はそう答える。

 ――わずかに美月が視線を下げた。

 彼女は見つけたのだろう。

 春陽がポケットに押し込んだいくつもの紙切れを。

「……はぁ。たかが大吉のために、何度も引き直すだなんて――」

 きっと春陽は何度も引き直したのだ。

 大吉が出るまで。何度も。

 そして目的のおみくじを手に、妹の元に戻ってきた。

「――ありがとうございます」

 それを察することができない美月ではない。

 彼女は呆れたように肩をすくめつつも、少し笑いながらおみくじを受け取った。

「ねえ知ってる?」

 悠乃は指をさした。

 彼女たちの前方にある、二本の木を示すように。

「悪い結果のおみくじは『過ぎ()』に、良い結果のおみくじは『待つ()』に結べばいいんだって」

 そんな雑学を披露すると、美月は驚いたように木へと視線を向けた。

 彼女の反応を見るに、初耳だったらしい。

「そうなんですか?」

「…………教えてもらったんだ」

 5年前に。

 金髪の、頼れるお姉さんから教えてもらったことだ。

「そうですか――」

 美月は何度も見つめる。

 境内で伸びた大樹と、手の中にあるおみくじを。

 視線が何度も往復し、美月は微笑むと――

「でも、このおみくじは……お守りにします」

 そう言って、彼女はおみくじをポケットに入れた。

「ふふ……良いんじゃないかな?」

 それもまた一つの方法だ。

 幸せを待つのではなく、願い抱いたまま己の足で辿りつく。

 そういう生き方は、美月らしいと思う。


「どうせ、ここに結んでも処分されるだけでしょうから」


「……リアリストだなぁ」

 そんなことを考えてしまうあたりも、実に美月らしかった。


 今話は本作の番外編にあたる『もう一度世界を救うなんて無理:世界を救う少女たちの初詣』を読んでいただくと、より楽しめる内容となっております。


 それでは次回は『降り立つ女神』です。

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