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もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
7章 もう一度ここから始めよう
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7章 13話 魔女狩り

 玲央VSリリス、雲母、寧々子です。

「ぎにゃ……!」


「うにゃ……!」


「死ぬにゃん……!」


 美珠邸の庭園に苦しげな悲鳴が響く。

 声の主は寧々子だ。

 現在、彼女はすさまじい攻撃にさらされていた。

 ――味方からの。


「にゃーにゃーうるさいニャン」

「誰のせいにゃん!?」

 寧々子は犯人――リリスに向かって叫ぶ。

 リリスの魔法は殺人ウイルス。

 致死性のウイルスを霧のように扱う魔法。

 その持ち味は広範囲への無差別攻撃。

 対して寧々子の戦闘スタイルは未来視を活かした格闘戦。

 そうなれば、寧々子が巻き添えを食らいそうになるのは必然だった。

 とはいえ、こういう場合は意図的に密度を落とした場所を作って味方を巻き込まないように配慮するのがセオリーなわけで――

「隣で小学生が頑張ってるのに、二十歳過ぎたオバサンがわめくとか恥ずかしくないワケ?」

「すがすがしいくらい横暴にゃん!」

 もっとも、そんな気遣いをリリスがするはずもないわけで――

 寧々子はちらりと隣を盗み見た。

 そこには雲母が立っている。

 彼女の体には一切の傷がない。

 だが――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 《表無し裏(フェイトロット・)無い(タロット)》。

 確率で攻撃を反射する彼女の魔法。

 それによってすべてのウイルスを弾いているだけなのだ。

 さすがに彼女と比べられては勝ち目がない。

 寧々子の場合は、ウイルスが掠っただけで死ぬのだから。

「ていうか、さっきからニャンニャンニャン……キャラかぶってるんですケド」

「一回しか使ってない癖に古参ヅラされた!? しかもなんかアタシがパクったみたいな空気にされてるにゃん!」

 悲しいほどに理不尽だった。

 寧々子は肩を落とす。

「随分仲良さげだな」

「「「………………」」」

 男の声。

 寧々子たちの視線が彼――加賀玲央に集中する。

 トロンプルイユと名乗る《怪画(カリカチュア)》。

 魔王を除けば最強であろう《新魔王軍》の主戦力。

 彼こそが、寧々子たちの対峙するべき敵。

「……最近の子は、『いじり』と『いじめ』の境界が分かってなくて困るにゃん」

「そうか。てっきり、いじめられていると思ったんだけど、どうやら間違いだったらしいな。嫌よ嫌よもなんとやらか……ドン引きだな」

「変態認定されたにゃん!?」

 寧々子は悲鳴をあげた。

「――泣いても良いかにゃぁ」

「背後からイジメられてニャンニャン鳴く猫耳。なるほど――」

「もっと純粋な悲しみを背負ってるにゃ! そんな変質者的な感じじゃないにゃん!」

 寧々子は猛抗議するが、玲央はフムフムと頷くだけだった。

 話が通じている気がしない。

「あ、そういえば」

 玲央が寧々子を指さす。

 そして彼は――忠告した。

「後ろにウイルス来てるぞ?」

「ぎにゃぁ!」

 慌てて寧々子は横に跳ぶ。

 ――見えたのだ。

 ドロドロに泡立って溶ける自分の体が。

「にゃにゃにゃ……! 敵の忠告に救われたにゃん……!」

 激しく脈打つ心臓を押さえ、寧々子は大きく息を吐いた。

 一方、リリスは舌打ちをして玲央を睨む。

「ちょっとサァ。敵に塩を送るとか、ふざけてるワケ?」

「むしろアタシはリリスちゃんが真剣なのかを問いたいにゃん!」

 寧々子の悲痛な叫びだった。

「…………ハァ」

 リリスがため息を漏らした。

 そして彼女の目が寧々子に向けられる。

「やっぱさ、寧々子はここいなくて良いと思うんだヨネ?」

「ナチュラルに邪魔者扱いされたにゃん……」


「まあ、真面目な話。あっちに行ってて欲しいんだケド」


 一瞬だけリリスの目がある部屋を示す。

 ――マリアがいる部屋だった。

 現在、彼女は療養中だ。

 玲央が彼女を襲撃したとしても、マリアは負けないだろう。

 しかしあの体調で戦えば、権能の回復も遅れる。

 魔王ラフガとの戦いが控えている以上、致命傷につながりかねない。

「――二人でやるにゃん?」

「問題あるワケ?」

「……分かったにゃん」

 今、屋敷には薫子、イワモン、マリアがいる。

 3人は《正十字騎士団》においても重要な――組織の()()()()()()といって良い存在だ。

 迎撃も大事だが、彼女たちを安全な場所に連れだすことも重要だ。

(元々、拠点を移すっていう話もあったにゃん)

 ここは美珠倫世が住む家だ。

 すぐに場所が露見することは分かっていた。

 だから寧々子たちも別の拠点を見つけることは考えていた。

 ――今がそのタイミングなのだろう。

「じゃあ、後で合流ってことで問題ないのかにゃ?」

「そーゆーコト」

 そうリリスが言った。

 彼女は寧々子を追い払うかのように手を振ると――

「てわけで、さっさと行けバ? ――このままじゃ、ミスって殺しそうダシ」

 ――わりと理不尽な言葉を投げかけられた気がする。

「いやぁ……なんか『アタシを巻き込まないように攻撃してた』的な雰囲気出さないで欲しいにゃん。普通に、アタシが死ぬ気で避けてないと二桁単位で死んでるにゃん」

「ハ? 充分手加減してるんだケド? 見えないように少しずつ感染させたら簡単に殺せるって分かってるワケ?」

「殺意高いにゃん!? もはやそれじゃ巻き添えじゃなくて狙い撃ちだと思うにゃん!」

 全力で言い返すが、寧々子の言葉などリリスに届きはしないだろう。

「ふにゃぁ……」

 精神的な疲れからか大きなため息が出た。

 このまま逃げて泣き寝入りしたい気分だがそうもいかない。

 ここにいるのは寧々子と彼女だけではないのだから。

 寧々子はもう一人の仲間――雲母へと意思確認する。

 彼女が視線を向ければ、雲母は首肯した。

「寧々子さん」

 彼女はいつものように言う。

 いや。いつもよりその目には強い思いが宿っているように思える。

「問題ない」


「三人より二人。人数が減れば、死ねるかもしれない」

 

 雲母は小さくガッツポーズをして寧々子は見送る。

 見た目だけならば、仲間を安心させようとしているように見えるが――


「雲母ちゃん……それ……逆に安心できなくなるにゃん」

 

 寧々子は額に手を当てて嘆息した。

 とはいえ、両者からの承諾を得たのも事実。

 大局を思えば、マリアを優先すべきなのも事実。

 ならば、寧々子がここを離脱するべきなのもまた事実なのだろう。

「雲母ちゃん。後で場所はメールするからケータイ壊しちゃダメだからね……! リリスちゃんじゃ不安にゃん」

 寧々子はお節介を焼く。

 彼女たちに『無事でいて欲しい』とは言わない。

 寧々子は大人で、彼女たちは子供。

 しかし仲間であり、場所は違えど修羅場を潜り抜けてきた者同士。

 対等な関係であり、互いの実力を正しく認識しあっている。

 だから無事でいてなんて言わなくていい。

 言わなくても、彼女たちは無事に戻るだろうから。

「問題ない」

 それに雲母は応えた。

 まっすぐな瞳で。


「もしケータイが壊れても……ネットニュースで、()()()()()()()()()()()()()っていう記事が出た場所に来てくれたら……また会える」


 ……………………。

 …………………………………………。


「それ……超不安にゃん……」


 もう少し、平和的な目印が欲しかった。


 玲央VSリリス、雲母は3話くらい続くと思います。


 それでは次回は『幻』です。


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