8章 11話 二人きりのせいだ
悠乃たちのクリスマスパーティ後編です。
「じゃあ、ワリーけど結ぶのはやってくんねーか?」
「うん。任された」
悠乃はヘアゴムを手に璃紗の背後に回る。
食事を終えた後、二人の話題は髪型へと戻っていた。
以前、悠乃が失敗した髪型の写真を見せるための交換条件。
それをここで果たすこととなったのだ。
「アタシ、髪結べねーからな。案外、良い経験かもな」
そんなことを璃紗は口にする。
彼女は交通事故に遭った後遺症として右腕に障害が残っている。
そのため、上手くゴムで髪を束ねられないのだろう。
小学生の頃は結べるだけの髪の長さがなかったこともあり、璃紗はこれまで髪を結んだことがないのかもしれない。
「こんな感じかなぁ?」
悠乃は璃紗の赤髪を手に取った。
ふわりと香りがする。
髪から漂ってきたのは女の子の香りである。
想定外の方向からの衝撃に動揺しつつも、悠乃は璃紗の髪をまとめてゆく。
悠乃が指定したのはポニーテール。
一口にポニーテールといっても、結び目の高さによって特色が生まれる。
だがここは、高めの位置で一択だろう。
璃紗との相性を想うと、悠乃に他の選択肢はない。
「できた」
悠乃は璃紗の頭越しに鏡を覗き込む。
そこには璃紗を正面から捉えた光景が映っている。
「うわぁ。やっぱり、結構雰囲気変わるんだね」
「確かにな」
璃紗も気に入ったようで、顔を左右に向けながら鏡を見ている。
そのたびに赤い尻尾が左右に揺れる。
「そーいえば、この髪型って悠乃とおそろいだよな」
「あ」
璃紗に指摘されて初めて思い出す。
髪の長さが違うため印象も違うが、確かに魔法少女としての悠乃の髪型もポニーテールに分類されるだろう。
おそろいと評するのも間違っていない。
無意識とはいえ、恋人と髪型でペアルックをしているとは思ってもいなかった。
自分で自分の髪など見ないのだから意外と気付けないものだ。
(――――――)
いつもと違う姿の璃紗。
普段は隠れているうなじへと悠乃の視線が誘導されてゆく。
前に男性が好む女性の部位に『うなじ』が挙げられているのを見たことがある。
とはいえ、所詮は後頭部にある生え際。
そこに特別さを見出すことなどあるのだろうか。
そう思っていたのだが――
(――――ぅぅ)
今なら気持ちが分かるかもしれない。
白い首と赤い髪の境界線が。
わずかに数本だけハネた毛髪が。
なにより、そこが普通なら見ることのできない場所あるという事実が。
魔力じみた力に惹かれ、悠乃は璃紗のうなじを見つめていた。
――イタズラしたくなる。
「……ふぅ~」
「なはぁぁん!?」
吐息にくすぐられ、璃紗が大きく跳ねた。
「ちょ……悠乃! いきなりなに――」
「ゆ、悠乃ぉ……!? 写真撮るだけ話だっただろーがぁ……!」
「だって、僕の恥ずかしいところを見せちゃう代わりだもん。ちょっとくらいイタズラしてもいいかな~って」
「恥ずかしいのベクトルが違うんだって……!」
璃紗はそう猛抗議した。
いつもよりも浮足立ったテンションで二人のやり取りは続く。
それは聖夜のせいか。
それとも二人きりのせいか。
その答えは本人たちにも分からない。
二人の不毛なようで何にも代えがたい大切なやり取りは、悠乃の両親が帰宅するまで続くのであった。
最終章はほぼ最初から最後までバトルパートとなるので、今章が日常回の終わりとなるかもしれません。
それでは次回は『孤高の魔法少女とその翼』です。




