7章 11話 姫騎士VSメイド隊
仲がいいのか分からないメイド隊戦は続きます。
「あららぁ?」
アッサンブラージュは声を上げた。
彼女の前には大穴が開いている。
それは、彼女が倫世を殴り飛ばしたことで作られたものだ。
「あんまり美人さんだったからぁ、ムカついてぶん殴っちゃいましたぁ☆」
アッサンブラージュは舌を出すと、頭を軽く小突いた。
彼女は将軍ではない。
しかし彼女には一つの特化した能力がある。
パワー。
あるいは筋力。
あの肉体から放たれる一撃は、ラフガを除けば《新魔王軍》最強。
「出てきませんねぇ」
巻き上がる砂煙は倫世の姿を隠している。
「大丈夫ですかぁ? それとも、殴られてブサイクになっちゃいましたぁ?」
「――――《多重層魔障壁》」
砂煙の中から倫世が姿を現した。
彼女は――無傷。
倫世の胸元には六角形の障壁が浮かんでいた。
「? あのバリアはアージュ先輩の馬鹿が砕いたんじゃ――」
「誰が馬鹿ですかぁ?」
「あ、馬鹿力っす」
メディウムはアッサンブラージュから目を逸らす。
音の外れた口笛を吹きながら。
「悪いけれど、この《魔障壁》はさっきまでのとはまったくの別物よ」
倫世は立ち上がる。
体にダメージはないようだった。
「《多重層魔障壁》は666枚の《魔障壁》を重ねた絶対防御。馬鹿力で突破できると思わないでちょうだい」
倫世の手中に鎗が現れる。
彼女は身を反らしそれを――投擲した。
射出される投鎗。
「おっと……! 当たらねぇって!」
その標的になったのは――メディウム。
しかし一直線の飛来物など、身軽な彼女にとって苦労する攻撃ではない。
彼女は軽いステップで鎗の軌道から逃れるが――
「曲がった……!」
鎗がカーブした。
――メディウムを追うように。
「やば――!」
「《想い寄せ》」
追い詰められたメディウムを救ったのはアッサンブラージュ。
彼女が生み出した黒球は鎗を吸い寄せ、軌道を強引に修正した。
「ナイス! アージュ先ぱ――」
「あ。こっちに来ちゃいそうですぅ。解除しまぁす」
「やめろぉぉぅぅぃっ!?」
――もっとも、中途半端なタイミングでアッサンブラージュが能力を解除したせいで、危うく脳天を貫かれそうになったメディウムだったが。
脳天強打を恐れないブリッジで回避するメディウム。
彼女は頭に走る痛みで涙目になりながらアッサンブラージュに抗議する。
「アージュ先輩、保身早すぎっ! 後輩の命と自分の命どっちが大事なんすかぁ!?」
「うるさいですよぉ。死ねば静かになりますぅ?」
「物騒だなぁ!?」
とはいえ、やられっぱなしではいられない。
メディウムは倫世と対峙する。
「このまま舐められっぱなしじゃ終れねぇよな!」
「……別に舐めていないけれど」
「舐められてるんだよ! 先輩に!」
「それ……私は関係ないと思うんだけど」
そう言いつつも、倫世も剣を構える。
アッサンブラージュの能力のせいで飛び道具は無意味と判断したのだろう。
だが、白兵戦ならメディウムの得意分野だ。
「破ァッ!」
メディウムは二本の青龍刀を取り出し、構えた。
両刀。そして、片足を上げた構え。
そこから繰り出されるのは――
「せぁッ!」
猛烈な――蹴り。
鋭い一撃が空気砲のように倫世へと叩きつけられる。
――だが倫世は動じない。
左手の籠手で軽く防いで見せた。
しかし――
「らぁッ!」
独楽のような円舞と共に繰り出される斬撃。
二本の青龍刀が竜巻となり倫世を襲う。
「アタシはシズル先輩みたいに巧くないし、アージュ先輩みたいに馬鹿力じゃないし、キリエお嬢みたいに速くもないけどッ!」
「!」
「アタシは、全部持ってる!」
青龍刀の独特な形をした峰を巧みに使い、メディウムは倫世の剣を――引っ掛けた。
そのまま回転の勢いで倫世の手から剣を弾き飛ばす。
攻勢に転じるメディウム。
そのスピードは、倫世に武器を再顕現させる余裕を与えない。
放たれたのは――ハイキック。
豪快な蹴りが《自動魔障壁》ごと倫世の顔面に突き刺さる。
メディウムは特化した力はない。
だが、すべての能力が二番手クラス。
総合力ならば彼女もまた強者だ。
「危ないわね」
それでも、最強には届かない。
ヒットの直前に反応したのだろう。
倫世の右手が、メディウムの足を捕えていた。
しかし――
「危ねぇのはこれからだっての」
「《永遠の絆》」
「……!」
メディウムの能力が発動した直後、倫世は異変に気がついたのかわずかに驚いた表情を見せた。
「――離れない?」
「アタシの能力は瞬間接着。今、アタシの足と、アンタの手はくっついちまってる」
「アージュ先輩ほど重くねぇけど、動きを止めるには充分だろ」
こうして、メディウムは倫世をこの場に縫い止めた。
「《想い寄せ》」
そして、再びアッサンブラージュが飛び道具を使えない空間を生み出す。
彼女はメディウムの意図を察しているのだ――
「ここでメディウムさんが死ねば、どっちが重いかなんて分からないですよねぇ?」
――伝わっている……はずだ。
「――――終わりです」
シズルの声が聞こえた。
彼女がいるのは――倫世の背後。
それに倫世が反応しようとするが――
「そっち向くんじゃねぇよ……!」
メディウムが足を引くことで、倫世を振り向かせない。
彼女の足は、倫世の右手とつながっている。
そうなれば倫世は迎撃の構えさえ取れない。
「《貴族の血統》」
シズルを狙って放たれる刀剣の嵐。
刃の一斉射撃は――力を失って地面に落ちる。
アッサンブラージュの能力により、進行方向とは逆へと引き寄せられ――失速したのだ。
逆に、シズルは吸引力を追い風にして加速する。
そうして倫世は無防備な体勢のままシズルを迎え撃つこととなる。
突き立てられるナイフ。
《自動魔障壁》が発動するが、今回は勢いが乗っていたこともありシールドは砕けた。
そのまま――
――切っ先が倫世の首を突く。
メディウム「アタシは、全部持ってる!」
アージュ「でもぉ、おっぱいと知能は持ってないですぅ」
メディウム「……まぁ~あ? アージュ先輩みたいな体重も持ってないっすけどぉ?」
アージュ「…………今すぐ、命も持っていないようにしてあげたいですぅ」
リリス「ところでさ――なんで666枚なワケ?」
倫世「え?」
リリス「700枚作れなかったワケ?」
倫世「つ、作れるけど……」
リリス「じゃあ何で作らないか気になるんだケド」
倫世「ま、魔力の節約……です」
リリス「34枚って誤差だと思うケド」
倫世「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
それでは次回は『剣閃の姫騎士』となります。




