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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
7章 もう一度ここから始めよう
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7章 28話 未来を視るということ

 もう少しで7章も終わりです。

 人は選択を後悔する。

 選ばなかった未来が、より良いものであったかなど証明できないのに。



「…………んにゃ」

 寧々子は目を開けた。

 体の芯が温まるような感覚。

 気が付くと、彼女の体は光に包まれていた。

 これは治療光だ。

「大丈夫ですか」

 薫子の声が聞こえる。

 どうやら彼女に治療されたらしい。

 ということは、一時的に気を失っていたのだろう。

 寧々子は頭を振って意識をはっきりさせる。

「やっぱり、1対1じゃ厳しいにゃん」

 相手は《新魔王軍》の中で最強格の実力者だ。

 対等条件での勝負となれば不利だ。

 いや――

(2対1でも……)

 勝つことは難しい。

 それが寧々子の予想だった。

 攻撃が当たらないわけではない。

 だが、押しきれない。

 それに彼は寧々子たちの対策を考えてここにいる。

 先程の未来視封じ。

 あれを使われてしまえば寧々子の能力はほとんど封じられる。

 なにより――

(薫子ちゃんの消耗も激しいにゃん)

 寧々子は薫子の横顔を盗み見る。

 彼女の瞼が下り――また開く。

 彼女は何度も目を細め、再び元に戻る。

 おそらく意識を保つだけでも難しいほどにダメージを受けている。

 今にも気を失いそうな状態で立っているのだ。

 さっきの攻撃で脳にかかった負荷が抜けていないのだろう。

 あんな状態では一秒以下を争う戦場に立ち続けられるとは思えない。

(やっぱり――)



(なんとか立てましたね……)

 薫子は安堵していた。

 正直、戦える体調ではない。

(でも――立てれば案山子でも役には立ちます)

 薫子は汗を拭うフリをして――指で前髪を垂らす。

 はらりと前髪が下り、薫子の目元を隠す。

 ()()()()()()()()()()()()()

 あとはフラつかないように全神経を集中して直立を貫く。

 これで玲央には薫子が無事に動けるように見える。

 ハッタリ程度には役立つだろう。

(あとは爆弾を手に持って、それらしい素振りを見せて対応しましょう)

 牽制で玲央の動きを制限する。

 今の薫子にできるのはそれくらいだ。

「薫子ちゃん」

 寧々子が耳元でささやく。

「アタシが一人で行くにゃん」

 ――援護よろしくってことで。

 そう寧々子は微笑む。

 薫子の状態を察したのだろう。

「……お願いします」

 できることは多くない。

 残った体力から考えて、チャンスは一度だけ。

 苦し紛れのハッタリも、玲央はすぐに気づくだろう。

 だから、覚悟を決める。


 ――次の攻防で玲央を殺しきる。



(次で決めきれなかったらアタシたちはお陀仏にゃん)

 寧々子はそう理解していた。

 これまでの経験から、次こそがラストチャンス。

 次の攻防で一手でも間違えたのならば、それは寧々子たちの死を意味する。

「――本気で行くにゃん」

 寧々子はその場で四つん這いになる。

 獲物を狩る猫のような構え。

 そして――未来を視る。

 《黒猫は死人の(キャッツアイ・)影踏まず(デスサイト)》。

 その能力は――死の未来を視る。

 未来は不確実なものだ。

 たった少しの挙動で揺らぐ。

 だからこそただの未来視では読み落としも多い。

 だが死のみに集中したこの能力であれば効果範囲が狭まる代わりに、その範囲内での読み落としは起こらない。

 ――死を読み、一撃で殺す。

 回り道はいらない。

 ただ一直線に。

 玲央の能力は幻影。

 下手に時間をかけるほど、彼の準備は整ってゆく。

 だから最短最速の一撃こそが最適。


「それじゃあ――行くにゃん」


 寧々子は地を蹴った。

 強化された脚力が床を破壊する。

 初速で最高速。

 今の彼女は一つの弾丸だ。

 広いとはいえ一室。

 寧々子と玲央の距離はそれほど大きく離れてはいない。

 1秒さえかからない間合い。

 最後の一手が――始まった。

「――!」

 玲央もこの展開を読んでいたのだろう。

 寧々子が飛びだすと同時に、世界が鏡に囲まれる。

 ――これで未来はもう見えない。

 ここからは手探りの未来。

「させるか……!」

 玲央の前に鎗が出現する。

 鎗は柵のように寧々子を待ち構える。

 ここで稼いだ一手で寧々子たちを殺す手段を整える。

 そのための行動。

 寧々子は急ブレーキをかけその場に止まる。

 鎗の先端が眼球に触れそうなほど近い。

 寧々子と玲央の視線が交わった。

「――お前たちの未来は死。それは絶対だ」

 未来を視たくらいで覆すことなどできない。

 そう玲央は断言しているのだ。

 その姿に――寧々子は笑みを浮かべた。

「未来の見えるアタシに未来を語るなんて……とんだピエロにゃん」

 寧々子は笑う。

 浮かべているのは――勝者の笑みだ。

「アタシの未来は死?」


「――()()()()()()()


 次の瞬間、寧々子は床を蹴りつける。

 そして玲央への最短ルートをかけた。

 ――鎗に全身を貫かれながら。

「なっ……!?」

()()()――()()()()

 鎗が根元まで抉り込む。

 心臓すら貫かれながらも――寧々子は玲央に肉薄していた。

 未来は――確定した。

「がッ……!」

 寧々子の手刀が玲央の胸を貫く。

 二人の体から鮮血が噴き上がった。

「なんで――だ」

 玲央が血を吐きながら問いかける。

「死の未来が視えていたはずなのに……なんで」

「アタシは――大人だから」

 二人の苦しげな吐息が重なる。

「大人だから、()()()()()()()()()()()

 このまま戦えば、薫子が死ぬ確率は高い。

 それは寧々子の死を読む能力で分かっていた。

 だから――死ぬ人間を選んだ。

「未来を視るということは……都合の良い未来を選ぶということじゃないにゃん」

 それを寧々子は知っている。

 魔法少女として世界を救うために戦ったから知っている。


「未来を視るという事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「だから、アタシは覚悟したにゃん」

 寧々子は笑う。

 致命傷を受けてなお。

「自分の死を……覚悟したってわけか」

「――そうにゃん」

 全身から血がこぼれる。

 同時に命も流れだす。

 分かる。

 もう――助からない。

 この瞬間に治療を受けても、もう間に合わない。

 だが後悔はない。

 選択が正しかったかなど大事ではない。

 選択が正しかったと信じる事こそが大事なのだ。

 信じるからこそ、覚悟を持って踏み出せる。

「――――正直、尊敬するよ」

 玲央の声が耳元で聞こえる。

「自分が死ぬという未来を視てなお、それを受け入れ――進む勇気」

 玲央が笑った。

 表情は見えていないが、分かる。

「本当に、勉強になる」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「…………え?」

 寧々子が問い返そうとするも――

「今から死ぬ奴にとはいえ口が軽すぎるぜ――ったく」


「じゃあ、運命通りに死ね」


 玲央がサーベルを振るう。

 幾筋もの剣閃が寧々子を蹂躙する。

 近づく死がさらに加速する。

「せめてもの礼だ。喉は裂かない」


「守りたかった奴に、遺言でも遺せばいいさ」


 そう言った玲央は――微笑んでいた。

 優しそうで、どこか泣きそうな。

 少なくとも、戦場で見せる表情ではない。

(ああ――そうか)

 玲央の姿が遠のいてゆく。

 寧々子の体は宙を舞い――床に落ちてゆく。

 だが痛みはない。

 もうこの命は、痛みから解放されていた。

 心地良ささえ感じる死の中で寧々子は微笑む。


(君も――()()()()()()()()()()()()()()()


 魔法で視た未来ではない。

 だが――

 きっと寧々子が視た未来は間違っていないだろう。


 次回で美珠邸の戦いは終了です。


 それでは次回は『未来は変わらない2』です。お楽しみに。


☆ねこねこ寧々子なキャラ紹介

三毛寧々子

年齢:25歳

誕生日:3月24日

身長:163cm

バストサイズ:E

好きなもの: チーズ

嫌いなもの: くさや(上司からのお土産としてその場で食べさせられた)

備考: ごく普通の会社員

☆1年に及ぶ現役時代において、半年以上を裏切り者として戦い抜いた魔法少女。仲間は敵となり、魔法生物からのサポートもない。そんな状況で戦ってきたからか精神的にもしっかりしており、奇抜なメンバーばかりの《逆十字魔女団》におけるバランサーとしての役割を担う。一方、仲間がいると気が抜けるのか、現役時代にも仲間と和解してからはマイペースな行動で周囲を振り回す天然な面が見られた。なお、現在のメンバーは癖が強すぎてツッコミに回らざるを得ない状況が続いている。ちなみに、最終的には4人で世界を救ったため『一人で世界を救った魔法少女』にはカウントされなかった。

 語尾の「にゃん」は猫の魔法少女に変身し続けた影響であり、本人としては不本意。趣味はヨガであり、体はかなり柔らかい。好物はチーズだが、高級になればなるほど口に合わず、最終的にスーパーで売っているプロセスチーズに戻ってくる。このように、世界を救ったことを除けばごく普通の女性である。

 ともに世界を救った犬飼アリサ、有川大河、羽鳥翔子とは今でも交流がある。だが《逆十字魔女団》に関する話は一切していない。目の前の誰かを見捨てられず、一人で重荷をすべて背負ってしまう。それは彼女が生来持つ気質であり、大人になっても変わらなかった部分なのであろう。

 余談だが、《逆十字魔女団》に加入した順番は、初期メンバーであるイワモン、倫世、リリス。次に雲母、紫と続き、寧々子は最後。


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