8章 プロローグ2 バトル・オブ・マギの主催者
プロローグは3話構成の予定です。
結晶で作られた牢。
その奥にはある魔法生物がいた。
猫だ。
体長は3メートル以上。
牢屋暮らしであるとは思えないほどに肥大化した腹。
彼――オクショウは壁に身を預けて薫子たちを出迎えた。
「おやおやおやおや。テッサじゃないか。それに――」
「――見覚えのあるモルモットがいるなぁ」
「……!」
オクショウの目が雲母に向けられる。
たったそれだけで彼女はわずかに肩を震わせた。
バトル・オブ・マギ。
強制的に魔法少女とされた者たちを集め、開催されたバトルロワイヤル。
多くの屍を踏み越え優勝者となった雲母にとって、この上なく因縁の深い相手といえるだろう。
そして、絶望の象徴だ。
「ふぐ……ふぐっ」
一方でオクショウは牢屋の中で呑気に食事をしている。
脂っこい食べ物ばかりだ。
どう見ても囚人の食事ではない。
優秀な者ということに由来する特例措置なのだろうか。
「いやはやいやはや。面白いものだね。囚人である僕が自由を満喫していて、解放されたはずの君が絶望に囚われ続けている。面白いなぁ」
「誰が――!」
イワモンが苛立った様子で踏み出す。
あまりにもオクショウの発言は目に余る。
だが――
「オクショウ。お前をここから出してやる」
テッサはそう宣言した。
「んんー? おやおやおや。テッサ。君としては最大のライバルである僕が解放されると困るんじゃないかなぁ? それとも、もしかして議会に選ばれたからといってもう目上面をしてるのかい? 僕だって魔造少女の有用性が認められたら――」
「御託は良い。お前の魔造少女を使う予定ができた。あれはお前にしか扱えない。だから出してやる。必要な情報は開示した。5秒で返答しろ」
「相変わらずせっかちだなぁ君は。もっと詫び寂びや、風情を愉しんだらどうだい? 研究者にだって品性は必要だろう?」
「自分の腹を見てから言え。見えるならな」
「そう言われると思って、この部屋の壁には鏡があるんだ。うう~ん。実によく見える。で、今の行為に何の意味が? 効率厨のテッサ君?」
これ以上の問答は無駄と判断したのか、テッサはオクショウに歩み寄る。
そして彼はオクショウの頭にリングを投げつけた。
「その冠は、罪人の行動や所在地を見張るためのものだ。付けておけ」
「面倒だからつけてくれるかなぁ。腕が上がらなくてねぇ。ぐふ……ぐふっ」
不潔さを感じさせる笑い声。
彼と初対面である薫子たちでさえ眉をひそめていた。
「うむ~。では、仕方がない。出るとしようか」
テッサによって冠をつけられたオクショウは緩慢な動きで立ち上がる。
それだけで地面が揺れ、天井から砂が落ちた。
彼はドスンと重量感のある足音と共に牢屋から出た。
「ああ。そうだ」
オクショウの視線が雲母に向けられる。
「せっかくなら魔造少女のクオリティは上げたいなぁ。以前は、雲母ちゃんが暴れたせいで充分なデータが取れなかったし」
「…………!」
身を固くする雲母。
そんな彼女にオクショウは歩み寄り――雲母の顔を覗き込む。
「以前より魔力が上がってるなぁ。良いモルモットになってくれそうじゃないか」
「ぃ……ひ……」
雲母の表情は隠し切れないほどに引き攣っている。
彼女にとってオクショウは今でも恐怖の代名詞なのだ。
それを理解しているのだろう。
オクショウはさらに口元を歪め――
「《花嫁戦形》に至った魔法少女を無限に生産できるなんて事になったら。僕は間違いなく議会に――」
ニヤけ顔を隠しもしないオクショウ。
そんな彼の後ろにテッサはいた。
「お前は議会に入りたいのか?」
「言ってるだろう? そもそも、これまで僕が入れていなかったこと自体がおかしいんだ。だから、馬鹿には分からない崇高な研究から、馬鹿でも理解できるような即物的な研究にシフトしてまで――」
「そうか」
「なら、議会のメンバーと同じところに連れていってやる」
「は?」
バシュッ……。
そんな気の抜ける音だった。
だが、その音が起こした結果は――死だった。
「なんで――」
「解析完了だ」
オクショウは背後から首を撃ち抜かれていた。
手を下したのは――テッサだ。
彼はサイレンサーのついた拳銃を手に、オクショウを射抜いた。
「な、な、なぁ……! 僕の頭脳が必要なんじゃなかったのか……!?」
「必要だった。だからスキャンした」
テッサは懐から機械を取り出す。
子供の手におさまりそうなほど小さな装置。
それをテッサは持ち上げ。
「さっきお前につけたのは監視用の装置ではない。記憶をスキャンするための装置だ。お前につけた冠から、すでにお前の記憶をコイツへと落とし込んでいる。つまり、もうお前の頭脳はいらない」
オクショウの巨体が地面に倒れる。
そんな彼の頭にテッサは乗ると。
「お前は私に『頭脳を提供』し、私は『お前を牢から出し』、『議会の連中と会えるよう手配』してやった」
「契約は無事に達成されたな」
酷薄な面持ちでテッサは拳銃をオクショウの後頭部に押し付ける。
そして――
「殺しちゃうなんて可哀想だヨォ」
リリスが弾丸を腐敗させた。
腐食した凶弾はあまりに脆く、オクショウの体に傷をつけることはない。
「…………何をしているのかね?」
テッサは静かにリリスを見つめた。
その瞳には静かな苛立ちが込められている。
「キハハ……!」
一方、リリスはただ嗤っていた。
狂気の眼光を迸らせながら。
☆もしもテッサの中の人がRTA走者だったら
「無間牢にはみんな大好きヘイト王のオクショウが待っています。本来、彼が仲間になる確率は50%くらいなんですが、雲母が仲間にいると確定で仲間になります。だから雲母を《逆十字魔女団》に入れておく必要があったんですね。
ほら、あくしろよ。さっさと出てきてくれませんかね。こっちはRTAやってんだよ。三歩以上は走れって習わなかったんですかね。
ただコイツ。仲間としてはめちゃくちゃ有能なんですけどデメリットもあるんですよね。それが『雲母の正気度の急降下』です。このままだと決戦前に雲母が発狂して――マリアを頃します。
いや妙なバグが残っているのか、マリアが《女神に外れる道はない》を使った瞬間に画面が暗転してゲームオーバーになるんですよ……意味分からん。
はぁ~~~~~~~~~~~~~つっかえ。たかが一人の魔法少女に負けるとか。やめたら女神? (本人も希望)
というわけで、雲母が発狂するとリセット確定です。なので~、オクショウが余計なことをする前に――ゴミはゴミ箱! ロリコンは警察!
ょぅι゛ょに野獣の眼光を向けるとかありえないんだよな~。……って、あれ? 見たことないイベントですね。え? リリス? なんで?
……………………ガバった?」
それでは次回は『世界で最も汚い流星』です。




