表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度世界を救うなんて無理っ  作者: 白石有希
7章 もう一度ここから始めよう
169/305

7章 5話 《彩襲形態》

 《新魔王軍》強化回です。

「――――持ってこい」


「「「はい」」」

 ラフガ声を上げると、扉の向こう側から声が聞こえた。

 重厚な扉の向こう側から現れたのは、3人のメイドであった。

 整った顔立ちの3人。彼女たちは表情を一切変えることなくカートを押している。

 カートには何かが乗せられているのだが、上からかぶせられた布のせいでその正体がつかめない。

「――魔王様」

「良い。下がれ」

 ラフガの前にカートを移動させると、メイドたちは頭を下げて去ってゆく。

 彼女たちが扉の向こうに消えると、ラフガはカートにかけられた布を掴む。

 そのまま彼は乱暴な動作で布を取り去ったのだが――

「「「…………!」」」

 そこにあった物体。

 玲央たちは予想外の代物に驚きの声を漏らした。

 それは――

「レディメイド。奴は、なかなかに役に立ったらしいな」

 ()()()()()()()()()()()

 それらはそれぞれ青、赤、黄色の光を放っている。

 あのキャンバスは魔力の保管庫だ。

 そして、あのキャンバスはレディメイドが使用したものであり、その中にはそれぞれ蒼井悠乃、朱美璃紗、金龍寺薫子の魔力が込められている。

 レディメイドが戦死した日。

 彼は彼女たちから魔力を奪い、キャンバスを城へと持ちかえらせることに成功していた。

「魔法少女の魔力を取り込むことで、お前たちを魔法少女に――善なる存在へと近づける」

 ラフガはそう言うと、黒い籠手を身に着けた。

 彼が持つ能力は《基準点(オリジン)》だ。

 その効果は魔法の無効化。

 素手で彼がキャンバスに触れば、すぐに砕け散ることだろう。

 ゆえに彼は籠手越しにキャンバスを持ち上げる。

「魔法少女としての力を手に入れたのならば、魔法少女として女神の恩恵を受けることができる」

 ラフガはキャンバスを覗き込むと、カートへと戻した。

「選べ。お前たちに好きな力を与えてやろう」

 並べられているのは三色のキャンバス。

 対して、この場にいるのは4人だ。

 玲央たちが意図を計りかねていると――

「心配せずとも良いぞグリザイユ」

 ラフガはグリザイユへとそう言った。

「お前はすでに魔法少女としての因子を持ち、運命の補正を受けづらくなっている」

 

「故に、()()()()()()()()()()()


「!」

 ラフガは言った。

 己の力をグリザイユに渡すと。

 おそらく完全な譲渡ではないだろう。

 それこそ、今から玲央たちへと施すように魔力を利用した強化と考えるのが自然。

 それでもなお不自然だ。

 魔王ラフガが、わざわざ己の力を分け与えるなど。

 それほどまでにエレナを――グリザイユを重用しているということか。

 徴用、というべきなのかもしれないが。

「…………ギャラリー。君が先に選びなよ」

 そうキリエは頬を膨らませながらギャラリーに言った。

 どうやら、グリザイユが贔屓をされているように見えて拗ねているようだ。

「そう」

 一方でギャラリーはそっぽを向いたキリエを気にすることなく歩き出す。

 そこにあるのは当然、魔力が充填されたキャンバスだ。

「アタシは……これにするわ」

 ギャラリーが選んだのは青――()()()()()()()()()()

「あ、取られた」

 などと玲央はおどけてみせる。

 そのまま彼がキャンバスに歩み寄ろうとすると――

「?」

 キリエに袖を掴まれた。

「? 先に選んで良いんじゃねぇのか?」

「うん。やっぱお前は駄目。アタシが先に選ぶ」

「……へいへい」

 ここでゴネると後で面倒だ。

 玲央は肩をすくめる。

 キリエがキャンバスを選ぶ。

 それは赤――朱美璃紗のキャンバスだ。

「じゃあ、オレはこれで……っと」

 玲央は黄色――金龍寺薫子のキャンバスを手にした。

 これで、三人ともがキャンバスを選んだこととなる。

「良かろう」

 それを確認したラフガが頷く。

「胸にキャンバスを構えろ」

 ラフガの指示に玲央たちは従う。

「それでは――始めようか」

 次の瞬間に起こった現象に対し、玲央たちは反応もできなかった。

 ラフガの腕が、順番に彼らの心臓を貫いたというのに。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なッ……」

「お父、様……?」

「……このっ」

 驚きに目を見開く玲央。

 事態を理解できずにきょとんとした顔をしているキリエ。

 今にも反撃しそうなほどの怒りを覗かせるギャラリー。

 三者三様の反応は、一瞬にして統一される。

 ――跳ね上がった魔力によって。

 三人の体から魔力が迸る。

 それだけではない。

 感じる。

 己の存在が昇華されてゆくのを――

「それが――《彩襲形態(オーバーコート)》だ」

 ラフガがそう言った時、玲央たちの存在が一つ上のステージに上がった。


「《虚数空間・(スペースホロウ・)氷天魔女(アイシクル)》」


 ギャラリーが纏っていたのは――花嫁衣裳だ。

 ()()()()()()()()()()()()

 それはまるで《花嫁戦形(Mariage)》のようだった。

 彼女は手に握られているサファイアがあしらわれたステッキを不思議そうに見つめている。


「――《挽き裂かれ死ね・魂狩(カット&ペースト・)りの大鎌(クラック)》」


 キリエの手中で巨大な大鎌が顕現した。

 その大きさは彼女の鉤爪をも越え、3メートル近い。

 彼女の肩からはボロ布のようなマントが流れている。

 その姿はまるで、人間の魂を刈り取る死神だ。


「《顕現虚実・夢(オールレフト・)幻迷子(リライト)》」


 玲央の周囲にはピエロの仮面が浮かんでいる。

 周回するピエロは嘲笑う。

 はたして嗤われているのは世界か己か。

 薄気味悪さを感じさせる力だった。

 

「これ……すごい」

 キリエは自身の掌を見つめる。

 分かるのであろう。

 彼女の魔力が増大していることが。

「すごい、すごい、すごいっ! やっぱりお父様はすごいッ!」

 子供のようにはしゃぐキリエ。

 いや。今の彼女は子供なのだろう。

 父親からプレゼントをもらってはしゃぐ子供だ。


「次はお前だ」


 一方でラフガはこちらに目もくれない。

 ただグリザイユへと歩み寄り――心臓を打ち抜いた。

 これまでのようにキャンバス越しではない。

 あのまま彼女の胸に注がれるのはラフガ自身の魔力。

「ぁ……」

 瞬間、爆発が起きた。

 違う。爆発と見紛うほどに強烈な魔力の奔流だ。

 その魔力の上昇率は玲央たちを越えている。

 灰色の渦に消えたグリザイユ。

 彼女が現れた時――

「お姉さま……?」

 ギャラリーが驚きの表情を見せる。

 それも無理のないことだろう。

 グリザイユの姿はあまりに様変わりしていた。


「――――《灰の覇王(グランドグレイ)――――――覇道血線(グリザイユ)》」


 そこにいたのは()()()()()()()()()()()()()()()

 170センチを越える長身。

 成熟した身体は露出の多いドレスに似合っていた。

 変化はあるが、纏う気品から誰かは分かる。

 そこにいるのはグリザイユだ。

 魔王グリザイユは断食によって体の成長が止まっていた。

 ――おそらく、今の彼女はその遅れを取り戻した状態。


 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()


 詳しい能力については今章のバトルパートで見せられるかと。

 全員が、それぞれの魔法少女に対応した新能力を身に着けています。


 ちなみに大人バージョンのグリザイユは《彩襲形態》時のみです。

 彼女は『魔法少女としての基本能力』『《怪画》としての基本能力』『《花嫁戦形》』『《彩襲形態》』という風にかなりインフレした能力を手にすることとなります。

 とはいえ、女神陣営におけるグリザイユ的立場にある薫子が『魔法少女としての基本能力』『《花嫁戦形》』『《女神戦形》』そしてもう一つ覚醒が用意されていると思えば妥当な強化なんですが。


 それでは次回は『我らが女神に栄光の架橋を』です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ