表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
7章 もう一度ここから始めよう
188/305

7章 24話 捨て駒

 美珠邸での戦いが始まります。

「いえ。わたくしも残ります」

 寧々子は倫世邸に戻り、薫子に事情を話した。

 それに対する彼女の返答は寧々子の期待に沿わないものであった。

「拠点の移動なら、マリアとイワモンだけで充分です。わたくしも彼の迎撃に向かいます」

「な――」

 寧々子は言葉を詰まらせる。

「だ、ダメにゃん! 薫子ちゃんは――女神適性のある数少ない魔法少女だから……! ここでもしものことがあったら困る……から……!」

 説得を試みる寧々子。

 だが薫子の表情は凪いでいて、寧々子の言葉が届いているようには思えない。

 それでも寧々子が必死に言葉を並べ終えると、薫子は微笑む。

「大丈夫です。女神適性のある魔法少女は()()()だけ。実際、イワモンはわたくし以外にも2名候補がいると言っていました」

「…………」

「つまり、わたくしは唯一ではない。だから、消費しても問題ありません」

 消費。

 それはまるで――物のようだ。

 薫子はもう、自分を人として見ていない。

 ただの物。

 ただのシステムとして見始めている。

 まだ彼女は女神としての力を受け継いではいない。

 それでも、心が女神に組み変わりつつある。

「だからわたくしは残ります。あくまで守るべきはあの二人だけですから」

 ――すでにイワモンは世良マリアを連れて離脱している。

 《正十字騎士団》において、あの二人は核だから。

 それでも――

(それでもアタシは――)

 寧々子が一番にこの場から遠ざけたいのは、薫子だった。

 なぜなら――


「それに、時間はなさそうですよ?」


 薫子がそう言った。

 直後、寧々子の背後の床が破壊された。

(……迂闊だったにゃん)

 どうやら話に集中しすぎて未来を読み逃していたらしい。

 下から突き上げるように破壊された床。

 そこから一人の男が飛びあがってくる。

「――やっと見つけた」

 男――玲央は嘆息すると、ゆっくりと床に降り立った。

 彼の服には傷や汚れがある。

 しかし彼自身の体は無傷といって良い。

 何より――

「リリスちゃんと雲母ちゃんを倒して来たってことにゃん……?」

 信じがたい話だ。

 個々人としても強力な魔法少女。

 コンビとしての相性も良い。

 そんな二人が、敗れた。

 彼一人の手によって。

「薫子ちゃん。やっぱり逃げるにゃん」

(アタシは、あの二人より弱い)

 リリスと雲母が協力して勝てなかった相手に、自分が挑んで勝てるだろうか。

 それは難しいと彼女は判断していた。

 たとえ薫子と協力してもさほど分の良い賭けにはならないだろう、とも。

(こうなったら最悪――)

「アタシがちょっと時間を稼ぐから薫子ちゃんは逃げて」

 寧々子の能力は未来視。

 守りに徹したのなら時間は稼げる。

 あとはスピードと危機察知能力任せに逃走する。

 勝とうと思わねば、不可能ではない。

「いえ。二人で始末しましょう」

 だが薫子はそう宣言した。

「ここなら、有利に戦えます」

 薫子はそう続ける。

「わたくしたちは建物の間取りを知っていて、彼は知らない。幻術使いと戦うにあたって、これは大きく作用します」

 薫子の言い分も間違ってはいない。

 幻術は『相手に自覚させない』ことで最大の効果をもたらす。

 リアリティのある幻術。

 それを破ることは困難だ。

 だが、玲央はこの屋内の構造に詳しくない。

 ゆえに本物と見間違うような幻術は使えない。

 幻術が幻術である事を看破できたのなら、対抗策を打てる。

 そういう意味では、彼が把握していない障害物の多い邸内は悪くないステージだ。

 もっとも――

(それでもアタシは、薫子ちゃんを戦わせたくなかったにゃん)

 ――寧々子の気持ちが変わるわけではないのだが。



「おいおい。人の家でテンション上げすぎだろ」

 玲央は首を傾ける。

 すると彼の背後の壁が砕け、彼の頭があった場所に拳が打ち込まれる。

 攻撃の主は――薫子。

(廊下から回り込んで、隣の部屋から壁越しに攻撃――か)

 邸内の構造を熟知しているからこその戦法。

 一方で、部屋の配置を知らない玲央ではカウンターも難しい攻撃だ。

 どこの部屋がどこにつながっているのか。

 それを一目で理解するには、この建物は広すぎる。

「……?」

 玲央は違和感を覚えた。

 ――薫子の拳だ。

 パンチを打った姿勢のまま戻らない拳。

 しかも、なぜか玲央には彼女の手の甲しか見えない。

 拳を突き出した状態にしては、腕の向きが不自然だ。

 まるで――()()()()()()()()()()()()()()()()

「や……べっ……!」

 慌てて飛び退く玲央。

 直後、薫子の拳が爆発した。

 比喩表現ではなく、彼女が握り込んでいた手榴弾が起爆したのだ。

「ちょっと不自然でしたね」

 薫子は千切れた右手を見るとため息をついた。

「それとも躱されることを見越して。爆発音で鼓膜を破裂させる爆弾のほうが良かったですね。うふふ。肝心なところで判断ミスだなんて、わたくしはやっぱり愚図ですね」

 彼女は薄笑いを浮かべると、回復用の爆弾で手首を再生させる。

「一発目が手首ごと爆破ってエグすぎねぇか?」

「治りますから」

「現実主義だな」

 玲央は思う。

 金龍寺薫子もまた、ある意味で()()()()()()()()()()()なのだと。

 彼女は切り捨てて良いものと駄目なもの。その区別ができすぎている。

 もしも彼女に自己保身の心があったのなら、まだ可愛げもあっただろう。

 自分さえ使い潰してしまう彼女は、玲央の目にも異常に映った。

「――――はぁ」

 玲央は乱暴に頭を掻く。

「無理だぜ悠乃。こいつを説得とかマジで無理だ」

玲央は自嘲した。

 彼はどこか悲しげな表情で薫子を見ている。

「なぁ……悠乃」


「こいつを殺したら――もうお前は戦わないでくれるのかね」


 玲央の手中でサーベルが月光を反射する。

 静かな光が薫子の頬を照らした。


「重ねた嘘は、守るべき真実のために。重ねた真実は、最期の嘘のために」


「――――《彩襲形態(オーバーコート)》」


「《顕現虚実・夢(オールレフト・)幻迷子(リライト)》」


 玲央VS薫子、寧々子は今章でのラストバトルとなる予定です。


 それでは次回は『虚実』です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ