7章 10話 我ら魔王様のメイド隊
魔王城での戦い一戦目です。
(意外な伏兵ね)
姿が露見してなお倫世に動揺はなかった。
彼女が纏っていたのは、自身の姿を周囲に溶け込ませる衣裳。
気配を消す技術そのものは倫世自身が培ってきたものだ。
とはいえ、技術はどこまでいっても技術にすぎない。
相手が悪ければ発見されることは想定していた。
もっとも、それができるのならばそういう能力持ちか、かなりの――将軍クラスの実力者だと考えていたのだが。
(正直、見覚えがないわね)
目の前にいる女性は《前衛将軍》ではなかった。
であれば倫世が見つかったのはマグレか。
それとも、彼女が表に出ていないだけの実力者だったのか。
(最近になって魔王軍に合流した《怪画》かしら)
倫世は後者と断定する。
別に外れていたところで損はない。
予想が外れていて敵が弱かったのならば一瞬で終わらせるだけ。
簡単なことだ。
「《貴族の血統》」
倫世の手に双剣が現れる。
三人の態度から考えると、一番の実力者は真ん中にいる黒髪の女性――シズルだ。
故に彼女から――獲る。
しかし――
「……!」
「あら」
響く金属音。
倫世が振り抜いた双剣は二本のナイフによって防がれていた。
当然、ナイフの持ち主はシズル。
彼女は一瞬にして懐からナイフを取り出すと、正確に双剣を止めたのだ。
「《救済の――》」
防がれたのならば、このままナイフごと敵を断つ。
そう決め、倫世は剣に魔力を込めた。
だが、シズルは手首を返して双剣を弾く。
――鍔迫り合いの最中だったこともあり、倫世の体勢が崩れる。
「終わりです」
シズルはコンパクトな動作でナイフを振るう。
鋭い切っ先が倫世の首筋を狙うが――
「防ぐほどの攻撃じゃないわ」
倫世の首元に六角形のシールドが出現し、ナイフを止めた。
《自動魔障壁》。
倫世が編み出した、オートで発動する結界だ。
これがある限り、一定以下の威力しかない攻撃ではどうあがいても倫世を殺せない。
そして――シズルのナイフに《自動魔障壁》を貫く威力はなかった。
「身を隠す理由はもうないわね」
倫世は換装し、桜色の鎧を纏う。
《純潔の乙女の鎧》。
彼女の魔力を回復魔法に変換し、自動治癒を行う鎧。
倫世がもっとも信頼する鎧でもある。
彼女の思考が暗殺から殲滅へと切り替わる。
「《円環の明星》」
一瞬の出来事だ。
ほんの刹那の間で倫世の周りに7本の剣が展開され、目にも止まらぬ速度で周回する。
衛星のように回転するブレードが城の廊下を斬り裂いた。
「どわぁ!」
「なんですかぁ……!?」
離れた位置で戦場を見ていたメディウムとアッサンブラージュが慌てたように頭を下げる。
あれだけの間合いがあったおかげで、彼女たちは何とか反応できたらしい。
しかし間近で食らうこととなったシズルは――
「一本逝きましたね」
シズルの手からナイフがこぼれた。
ナイフの刃は綺麗な切断面を覗かせている。
(ナイフ一本を犠牲にするだけで《円環の明星》を初見で逸らす、ね)
大体理解した。
シズルの強さの根源は――技巧。
武器を取り扱う圧倒的技術。
それが彼女の強さを支えているものだ。
(なら近距離で戦う必要はない)
接近戦で戦うのは愚策。
そう判断し、倫世は武器を取り換える。
選んだのは――ライフル。
拳銃でも構わないが、今回はさらに間合いを大きくとる。
ゆえに射程の長いライフルが最適。
倫世は――二丁のライフルを構えた。
どちらも片手で撃てるように細工されたライフルだ。
現役時代から使っていた銃。
いまさら外すわけもない。
「アージュ先輩!」
「分かってますよぉ」
この事態に反応したのはアッサンブラージュ。
彼女は胸の前で両手を構えた。
何かを抱えているかのような動作。
その理由は――すぐに分かる。
「それが能力かしら?」
「そうですよぉ?」
アッサンブラージュの手元に現れたのは黒い球体。
その正体は分からない。
止めるべきか。それとも、安易に手を出すのはかえって危険か。
分からないからこそ――無視した。
それに対する彼女の反応で能力を見極める。
――倫世はシズルに向かって射撃した。
放たれる二つの弾丸。
それはシズルの体を――貫かない。
「! 弾道が――」
弾の軌道が変わった。
不自然に弾道が歪曲し――アッサンブラージュの付近に着弾。
「これは《想い寄せ》。私の能力ですよぉ」
黒い球体。
周囲の物体を吸い寄せるという性質。
それはまるで小型のブラックホールだ。
手元に作っている時点でブラックホールほどの吸引力はないのだろうが、飛び道具を無効化するには充分な吸引力だ。
「能力で吸い寄せてぇ」
吸引力が増大する。
それに伴い、倫世の体が床から離れた。
「……!」
黒球が巻き起こす吸引の風に踊らされる倫世。
空中では思うように身動きが取れない。
彼女の体は風に流されアッサンブラージュへ向かう。
その終着点では――
「《怪画》最強のパワーでミンチにする」
アッサンブラージュが拳を構えていた。
「それがわたしの戦い方なんですよぉ」
放たれる剛腕。
それは容易く《自動魔障壁》を砕き、倫世の胸に打ち込まれた。
ラフガを除けば、アッサンブラージュはパワーにおいて《怪画》最強です。
とはいえ、攻撃力でいえばキリエの絶対切断やギャラリーの空間転移の応用による切断もありますし攻撃力最強ではないんですけど。
それでは次回は『姫騎士VSメイド隊』です。




